1 - 2 文化の伝達と想像力の増幅
言語、つまり言葉と文字を得た人間は『社会』を複雑にし、
『社会』は『文化』を育て『文明』を築いた。
ところで、人間の社会とは何だろうか。
そもそも社会とは、同類の仲間が持続的に一つの共同空間に集まっている状態、
またはその集まっている構成員ないし彼らの間の結びつきをいう。
社会は必ずしも人間だけのものではない。
先述したサルやイルカに限らず、
象や鹿、ガゼルなどの草食動物、
これを捕食するハイエナやライオンなどの肉食動物、
海を渡る鳥類や海の中の魚たちも、
アリやハチなどの昆虫でさえも、
彼らは群れの中でのルールを持ち、
群れ全体としての行動のあり方がそれぞれの種や集団の中にある。
つまり、社会がある。
では、私達人間の社会が特別に動物と違う点はあるのだろうか。
単に社会という意味では、この違いはない。
人も動物も、もしかしたら植物でさえも、
同種・同類の集まりには社会があると言えるのかも知れない。
では、『文化』とは何か。
『文化』を辞書で引くといくつかの項目が出てくるが、
ここで指す『文化』は、
1800年代後半に英国のエドワード・タイラーが定義したものである以下に近い。
すなわち、文化とは、
知識、信仰、芸術、道徳、法律、慣習、および人間が社会の一員として獲得したすべての能力と習慣を含む複合体である(E.B.Tylor『原始文化』1871年)。
これらは、社会つまり一つの共同空間に集まった構成員たちが、
それぞれの主義主張のもとに考えや感性を持ち寄り、
心を豊かにしたり、
軋轢を回避したり、
苦痛から逃れたりするために生み出されたされたのである。
この『文化』の定義を改めて見ると確かに、人間らしさの特徴と言える。
もちろん冒頭で述べたように、
他の動物の感覚・感性はその動物自身でないと完全に分かることはないので、
実は動物の中で彼らの『文化』があるかもしれないことは否定できない。
しかし、やはり人間の『文化』が生み出したモノ・コトは、
他の動物よりも複雑かつバリエーションに富んでいるものと感じるのは、
人間である私たちから見ると自然である。
『文化』は複雑に発展し、言語をもって展開され引き継がれることによって、
変化を伴って時間・空間的に拡散していく。
この時に、あるもの同士が組み合わさり、また合成して新たなものが作られていく。
これは精神的、物質的なものが発達していくことにある。
つまり、宗教で言うところの物語の緻密化や、
国家の法治的な確立、
哲学の深化や技術の発展などの結果をもたらしたのだ。
こうして、現在の『文明』世界がある。
『文化』は言語を起点に発展してきた。
これは、まるで生物が遺伝システムによって自身の生存する術を子孫に残すように、
『文化』もまた、
その社会に属する構成員や社会そのものを介して世代をわたり伝わっていく。
これは異なる言葉では
『ミーム(meme)』と称される。
『ミーム』とは、「脳内に保存され、他の脳へ複製可能な情報」を言う。
『ミーム』は複製、伝達、変異を伴うため、遺伝システムと同様に
「進化」が起こる。
つまり、人間は『ミーム』を得たことによって、
遺伝システムとは別ルートの情報伝達方法を手に入れたのである。
世界各地で似たような神話や慣習、祭りがあるが、
原始的なものから複雑化して発展した経緯が見える。
法律や技術など、そのほかの『文化』も伝達に伴って進化する。
これによって『文明』が発達してきたと言えるだろう。
人間は『言語』により『ミーム』を手に入れた。
『ミーム』は世代を超えた「集団知」である。
集団知は想像力を大幅に増幅させる。
集団であることによって、たくさんの知性の集まりから、
新たなより優れた知性が誕生するのだ。
これにより文化をより緻密に進化させてきた。
3人で物語を作るよりも、
1000人でアイディアを出した創作物の方がより複雑で、
かつ、より多くの人の心に最大公約数的に共感を得る。
文化すなわち
知識、信仰、芸術、道徳、法律、慣習、
その他の能力や習慣は集団知によって発展を遂げ、
私たちの生活を物質的にも精神的にも豊かにしてきた。
次回は、信仰についてです