慶応大学関係者の土居丈朗さんが、興味深い記事を書かれていました。


安倍首相「PB黒字化でアルゼンチンは債務不履行になった」と | COMEMO

https://comemo.io/entries/3127 


問題設定を疑う必要性を感じる記事ですね。


慶応大学関係者で、財務大臣の諮問機関「財政制度等審議会」のメンバーでもある土居丈朗さん。

土居さんは一貫して財政健全化の重要性を唱え、ノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ氏に英文レターで(統合政府で債務を見ることや政府債務と日銀資産の国債を相殺できるとする)誤りを指摘すれば良い、と言われて、「やってますよ」という主旨のご発言をなさっておられた方です。

世界の一流の経済学者とコミュニケーションを取れるのは流石です。


2014年夏の消費落ち込みは消費増税の影響ではなく、人手不足や野菜不足など供給側の問題とご発言なさった(後に浜田・本田両内閣官房参与と共演された番組では消費増税による実質可処分所得減をお認めになるという潔さも併せ持つ)土居丈さん。一度は消費増税の影響は無いとされながらも、ファクトを重視なさるからでしょうか、その後はご自身のご発言を修正なさっています。


このようなプロフェッショナルのご発言

「財政再建を無理に進めても経済成長ができなければ、身もふたもない、と言いたかったのかもしれない。

しかし、アルゼンチンの話は、本当にそうなのだろうか?アルゼンチンの債務不履行の真相に迫る」

とありますが、素人一般人の私は「今の日本にとって重要な問題」にこそ興味があるので、そこに迫ってみます。


ポイントは

1)アルゼンチンの債務不履行(デフォルト)と日本のそれとを同列に比較してはいけない

2)PB黒字化は目指さなくとも日本の財政は健全化しつつある

3)PB黒字化に力を入れ、緊縮策を推し進めるとかえって国債残高対GDP比が増えてしまう

4)マクロ経済政策の失政という人災で、約20年も名目GDP成長率ゼロ近傍でデフレだった日本に必要なのは、緊縮策ではなく拡張的な財政金融政策


この4点です。



1)アルゼンチンの債務不履行(デフォルト)と日本のそれとを同列に比較してはいけない


欧州債務危機などが起こった際は

国債のデフォルトが懸念され

「日本がギリシャになる!」

などと時の総理大臣も述べておられたようです。

アルゼンチンやギリシャと日本を比較して、何か意味があるのでしょうか?


結論から言えば、素人は混乱するだけなので、専門家のご意見を参考にしましょう、となります。


“日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか。”

『外国格付け会社宛意見書要旨 : 財務省』

http://www.mof.go.jp/about_mof/other/other/rating/p140430.htm


日本の財務省が、自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない!と力強く宣言なさっていますね。

日本国債の安定消化に日夜ご尽力なさる財務省の方々には頭が下がります。

ところが、いたずらに日本国債の危機をあおる方々も散見され、残念でなりません。



アルゼンチンはドル建て債務、ギリシャはユーロ建て債務、日本は円建て債務です。

「自国通貨建て」という時点で、アルゼンチンは脱落です。ギリシャはユーロなので自国通貨建てのようですが、通貨発行権はECBにあり、自由に通貨発行して国債を買い取ることはできません。

日本は自国通貨建てで通貨発行権がある日銀がありますので、いざとなれば国債を買い支えることができます(財政法第五条 但書)。


“財政法第五条 すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。“


イェール大学の名誉教授、内閣官房参与でもある浜田宏一氏の記事が一般向けに分かり易いと思います。ぜひご一読ください。


日本がギリシャのように破綻しない理由:PRESIDENT Online - プレジデント

http://president.jp/articles/-/15909



2)PB黒字化は目指さなくとも日本の財政は健全化しつつある


これは、以下の記事に書かれてある通りです。


良い前提、悪い前提(財政再建版) | COMEMO 

https://comemo.io/entries/2670


英語の記事でも専門家が書かれています。

Japan's Fiscal Situation Is Not As Bad As Many Assume ( Masazumi Wakatabe )

https://www.forbes.com/sites/mwakatabe/2015/01/18/japans-fiscal-situation-is-not-as-bad-as-many-assume/?c=0&s=trending#4dfd5d0c1365



3)PB黒字化に力を入れ、緊縮策を推し進めるとかえって国債残高対GDP比が増えてしまう

4)マクロ経済政策の失政という人災で、約20年も名目GDP成長率ゼロ近傍でデフレだった日本に必要なのは、緊縮策ではなく拡張的な財政金融政策


PB黒字化するもかえってGDP成長率が下がってしまい、債務残高対GDP比が増加してしまった悲しい国の例がギリシャです。


財務省の資料3ページ目をご覧下さい。

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia280415/05-3.pdf


緊縮策が債務残高を増加させた、というテレビや新聞では聞かれない逆説的な記事をご紹介します。


デフレ脱却こそが国債累積問題の解決策である:オピニオン:Chuo Online : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/adv/chuo/opinion/20120501.html


この記事では

”年率1%前後で物価が緩やかに低下し続ける「デフレ不況」に日本経済は陥り、名目GDPに対する名目国債残高の比率は急上昇した。つまり、「政府が公共支出を切り詰めて増税し、日銀がマネーを絞ると、国債残高比率はむしろ増加する」という一見逆説的な結果が、過去20年間に日本で生じたのである(誤解を防ぐために補足すれば、このメカニズムと少子高齢化は無関係であり、また、国債は民間から見れば債務ではなく資産なのであるが)“

と緊縮策により債務残高が増加したことが述べられている。


更に

”20兆円規模の震災復興資金の日銀引受けをはじめとする政府と日銀の協定に基づく積極的な財政金融政策のポリシー・ミックスおよびインフレ目標政策によって、年率プラス2%程度のインフレ率とプラス4%程度の名目GDPの成長率(OECD諸国の過去10年間の平均並みに過ぎない)を維持してデフレ不況から脱却することが必要である。デフレ不況下の消費税増税はGDPの縮小をさらに促進して、日本の経済先進国からの脱落に手を貸すことになるであろう。原発問題についても言えることであるが、誤った政策がもたらす破壊的な結果に対して、その推進者も追随者も誰一人として責任をとろうとしないのが、日本という国なのである。“


と厳しくも正しい指摘がなされている。



いかがでしたでしょうか?

アルゼンチンのことを考えるよりも有益だと私は思います。


繰り返しますが、ポイントは

1)アルゼンチンの債務不履行(デフォルト)と日本のそれとを同列に比較してはいけない

2)PB黒字化は目指さなくとも日本の財政は健全化しつつある

3)PB黒字化に力を入れ、緊縮策を推し進めるとかえって国債残高対GDP比が増えてしまう

4)マクロ経済政策の失政という人災で、約20年も名目GDP成長率ゼロ近傍でデフレだった日本に必要なのは、緊縮策ではなく拡張的な財政金融政策


でしたね。


しかし、以下の記事に書かれていますが、権威の政治利用は、ノーベル賞受賞者に限った話ではなく、世界的な実績がない経済学者や市場関係者、有識者とされる人々などが「政治利用」されている可能性すらあります。

ご自分の目で確かめて見てはいかがでしょうか?

私は何の権威も無い一般人ですが(笑)


「権威の政治利用」の危険性はノーベル賞に限らない | COMEMO

https://comemo.io/entries/2902