かわぞうの小説集「官能小説・ひとりごと・etc」 -196ページ目

官能小説「放課後の夜」三十

奈津子の中で、その時一番大きな割合を占めていたのは性的感覚よりも母性であった。

(波川くん…。)

その舌を唾液でぬめらせ、時には伸ばし、時にはくねらせ、絡み絡めて涙に濡れる良雄の恋心を慰める。

良雄の中で発酵しながら蓄積されていた性への妄執が、奈津子の濡れた舌先に誘われて暖かな母性へと吸い込まれてゆく。

わだかまりが消え去って、かつての興奮は安楽へと変わり、苛立ちは陶酔へと変わる。

良雄はついに全てから解放され、悦楽の海を忘我の境地でゆったりと泳ぎ回っていた。

(ありがとう、先生…。)

心の底から癒やされていく。

ようやく二人はお互いを理解し、溶け合ったのだった。

やがて涙も乾き、目と目で頷くと、二人は衣衣の余韻に浸りながら、恋に染まった口づけを夢と記憶の中に収めた。

穏やかに見つめ合う二人。

乱れた髪を手で直し、奈津子が優しく微笑んだ。

「 さあ…もう帰んなきゃね、波川くん。 」

もう日が暮れかけているのが部屋の中でもわかる。

良雄は急に寂しくなった。

(先生、ひょっとして、もうこれっきりなんですか…?)

そう言いたいが言えない。まだ性の入り口に立ったばかりの良雄は、奈津子の思いやりの籠もったキスに胸がいっぱいになってしまっていた。

「 外は暗くなっていくから、気をつけてね。 」

奈津子が帰るよう促す。

(先生…)

良雄は複雑な表情を浮かべながら、おずおずと歩き出した。

出入り口の前で、振り向いて奈津子を見る。奈津子は微笑んだまま、小さく手を振ってくれた。が、それには応えず、部屋を出る。

出入り口を閉め、良雄はとうとう現実だけが待つ世界に戻った。外でカラスがカア、カアと鳴いているのが聞こえる。

もう帰るしかない。良雄は仕方なく歩き出した。と、長い廊下の向こう、玄関に通じる廊下と十字に交差しているところに、スラリと背の高い女生徒が鞄を下げてこちらをじっと見ていた。

遠目からでも、良雄にはそれが誰であるかわかった。

(竹村涼子…!)