久保田博幸さん(債券関係の方?)のブログが、良い教材になる。

(*1)[金融緩和で物価が上がらないなら財政でという安易な発想]

http://bullbear.exblog.jp/25983956/



タイトルからして…日銀の総括的な検証をご覧になっていないのでしょうか?


事実に即して、質問者2なりに見直すと


「QQEで物価は上昇した(2014年4月 コアCPIで + 1.5)が、緊縮財政の消費増税などで物価が下がりだし、その後のマイナス金利とYCCや現状維持決定会合はイマイチ。一番邪魔をした緊縮財政を何とかしようよ」という発想でしょうか。


「金融緩和で物価が上がらない」というのであれば、「総括的な検証(背景説明)」の補論図表6においてマクロ経済モデルによるシミュレーション結果を提示しているので、これを実証的に否定してから、言って欲しいものです。これをやったというのを見たことも聞いたこともないのですが、「物価が上がらない」というのは良くみかけます。



"日銀が現在行っている金融緩和策のバックボーンには、いわゆるリフレ派と呼ばれる人達の考え方がある。リフレーション(リフレ)とは、 中央銀行が世の中に出回るお金の量を増やし、人々のインフレ期待を高めることでデフレ脱却を図ろうとする金融政策のことを示す。リフレは通貨再膨張と訳されている。"(*1)


中央銀行の物価安定目標のコミットメントとそれを裏付ける金融政策(長期国債買入等)を日銀が実施している、と理解しています。

最近のコミットメントとそれを裏付ける政策が、不充分だとは思いますが。


そもそも「リフレーション」とは、何でしょうか?


リフレーションを提唱したのは、アーヴィング・フィッシャーが最初と言われているそうです。書籍などで、日本のリフレ派の方がリフレについてどのように仰っているかを見てみましょう。


"リフレ政策とは、物価を企業が非自発的失業者を吸収できる水準まで戻し、以後も、非自発的失業者が出ないように、物価を安定させる政策"

《デフレと超円高》(岩田規久男,2011)

http://ow.ly/3moYjB



"リフレというのはデフレの長期化で失われた名目価値のリカバリーとそれに伴っておきる実質経済成長率の増加&長期安定、雇用の改善を目指すこと"(抜粋)

(田中秀臣,2015)

https://twitter.com/hidetomitanaka/status/616389769237393408



スティグリッツは失業こそ人間価値の毀損を伴う最悪の事態のひとつであり、これを解消することが人間の幸福を促進することになると明言…人間的価値から失業を捉える見方は[中略]高橋亀吉や石橋湛山が採用した見方[中略]リフレ派の地下水脈をなす思想

《経済政策を歴史に学ぶ》(田中秀臣,2006)

http://amzn.to/1UeGpFy



"1. 政策レジーム・チェンジを通じて

2. 民間の期待形成に働きかけることにより

3. 実体経済における景気回復を促す政策

リフレーション政策ではインフレ予想と予想実質金利(事前実質金利)が重要な役割を果たす"


《インフレ予想とデフレ脱却 ~レジーム・チェンジの経済学~ 国民経済計算研究会》

(矢野浩一,2015.03.14)

https://dl.dropboxusercontent.com/u/2260564/2014/dsge/reflation_and_regime_change_2015_03_14_upload.pdf



物価安定と雇用環境改善を重視しているようですね。



では、先の記事(*1)に戻ります。


"ただしリフレ的な発想には暗に財政拡大も絡んでいる。政府は財政再建等を行わず、さらなる借金をしても(国債を増発しても)財政を拡大させ、その国債を日銀に引受させる格好で金融緩和を行い、それによって景気は拡大し物価も上がる。景気拡大による税収増によって借金は返済できるといった発想となる。これはいわばフリーランチ的な発想ともいえる。


 日本の債務がGDPの倍以上となっており、この数字そのものはまさに危機的な状況にある。ただし、政府は多額の資産も保有しており、実質的な債務はそれほど多くないとする意見もリフレ派にみられる。さらには日銀が保有している国債は、日銀が国の機関であるため相殺でき、債務をそれほど心配する必要はないとの意見もリフレ派からは聞こえる


 そうであればなぜ、欧米の国々が中央銀行の国債引受を禁止しているのであろうか中央銀行が国債を買い入れれば債務は実質増えないのであれば、税金など取らずに大量の国債を日銀に保有してねもらえば済むことである。なぜ世界の国々はそれをしていないのか。"(*1)


リフレ派に見られたり、リフレ派から聞こえる、とされていることは、実は学部生レベルの教科書を読めば分かることです。


学部生レベルと思われる以下の国債問題を考慮する際に大事な二点


1)総額と純額を区別する

2)統合政府で考える


これらを経済学者の方やエコノミスト、経済の「専門紙」の記者さん等がご存知ない訳はない、と思います。


知っていて、報じないのは悪質ですが、知らないで記事を書いたり発言しているなら勉強不足ですね。


以下の書籍「はしがき」より


"「マクロ経済学を学ぶ目的の1つは、ジャーナリストや評論家や政治家にだまされないようにするためである」"


第9章 日本経済とマクロ経済学


"(4)経済変数の総額( gross value )と純額( net value )を区別する。特に,国債の問題を考察するときに,この区別は重要である


(5)通常日本政府が公表する経済統計では,中央銀行である日本銀行(日銀)は,政府部門からは除外されており,民間銀行と同じ「金融機関」に含められているが,特に国債の問題を考察する場合,中央銀行を政府部門の一員とみなした統合政府(consolidated government)勘定の観点から考察することが重要である" (220ページ)


≪【本】マクロ経済学基礎講義 <第3版>≫

http://amzn.to/292bWOl

(著:浅田 統一郎,2016.06.01)



政府債務を日銀保有の政府債務と相殺する(後述資料の該当箇所 "Cancelling government debt owned by government (BOJ)")、という点は、スティグリッツ氏も述べています。


スティグリッツ氏がFacebookで、経済財政諮問会議に関する記事の内容を紹介しています。

https://facebook.com/notes/joseph-e-stiglitz/canceling-boj-owned-bonds-an-option-for-debt-stiglitz-says/1591668527513510/



"中央銀行が国債を買い入れれば債務は実質増えないのであれば、税金など取らずに大量の国債を日銀に保有してねもらえば済む"(*1)


というのはインフレ目標と両立できるのなら、OKです。

ただ、どこかの時点でインフレ率が2%どころか、トンデモないことに。だから、いつまでもやり続ける訳ではないと思います(汗



くだんの記事(*1)へ戻ります。


"ここまで国が債務を拡大しても全く問題なかったため、さらに財政を拡大させて国債残高を増やしても問題はない、と本当に言えるのか。日本政府の債務はそのほとんどを国民の金融資産で賄われているので問題ないといえるのか。政府が債務を放棄すれば我々の金融資産はどうなってしまうのか。"(*1)


ポール・クルーグマンは、通貨発行権があり、自国通貨立て国債、短期金利を操作できる中央銀行がある国の政府債務はデフォルトするロジックが分からない、という主旨の発言をされています。

質問者2も、分かりません。


政府債務が「危機的な状況」とか「政府が債務を放棄すれば」とか考えるのは自由かもしれませんが、前者は学部生レベルで分かる観点から誤りであり、後者は「太陽が無くなってしまったら、我々の生活はどうなってしまうのか」を考えることに似ています。




"そして政府による財政拡大で本当に税収が増えるのか。GDPギャップをそれでカバーできるのか。それはこれまでさんざん試してきたことではなかったか。税収を大きく増加できる財政政策は高度成長期などであればまだしも、低成長期にはかなり難しくなる。"(*1)


拡張的な財政政策 + 緊縮的な金融政策

拡張的な金融政策 + 緊縮的な財政政策

をさんざん試してきたのですが


拡張的な金融政策 + 拡張的な財政政策

で試してみると良いと思います。


緊縮策がかえって、債務残高を積み上げたことは、以下の書籍や記事をご一読下されば、良いかと。


書籍《アベノミクスは進化する》

http://amzn.to/2jb9iqK 

の第6章、


浅田統一郎さんの記事

デフレ脱却こそが国債累積問題の解決策である:オピニオン:Chuo Online : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/adv/chuo/opinion/20120501.html



"単純に財政を拡大すれば景気が回復し物価が上がるとの発想も、大胆な緩和で物価が上がるという発想とあまり変わりはない。結果は出ずに国の債務だけ増加し、日銀は出口も見えない状況に追い込まれ、世界第二位の市場規模を誇る日本の債券市場が機能不全に陥るといった状況が続く。政府もそろそろこのフリーランチ政策とは距離を置いて、現実と向き合った政策に修正すべきだと思う。"(*1)


債券ディーラーの方は、お仕事が減ったり、大変なようですね。

現実と向き合うのであれば、物価安定目標未達の今、更なる拡張的財政金融政策へ修正すべきですね(^-^)