『殺し合う家族』
『殺し合う家族』の文庫が、
立て続けに重版されている。
本作品は、実際に起きた日本史上最凶最悪の
『北九州一家監禁殺人事件』
をモチーフにしたものだ。
2002年(平成14年)3月に北九州市小倉北区で発覚した監禁、
殺人事件である。
監禁した家族に殺し合いをさせ、幼い子供にまで
親の殺人や遺体解体を強要したという、
世界的にもほとんど類をみない残虐な事件で、
あまりの残虐さに、第一審で検察側は「鬼畜の所業」と
主犯の松永被告と緒方被告を厳しく非難した。
本作品の執筆を依頼されたときに、
さすがの俺も悩んだ。
小説の題材にするにはあまりにも悲惨な事件であり、
遺族の方々の心境を考えると、軽々しく執筆依頼を
受けるわけにはいかなかった。
これまでにも、『無間地獄』『溝鼠』『カリスマ』などの
鬼畜小説を何作も書いてきたが、それらがフィクションなの
にたいして、この作品は実話をもとにしているので、
気持ちの上で覚悟のレベルが違った。
なので、依頼があってから数年は
やり過ごしていた。
結果的に執筆することにしたのは、
当時の担当編集者の、
「これだけの凶悪事件をモチーフに書き切れるのは
新堂さんしかいない。事件の異常さ、卑劣さを世の人々に
広め、この事件の凄惨さをみなが忘れないように
伝えてください」の言葉に心を動かされたのだ。
いまだから言うが、執筆時は相当に精神的にきつかった。
裁判資料や報道記事を読み返していると、
被害者家族を虫けらのように弄び殺す「悪魔の所業」から
眼を逸らしたくなった。
実際には、マスコミで報じられている以上にひどい
犯罪が行われており、俺は、少しでも真実が伝わるように
必死にパソコンを打ち続けた。
遺族の方々が納得いくような作品に出来上がったか
どうかはわからないが、俺としては「狂気の悪魔の行い」を
全力で書き切った。
読んでいる人の気分が悪くなり、怖気を奮うような文章になっているが、
じっさいに被害にあった家族の恐怖や苦しみは想像に絶する。
事件から10年。被害者家族のご冥福を祈ります。
合掌。