かわぞうの小説集「官能小説・ひとりごと・etc」 -7ページ目

「ソープの女~美沙~」七

「おお…。」



女のなめらかな舌と、暖かい粘膜に包まれ、客は悦楽の笑みを浮かべて声を漏らす。



客の反応は、他と比べてもかなりいい方だ。溜まっているのだろうか。美沙は自分の口の中で、客のモノが早くも脈打ってビクビクし始めたのを感じ、これはいつもより早めにモノを舐めるのを中断してベッドに移動したほうがいいなと思った。間違って溜まったものを口の中に出されてはたまらない。



一旦、客のモノから口を離し、舌を出して始めの時と同じようにモノの側面をチロチロ舐めてやる。完全に育ちきってそそり立ったモノは、これ以上激しく刺激したら爆発してしまいそうな勢いだ。



本番では、どうなのだろう。すぐにイってくれるのだろうか。そうであれば助かるのだが。体力的にも、精神的にも、客が早くイってくれるのは美沙にとって大歓迎である。



(さて、そろそろかな…。)



美沙は舌を動かしながら、客の表情をチラッと見てタイミングを見計らう。



もういいだろう。



「さ、じゃあベッドに行きましょうね。」



そう言って美沙はモノを舐めるのを止め、勢いよく湯船から出てベッドの側に行き、客の体をタオルで拭く用意をする。



夢うつつの恍惚とした気分を引きずりながらも客は立ち上がり、湯船を出て、タオルを持って待ち受けている美沙の前に行く。



美沙はそこで手際よく客の体中を拭いてやり、拭き終わると、



「はい、じゃあベッドに寝てくださいね~。」



と客に言い、濡れたタオルを使用済みタオル用のカゴに入れた。



そして、いよいよ本番に…しかし、ベッドの上の客を見ると、寝ていない。寝ててくれと言ったのに、あぐらをかいて座っている。



「あ、そこに寝てください。いいですから。」



美沙は内心イラッとしながらも、できるだけ穏やかな口調で言う。すると客は、



「いや、オレ最初に責めたいんだよね。お姉さんがここに寝てよ。」



と言ってベッドの表面をポンポンと手で叩いた。



(はァ?なにメンドクセーこと言ってんだテメーは!)



美沙はそう言いそうになるのを抑えるのがやっとだった。美沙の眉間にシワが寄り、全身から苛立ちのオーラがにじみ出る。



(アタシの客はアンタだけじゃねーんだぞ…これから先も長いのに、ヘタにアタシの大事なとこを消耗さすんじゃねーよ。お試し感覚で来た客のテクで感じるほどアタシは飢えてねーんだ。時間の無駄なんだよ。何分の予定で入ったか、ちゃんと覚えてんのか?アンタはさっさと入れて、出すもの出しゃいいんだ!)



みるみるうちに、その顔は紅潮し、目尻が吊り上がってゆく。



けれども努めて声をやわらげ、



「いや、時間も短いからさあ…のんびりしてらんないよ?ここはアタシに任せてくれない?」



と言ったが、ほぼ無意識のうちに片足を前に出し、両手をそれぞれ腰に当てた姿勢で言ったため、我知らず下燃ゆる怒りが異様な迫力となって背後から醸し出てきて、鈍感でマイペースなこの客にも、さすがに感じるものがあったらしく、客は少しうろたえながら、



「えっ、何?なんか怒ってる?なんでそんなにイラッとしてんの?」



と言って美沙の真意をうかがった。



「ワケわかんねえな…。」



部屋の空気がピンと張りつめる。



美沙はハァッとため息をつき、



「だからさあ~こういうとこに来たら女の子に任せときゃいいんじゃない?そのほうがスムーズにいくし、女の子に嫌われずにすむよ?」



と言った。一瞬、あたしはどうしてこんなに苛立っているのだろう?と白々しい思いが美沙の脳裏をよぎる。だが、こうしてちょっとのことでイラつくのも、そんな自分を馬鹿らしく思うのも、いつものことだ。珍しいことではない。もっとも初めての客からしたらビックリすることかもしれないが、それはこちらの知ったことではない。



(むしろ、いい機会じゃない?相手の気持ちも考えるって意味で勉強していきなさいよ…。)



相手を見下ろし、傲岸不遜に居直る気持ちが美沙の中で激しく増長してゆく。




流れだ。流れを外部の余計な意志の力で止められ、自分の仕事のペースを乱されたのが気に入らないのだ。見知らぬ男との安い交わりなどチャッチャと済ませて、すぐに水と泡とともに洗い流して忘れてしまいたいのに、何故それを邪魔するのか。



面倒くさい。



鬱陶しい。



消えてほしい。



「なんだよ、仮にもサービス業だろ?あんた、ちょっとワガママなんじゃねえのか?」



客が負けじと反撃してきた。その目にも怒りがこもっている。



それを見た美沙の闘志に、とうとう火がついた。