若い女には、夏がある。
陽炎のように燃え立ち、まばゆい光とともに過ぎ去る、その刹那の季節。
だが、年を重ねた女は、幾たびも夏をくぐり抜けた庭のようだ。
灼ける陽射しも、夕立の湿りも、濡れた風も、汗に沈む夜の静けささえ、その身に宿している。
たとえば、午後の濃密な陽射しのなか、ふと見せた横顔に、男の胸に古い欲情の記憶が蘇ることがある。
低く囁く声には、夏草の匂いが溶け、指先の所作にさえ、湿った翳りがにじむ。
そのすべてが、若さにはない、艶と影を湛えている。
肌はもはや張りつめてはいない。
だが、その柔らかな緩みと微かな皺には、男の孤独を蕩かす深い影がある。
香るのは香水ではない。時間という名の熱を含んだ匂い――
熟れた果実が裂ける直前に放つ、秘めやかな芳香である。
やがて、彼女の胸元に顔を寄せたとき、ふと立ちのぼるのは、湿り気を帯びた官能の香。
熟れた葡萄のような柔らかな果実が、白い肌の上にひっそりと実っていた。
唇をそっと重ねれば、かすかな熱とともに、甘やかな味と香りが静かに舌へと広がっていく。
その果実を指先でつまむと、彼女はわずかに肩を震わせ、耳元で囁く――「噛んで…」。
その言葉に応えるように、軽く歯を当てて甘く噛みしめる。
その瞬間、彼女の吐息が胸元で弾け、身体の奥からじんわりと熱が伝わってくるのを感じた。
舌先で、熟した実のまわりをゆっくりと円を描くようにたどり、
その中心――最も敏感な頂を、時間をかけてしごくように味わう。
香り、舌触り、そしてかすかな塩気を含んだ体温。
それらすべてが、五感を包み込み、男の意識を深く静かに奪っていく。
彼女もまた、味わわれる悦びに身を委ね、ゆっくりと息をゆるめながら、自らの重みを預けてくる。
それは、ただの接触ではない。
前菜からメインディッシュへと、時間をかけて丁寧に味わう静かな饗宴。
若さにはない、熟した女だけが纏う「重さ」と「深み」。
それが、成熟という名の官能なのだ。
