【ライフラインの耐震設計指針】

特に地中埋設線状構造物(トンネルとか管路とか)は、それぞれに耐震設計指針があります。

水道、下水道、ガスといった具合に、分かれて存在します。

管路の場合、耐震設計指針というのは、それぞれの事業者団体様の設計方針ですから、事業者団体様ごとに指針があるのは、しごく当然のことです。日本瓦斯協会様、日本水道協会様、日本下水道協会様などですね。

ところが、ライフラインが地上構造物と決定的に違うのは、地震時の管路の応答(挙動)が、実はよく分からない事です。

基本的な考え方は、地上構造物とは違って、地中線状構造物は地震時の加速度や地震動の周波数に支配されるのではなく、地盤の変形に支配されるという事です。したがって、採用されている、管路の応答計算法は、「応答変位法」と呼ばれる方法です。

 

【地震波】

地震波には、よく知られているように、P波、S波、(この2つを実体波と言います)、表面波(ラブ波とレイレー波がありますが)で構成されていて、震源から発せられる時は同時出発なのです。しかし、伝播速度という、いわば走る速度が種類によって違いますし、実体波と表面波では伝達経路も違います。ややこしいですね。

P波は粗密波と言って、波の進行方向に振幅を持っています。音波と同じです。

S波はせん断波と言って、波の進行方向に直角な方向に振幅を持っています。

これら、実体波は、震源から放射状に発せられると想定しています。

 

それで、スネルの法則というのがありまして、地中を伝わる実体波は、密度の異なる層の境界で屈折を繰り返して、地表面近くに到達するときには、波の進行方向は、ほぼ真下から真上に向かっています。

P波の方が、伝播速度が速いので、地震を感じられた方は、最初突き上げられるような振動だったと感じられませんか?

P波だからなのです。

でも、P波は、そんなに構造物には影響しません。

 

次に来るのが、S波です。これは、感じられている「横揺れ」なんです。

地上構造物は、この横揺れによって壊れるようで、主に水平方向への地震外力を対象として、設計しています。

 

最後に到達してくるのが、表面波です。

地震の最後の方に、ゆらゆらと揺られて、船酔いみたいな気分になるやつです。これは、本当は複雑なんですが、ざっくりとイメージで言うと、地表面に沿って伝播してきます。地震波の時刻歴をみても、おおむねsin波に近く、振幅は大きいですが、波長と周期が長いです。「長周期地震動」ってのが、これだと思います。

 

【応答変位法とは】

地中線状構造物の場合は、地盤の変形に応じて、管路が変形するという発想で、耐震設計しています。

これは、図1に示すような、「弾性床上のはり理論」に基づいています。この理論のもとは、地上に設置された線路(レール)の挙動を解釈するモデルです。これを、地中管路に適用したのです。

                          図1

 

地中での管路は、「弾性床」という弾性体に「地盤ばね」というばねを介して接続されているとモデル化しています。

図1では、地盤ばねは等間隔で付いているように見えますが、計算式上は連続して付いているとイメージしてください。

この地盤ばねが、管路と地盤との静的相互作用をあらわしています。

地震がくると、地盤が変形しますが、それをこのモデルの弾性床の変形として与えます。

地盤ばねは、地盤と管路との間の静的な相互作用特性を示していると言えます。

 

地震時の地盤の変形は、時々刻々と変化しますが、地中に埋設されている管路は、その質量が、同じ容積の地盤と比較してかなり小さいために、地震時には地盤とは異なる固有の振動を起こすことがありません。これは、数式上でも証明されています。

そこで、時々刻々と変化する地盤の変形ですが、一瞬、写真を撮るようにストップさせて、その時の管路の挙動を求めます。これを、「疑似静的応答解析法」と言います。

 

【地震波動という想定】

図1に示している、地震波動ですが、管路の耐震設計指針では、このようなsin波状の波が管路の軸に沿って伝播してくると想定しています。これを、「地震波動」と言います。

この地震波動の想定方法が、ややこしいです。

図2のように、S波が管路に対して、斜め45度の入射角で入射してくると想像しています。

S波は、本来ギ材ギザの波形ですが、設計上は正弦波(sin波)と仮定します。スネルの法則から言うと、斜め45度で入射してくるはずがないのですが、このように想定しています。

 

                              図2

 

分かりにくい図で申し訳ございません。

図中に入射波動(SH波)とされているのが、想定しているS波です。

で、管路の部分の変位成分ですが、UhというS波の振幅を持っています。これを、管路の軸方向成分UAと軸直行成分UTにベクトル分解します。そうすると、図中の管路の下に記されているように、管軸直角方向成分の波と管軸方向成分の波に、分解できるわけです。これを、管軸方向に伝播する見かけ波動(地震波動)と呼んでいます。この地震波動が管路に沿って時々刻々と伝播するわけですが、疑似静的応答解析法の考え方で、写真で撮影するように、時間を止めて、その時の地震波動の変形を求めて、これを静的に管路に作用させて、管路の応答を解くのが、応答変位法になります。

 

【地盤の変形を表す地盤ひずみ、そして耐震安全性照査】

地震波動のうち、管軸直角方向成分は実は管路には大きな影響をもたらしません。なぜなら、多くの管路は曲げやすいからです。

したがって、管軸方向へ振幅を持つ地震波動により、管路は損傷すると考えて良いです。

この時の地盤の変形を表す量が「地盤ひずみ:εG」と呼ばれています。

図2の管軸方向に伝播する地震波動では、εG=π・Uh/Lとなります。波動論で言うと、εG=V/Cとなります。Vは地盤の運動速度、Cは波動の伝播速度です。Vはどんなに早くても1m/sで、Cはどんなに遅くても100m/sですから、εGは1%をこえることはありません。耐震設計上、地盤ひずみの割り増し係数を考慮しますが、これは耐震設計指針の方針ととらえてください。

「ひずみ」というのは、たとえば長さLの棒があって、左端を固定されているとします。この右端を引っ張って、⊿だけ棒が伸びたとすると、棒単位長さあたり(長さ1あたり)、⊿/Lだけ棒が伸びてます。これが、ひずみεです。

では、εGの地盤ひずみが生じたときに、管路はどうなるのかですが、応答変位法では式はややこしいですが、「伝達係数:α」というのを考えて、管路のひずみεpを、εp=α・εGとして計算します。αは理論的に、1以下です。この値は、管路の軸方向への伸縮のしやすさ(引張り剛性と言います)と地盤ばねの大きさで決まります。ほぼ、α=0.9ぐらいでしょうか。

このεpと管路材料の許容ひずみ:εaとの大小関係で、耐震安全性を照査しています。許容応力:σaはご存じでしょうが、フックの法則によって、σa=E・εaです。Eは管路材料の線弾性係数(ヤング率)です。

 

【結局何か】

いろいろと述べてきましたが、管路の耐震設計には多くの仮定が含まれています。しかし、耐震設計指針というのは、この方法論で管路の安全性を照査しておけば、実際の地震時にも、そんなに大事にはならないだろうという、方針であると私はりかいしております。

 

おわり