「ベル」
「みんなクソ食らえだ。」
そう言って彼はまたコンクリートの車止めを靴の踵で蹴り付けた。そんなことをして何になるでもないだろうと思ったが、それは彼にしてみたところで分かり切ったことだったのかも知れない。僕たちは大学の4回生で、午後の講義をサボってキャンパス近くの街をブラブラと散歩し、駐車場の隅にしゃがんでコーラを飲みながら煙草をふかしていた。当分の間大学を卒業できる見込みもなく、グルグルとした日常の袋小路の中で、当てのない日々を彷徨っていた。
「みんなクソ食らえだ。」
彼はまたそう言って、今度は靴の踵が取れるんじゃないかというぐらい強くコンクリートを蹴り付けた。
「彼女のこと?」
「全部さ。」
もちろん彼に結婚するつもりなんて無かったし、彼女もそれは承知の上だった。二人の関係は行き場のない日々の一環に過ぎなかったし、どちらにとってもそれはどうでもいいことなのかも知れなかった。
「そろそろ行こうか。」
「一体どこへ?」
キャンパスから講義の終わりを告げるベルが聞こえてきたが、それはどこか遠い国で行れる戦争の銃声のように、僕らの耳にはどこかよそよそしく届いた。