日本では、財政金融当局の政策に対して、マクロ経済の視点から正しく論じた記事はとても希少です。


素人ですがマクロ経済を学ぶ者として、消費税に関する問答(*1)が有りましたので、採点してみましょう。


"教師(以下T)「消費税率の引き上げについての考えを順番に述べなさい」

 学生A「むしろ税率を下げるべきです。家計所得が増え、経済が活性化して財政再建にもプラスです。自民党の若手議員がそう主張しています」

 T「税率を下げれば財政赤字が減るといううまい話はないね。君は『ただの昼飯はない』という経済の大原則を理解していない。成績はD(落第)だ」"(*1)


消費税率を上げれば税収が増えるといううまい話はないね。

消費税率を3から5%に引き上げた後、引締め的な日銀の金融政策、不充分な財政政策など緊縮策がとられた日本では、税収の源泉である名目GDPが約20年で1倍と伸び悩み、税収が低迷し、累積国債残高を増やしてきました。


"5%の消費税増税で見込まれる税収は13.5兆円(2.7兆円☓5)だが、これを先延ばしすることで財 政再建が頓挫するとは考えづらい。15年超続くデフレの中で名目GDPが横ばいの状況が持続することが問題"(*2)

と、日銀審議委員になられた片岡剛士さん。


伸び続ける社会保障費を累積国債残高増原因に挙げる記事などが散見されますが、マクロ経済政策の失政(政府・財務省・日銀)による名目GDPゼロ成長、「デフレ維持元」を20年余り続けてしまったことになります。

また、消費税率を上げる度に、駆け込み需要とその反動減、実質可処分所得の恒久的な減少が起こり、個人消費の成長トレンドを下方に引き下げて来ました。


愛読書(*3)の「はしがき」より

"「マクロ経済学を学ぶ目的の1つは、ジャーナリストや評論家や政治家にだまされないようにするためである」"(*3)


マクロ経済学、学んでおきたいものですね(^-^)


緊縮策がかえって債務残高を積み上げたことは、書籍「アベノミクスは進化する」(*4)の第6章、浅田統一郎さんの「デフレ脱却こそが国債累積問題の解決策である」(*5)をご一読下されば、より理解が深まると思います。


経済成長を軽視し、国債残高を累増させた緊縮策(消費増税)を取ろうとするTさんの評価はDですね。



"学生B「10%への引き上げは中止し、もっと経済状態が良くなるのを待つべきです。民進党代表選に立候補した枝野幸男氏がそう主張していました」

 T「日本は今、戦後2番目に長い景気拡大局面にある。最新データを踏まえていないので成績はCだ」"(*1)


Tさんが何を仰っているのか分かりません。

戦後2番目に長い景気拡大局面だから消費税率を10%に引き上げるべき、とでも仰りたいのでしょうか。

先ほど述べた通り、緊縮策によって、戦後最長の名目GDPゼロ成長を続けて来ており、少しばかりGDP成長したからといって、増税という緊縮策を取るべきではありません。緊縮策が名目GDP成長を押さえつけてしまうのでした。


Tさんの評価はEですね。

Tさん、頑張って下さいね。



"学生C「消費税を10%に引き上げ、増収分は全て社会保障や奨学金などの充実に使うべきです。増税が生活にプラスだということが分かれば、国民も支持するはず。民進党の前原誠司氏がそう言っていました」

 T「増収分を全て使ってしまったら財政は全く改善しないから、何のために消費税を上げるのか分からなくなってしまうね。増税から逃げない姿勢は評価するが、君は日本財政の深刻さを十分理解していないようだね。成績はBだ」"(*1)


社会保障や奨学金(学生ローンを給付型に変えるなど)への支出を増やすことは賛成ですね。

日本は、教育に関する公的支出がOECDで最低であるそうです。

しかしながら、財源を増税という緊縮策に求めてしまうと、かえって名目GDP成長を下押しして国債残高を累増させて来たのでしたね。


「増税が生活にプラス」とは学生さんもなかなかです。社会保障の持続性を上げるためという お題目で実施された「税と社会保障の一体改革」ですが、消費税率が8%に引き上げられて、安心して消費を増やしたでしょうか?

消費は増税後は停滞したまま(最近はやや上向き)ですね。


Tさんも負けていませんね。

「日本財政の深刻さを十分理解していない」と。


日本財政は深刻なので、日本政府債務の日本国債は、高い利回りにしないと買い手がつかず、何度もデフォルトし、通貨の信認もなくて…おっと、現実を見なくてはいけませんね。

日本国債は新発10年国債利回りで、0.020%( 2017年 09月 15日 終値 )だそうですし、国債のデフォルトも、通貨の信認も揺らいでいかせんね。危機の円買い(安全資産の円が買われ)など聞きます。

http://www.bb.jbts.co.jp/marketdata/marketdata01.html


日本財政の問題は、フローとストックに分けて考えられます。(真の問題は必要な政策に充分な支出をしない点にあると考えますが)


ストックに絞って述べます。


ストックの問題として、国債など日本政府の借金総額が大きく「借金1000兆円」などと言われます。


国債問題を考慮する際に大事な二点(経済学部生レベル)があります。


1)総額と純額を区別する

2)統合政府で考える


書籍(*3)の第9章 日本経済とマクロ経済学

から引用します。

"(4)経済変数の総額( gross value )と純額( net value )を区別する。特に,国債の問題を考察するときに,この区別は重要である。


(5)通常日本政府が公表する経済統計では,中央銀行である日本銀行(日銀)は,政府部門からは除外されており,民間銀行と同じ「金融機関」に含められているが,特に国債の問題を考察する場合,中央銀行を政府部門の一員とみなした統合政府(consolidated government)勘定の観点から考察することが重要である" (*3 220ページ)


これらを考慮して平成26年度末時点の日本財政をザックリ見てみます。


政府の連結バランスシートにある

負債:1,371兆円!

資産:932兆円!


債務総額 = 1,371兆円

債務純額 = 439兆円


連結決算から除かれている日銀保有の国債残高(269兆円)を政府債務と相殺する(「統合政府債務」と置きます)と…

「統合政府債務」 = 170 = 439 - 269

になります。


{6820F5FC-5182-4759-9B5C-5B4DE187FA02}


ちなみに平成27年度(*7)は

負債:1,423兆円

資産:958兆円

債務純額 = 465 = 1423 - 958

日銀保有国債(*8):349兆円


「統合政府債務 」 = 116 = 465 - 349


「借金1000兆円!」

だったのが

「借金116兆円!」

話半分どころか、まさに「桁違い」(笑)の金額です。


ここまで述べてきたことを経済学者の方やエコノミスト、経済の「専門紙」の記者さん等がご存知ない訳はない、と思います。


知っていて、報じないのは悪質ですが、知らないで記事を書いたり発言しているなら勉強不足ですね。


ということで、Tさんの成績はFです。



"学生D「予定通り2019年10月に10%に上げ、増収分はできるだけ財政再建に充てるべきです。再び増税を先送りすれば、財政不安は増大し、将来そのツケが自分たちに回ってくるのでは、と不安になります。先日のインタビューでも安倍晋三首相は予定通りの内容で消費税率を引き上げると言っていました」

 T「その通りだ。安倍首相が考えを変えなければ、首相も君も成績はAだ」

 学生たち「では、どんな答えならAプラスをもらえるのですか」

 T「これから先の財政を展望すると、消費税率を10%に引き上げても厳しい状況には変わりがないんだ。社会保障を中心に歳出を削減するとともに、少なくとも消費税率を15%へとさらに引き上げる必要がある。そう答えれば成績はAプラスだね」

 学生たち「でも、そういう主張をするような政党はありませんよ」

 T「そうだね。それこそが財政再建を進める上での最大の問題なんだよ」(隅田川)"(*1)


約20年も病気(デフレ、名目GDPゼロ成長)だったところ、ジェネリック薬(アベノミクス=世界では使い古された拡張的な金融政策と財政政策のセット)で、元気を回復しかけた時にフルマラソン(消費税率8%への引き上げ)、更に健康のために太平洋を泳いで横断(消費税率10%へ引き上げ)を予定通り実行するなんて、健康のために寿命が縮みそうです。


安倍総理は、デフレ下で10%への消費税率引き上げを決めた民自公の国会議員をはじめ、善意で増税多数派工作する団体となかまたちへの配慮からか、消費増税延期はギリギリまで言及しません。二度の増税延期では、衆院解散で延期、解散せずに延期としており、増税には慎重です。


Tさんは、消費税率の引き上げ(15%!自転車月まで行けそうです)、社会保障の歳出カットと緊縮策まっしぐらですね。

そして、学部生レベルで分かる視点での分析をせずに日本財政の危機を展望してしまっているように感じます。


そして、謎の上から目線…

態度が大きいので、Tさんの成績はLです。


でも、しっかり勉強して、拡張的な金融政策と財政政策を主張したり、社会保険料の未払法人が約80万社あるので歳入庁作って税と社会保険料を一緒に徴収して不公平を無くし、経済成長と併せて社会保険料の増収を図ることなどを学生に教えるようになれば、成績はAです。


Tさんの成績は、D, E, F, L ,A … 

DEFLATIONが悪いのですね。


様々なお仕事、お立場があるので、法人減税や租税特別措置、軽減税率適用、補助金などのアメ、国税による調査や特ダネや施策の説明資料(紙)をあげなどのムチ、を受けるのであれば

「財政クライエンテリズム」の罠

に落ちてしまいます。


マクロ経済学、海外や歴史に学び、変な議論にダマされないようにありたいものですね。


再分配であって欲しい社会保障を、低所得者ほど負担が重くなる(逆進性)社会保険料消費税で支えるという笑えない状況を変えて欲しいと思います。


消費税に関する論点は、次の記事が参考になります。


6・13 国会公聴会私が述べた消費税増税反対の10大理由 | 高橋洋一の俗論を撃つ! | ダイヤモンド・オンライン

http://diamond.jp/articles/-/20026?display=b



お読みくださり、ありがとうございました。



(*1) 消費税問答を採点する(大機小機):日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO21270070Z10C17A9EN2000/


(*2)消費税増税と日本経済 (片岡剛士,2013.08.27)

http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/tenken/02/shiryo03.pdf


(*3)マクロ経済学基礎講義 <第3版>

http://amzn.to/292bWOl


(*4)アベノミクスは進化する

http://amzn.to/2jb9iqK


(*5)デフレ脱却こそが国債累積問題の解決策である(浅田統一郎,2012.05.01)

http://www.yomiuri.co.jp/adv/chuo/opinion/20120501.html


(*6)教育への公的支出、日本また最下位に 14年のOECD調査:日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG12HD6_S7A910C1CR8000/


(*7)日本政府の連結バランスシート(平成27年度)

http://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2015/national/fy2015-renketsu.pdf


(*8)営業毎旬報告(平成28年3月31日現在)

http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2016/ac160331.htm/