安倍晋三氏の自民総裁三選を受けて、
「安倍総理の任期中にデフレ脱却が実現するか？」
という話題を慶応大学関係者の土居丈朗さんが、岩田規久男氏の論考(*2)を歪めて紹介(*1)しているように感じました。
土居丈朗さんはマクロ経済のご専門ではないかもしれませんが、
“前日銀副総裁の岩田規久男氏（Voice10月号）は、物価が上がらない要因は社会保障負担の重さであるとみる。13年4月以降、超金融緩和策を続ける下で、インターネット購買の増加でネットで買えるモノの価格が下がる「アマゾン効果」などで家計の実質所得が増えても、長期的にも物価が上がりにくい要因に着目。実質雇用者報酬は、安倍政権前の12年度と比べ16年度は2.8%増加したが、実質的な税・社会保障負担が10.7%も増加した。実質可処分所得が増えないので消費に向かわず、物価上昇につながらない。岩田氏は、現役世代の将来不安を払拭する必要性を説く。”(*1)
”物価が上がらない要因は社会保障負担の重さであるとみる“(*1)と土居さんは書かれていますが、岩田規久男氏の論考(*2)を見ると、次のように書かれています。
「重い税・社会保障負担のために、実質可処分所得が増えない現役世代は、保育、教育、住宅ローンなどのための重い負担に加えて、退職後の生活費のために節約に励まざるをえない。そのため、「アマゾン効果」などによって増えた実質所得は消費に向かわず、貯蓄に回される」(*2, p.58)
※ここでは2012～2016年度の可処分所得を基に論考を書かれているようです。
「現役世代の税・社会保障負担を増やすことなく、彼らの実質可処分所得を増やさなければならない」(*2, p.59)
と述べられ、消費増税の影響についても言及されています。
ところが、財政審のメンバー(*3)に名を連ねる、土居丈朗さんは、消費増税には触れずに「社会保障負担の重さ」「アマゾン効果」が物価上昇を阻む要因のように、読者の目を誘導しているように感じます。
土居丈朗さんといえば、2014年4月の消費税率引上げ後の消費落ち込みを、消費増税の影響ではなく、野菜不足(人手不足などの供給制約)とご発言(*4)された方と同姓同名です。
岩田規久男氏の論考(*2)に戻りましょう。
“「リフレ・レジーム」を毀損したのは、十四年四月からの消費増税と十九年十月に実施が予定されている消費再増税である。［中略］消費増税で壊れた「リフレ・レジーム」を再構築すべきである。このリフレ・レジームの再構築なくして、日銀が現在の金融政策を続けても、二%の物価安定目標の達成はきわめて困難である。”(*2,p.61)
と述べている。
ところが、土居丈朗さんは(財政審「メンバー」なので大人の事情があるかもしれませんが)、社会保障負担の重さにだけ触れて、消費増税と将来の消費再増税が毀損してしまったリフレ・レジームに触れず、物価目標達成のために「岩田氏は、現役世代の将来不安を払拭する必要性を説く」とするのはミス・リードと言えるでしょう。
岩田規久男氏は次のように結んでいます。
“日銀は「地域金融機関の経営が一層困難になるから、今後、徐々に金利を引き上げざるを得ない」との考え方に基づいて金融政策を運営するのではなく、金融庁と協力して(役割分担上、金融庁が主導しなければならない)、地域金融機関の再編成と新陳代謝の促進を進めることによって、金融システムの安定化を図り、金融政策運営の自由度を確保すべきである(*2,p.62)
デフレ脱却を阻む緊縮財政による、現在と将来の不安、それを取り除くには政府・財務省・日銀の更なる改革(財務官僚や日銀のみなし官僚などの「痛み」(メンツを失うことや天下り先への影響力低下など)を伴う改革)で、国民の経済厚生改善を目指すべきでしょう。
そして、大手メディアなどで繰り返されるデマや悪質な印象操作と戦う必要性を感じます。
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(*1)保護主義にどう対応するか: 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO35874640Y8A920C1MY5000/
(*2)VOICE(ヴォイス) 2018年 10 月号
(*3)財政制度等審議会委員名簿 : 財務省
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/soukai/member.htm
(*4) 「ノーモア野菜不足」
⇒ https://ameblo.jp/shinchanchi2015/entry-12170016967.html