「ホテル」
それはまったく、陰鬱なホテルだった。通常の意味において陰鬱なホテルというのは、そのホテルの景観であるとか、立地条件などいわば外部的な要素によってそう見えるものであるのだが、そのホテルはいわば、その概念自体が陰鬱であった。
薄暗いロビーにはこの世のあらゆる不幸を体現したようなフロントマンが立っており、僕に部屋の鍵を渡してくれた。僕はこのホテルに1週間ほど缶詰となり締め切り間近の原稿を仕上げることになっていた。
僕はエレベーターの壁にもたれながら、やれやれ、ここに1週間も滞在するなんてな、と深いため息をついた。
部屋の照明はもちろん薄暗く、壁にもカーテンにも、ベッドにも、机にさえ淡い影がそのまま染み付いているかのようだった。
さて、と僕は思った。これから僕は陰鬱なホテルの薄暗い部屋でティーンの少女たちに向けた雑誌のコラムを書かなければならない。まさか彼女たちも、こんなこの世の終わりのような場所からファッションや流行の最先端に関するメッセージが届けられているとは思うまい。