ノーベル経済学賞を米シカゴ大学のリチャード・セイラー教授が受賞したことが話題です。ノーベル経済学賞に関する面白い記事がありました。


(*1)ノーベル経済学賞の権威、「政治利用」の危険性:日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22050670Z01C17A0000000/


”経済学の発展に貢献した学者たちの理論や主張に耳を傾ける価値は大いにあるが、受賞者は万能ではないし、経済や経済学に関する発言であっても経済学界を代表する見解であるとは限らない。受賞者の発言を過度に尊重したり、真に受けたりするのは危険でもある“(*1)


こういった危険性は何もノーベル経済学賞を受賞していない日本の経済学者にも当てはまることを暗に示しており、非常に価値があると思います


しかし、この記事では、日本の消費増税に否定的で、増税延期や消費減税などを主張する三人のノーベル経済学賞受賞者(シムズ、スティグリッツ、クルーグマンの各氏)を登場させており、その三人(というか消費増税に否定的な意見)に悪い印象を刷り込もうとしているようにも感じます



安倍官邸の幹部へ日本の経済学者(日本人の経済学者がノーベル経済学賞をとったニュースは聞いていません)が

これまで何度も財政出動をしてきた日本ではいまさら財政政策の議論をしても仕方がない。シムズ理論は筋が悪い」(*1)

と説明し、幹部は納得した、と。


その幹部の方は本記事を注意深く読み、教訓を得ていなかったので、

「発言を過度に尊重したり、真に受けたりするのは危険でもある」

という点を考慮せずに、日本の経済学者の発言を過度に尊重し、真に受けてしまったのではないでしょうか?


マクロ経済学を学ぶ目的の1つは、ジャーナリストや評論家や政治家にだまされないようにするためである」"(書籍 マクロ経済学基礎講義 <第3版>

http://amzn.to/292bWOl )

でしたね。


マクロ経済学では財政政策の他に、金融政策も重要な話題として登場します。日本の経済学者のお話には、残念ながら金融政策についての言及がありません。


黒田日銀よりも前の金融政策を振り返ると、バブルを弾けさせた三重野総裁に始まり、日銀法改正(改悪かもしれませんが)以降、速水・福井・白川の歴代日銀総裁は、結果としてデフレ維持を15年以上も続けていました。金融政策は緊縮的なスタンスであり、その下で拡張的な財政政策が実施されたことがある、というのが実情でしょう。


日本の経済学者が「これまで何度も財政出動をしてきた日本ではいまさら財政政策の議論をしても仕方がない。」と言っていますが、緊縮的な金融政策の下、財政政策を拡張的にしても効果が限定的となるのは、通貨の増価などを通じて財政政策の効果が限られてしまう(マンデル・フレミング モデル、ノーベル経済学賞をこれで受賞されたそうです)ことが知られており、拡張的な金融政策と拡張的な財政政策のポリシーミックスの効果を否定できていません。


マクロ経済学を学んでいない幹部の方は、拡張的な財政金融政策のポリシーミックスという情報を(ある意味)隠されてしまったのです。(ノーベル経済学賞を受賞していない「権威」によって)



この記事では、更に力が入っています。


「ノーベル賞受賞者の発言は正しい」との幻想を抱く日本人が多い限り、受賞者の権威が都合良く利用される危険性は常にある“(*1)


(スティグリッツとクルーグマンの両氏を指して)

”2人がマクロ経済に詳しいのは間違いないが、「日本の消費増税のタイミング」について語る資格があるのかどうか、微妙だと言わざるを得ない。“(*1)


さすが「世界的」な経済紙ですと、官邸が意見を傾聴した海外の経済学者に「資格」云々と言えるのですね。


しかし、これを日本の経済学者などの「有識者」に置き換えると、その多くが当てはまってしまうから驚きです


「有識者の発言は正しい」との幻想を抱く日本人が多い限り、受賞者の権威が都合良く利用される危険性は常にある、とも言えます。


「有識者」が「日本の消費増税のタイミング」について語る資格があるのかどうか、微妙だと言わざるを得ない、とも言えます。

消費税率8%への引上げ是非を問う、会合(*2)では、7割超の方々(*3)(*4)が、予定通りの消費税率引上げを主張されたそうです。


これを真に受けてしまったかは定かではありませんが、安倍晋三総理は消費税率引上げを決断してしまい、消費の停滞、物価上昇率の低下を招き、デフレ脱却が遠のいてしまいました。


(*2)消費税「予定通り増税を」7割超 政府の点検会合終了:日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXNASFS3101V_R30C13A8MM8000/


(*3)消費増税、有識者の賛否一覧表:日本経済新聞 

https://www.nikkei.com/article/DGXZZO59172150R00C13A9000000/


(*4)今後の経済財政動向等についての集中点検会合

http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/tenken/



7割超も同じような意見を集めてしまうと、バランスが悪いと思われかねません。「有識者」の人選には、とある「最強官庁」が影響を与えている、とお聞きしたことがあります。


このように意見が偏ることに警鐘をならす「有識者」もおられます。

慶応大学関係者の土居丈朗さんです。


「国際金融経済分析会合、16~17日に開催 スティグリッツ氏ら招く(日経新聞)nikkei.com/article/DGXLAS… スティグリッツ教授は反財政緊縮論唱える。反財政緊縮論者ばかり呼んで意見聞けば、結論が見え見えの八百長会合→拙稿」

https://twitter.com/takero_doi/status/707203211157868546


「スティグリッツ氏ら反財政緊縮論者ばかり読んで意見を聞けば、結論が見え見えの八百長会合」と舌鋒鋭いです。


この会合(*5)は、消費税率引上げを主張した「有識者」ではなく、ノーベル経済学賞受賞者などを招いて行われました。


(*5)国際金融経済分析会合、16~17日に開催 スティグリッツ氏ら招く:日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL08HB8_Y6A300C1000000/



土居丈朗さんのお言葉を7割超の「有識者」が予定通りの消費税率引上げに賛成した会議(*2)に当てはめると

消費税率引上げ賛成論者ばかり呼んで意見を聞けば、結論が見え見えの八百長会合」となります。

「最強官庁」が人選に影響を与えた可能性のある会合が、「結論見え見えの八百長会合」とも言え、目から鱗、示唆に富んだ貴重なツイートです。



ノーベル賞受賞者という「権威」がなくとも、「◯◯大学教授」や「有識者」、「財政審委員」、「◯◯新聞」などの「権威」ですら、「政治利用」(消費税率引上げの大合唱)される危険性がゼロとは言えませんね。


権威よりも発言の正しさや論拠を読者が検証出来る力をつけないと、危ないですね。


ノーベル経済学賞を受賞されたセイラー氏は「人間の合理性の限界や好みの違い、自制心の弱さが投資などの判断を左右することを理論的に実証」(*6)したそうです。


地位やポスト、補助金、租特などがチラついて、自制心が弱まり、日本経済のことなど余り考えずに消費税率引上げに賛成する人がいたとしても、不思議ではないのですね。


(*6)ノーベル経済学賞に米セイラー氏=「行動経済学」の先駆者:時事ドットコム

https://www.jiji.com/jc/article?k=2017100900491&g=int



日本経済新聞の記事、慶応大学関係者の土居丈朗さんのツイートなど、示唆に富んだ内容で、とても勉強になりました。