新日銀審議委員の就任記者会見がありましたので、片岡剛士さんに絞って見てみたいと思います。

鈴木審議委員・片岡審議委員就任記者会見要旨

2017年7月25日(火)

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2017/kk1707b.pdf


(問) 初めに、審議委員就任にあたっての抱負を、それぞれお聞かせ下さい。


(片岡委員) 昨日、総理から辞令の交付を頂きまして、日本銀行政策委員会審議委員を拝命した片岡です。どうぞよろしくお願い致します。

私はこれまで 20 年間程、三菱UFJリサーチ&コンサルティングというシンクタンクで、研究員という形で、経済情勢ですとか経済政策について の調査を行ってまいりました。1996 年に入社しましたが、この時期はちょうどGDPデフレーターの前年比マイナスが定着しつつある時期でした。それから、 例えば完全失業率も、従来は 2%台だったわけですが 3%を超えて、その後 5% 台まで深刻化していく、そうした時代の入り口でした。そういう意味では、ロ ストジェネレーション世代の走りと申しましょうか、そうした時代背景の中で調査の仕事を始めました。その後、ご承知の通りデフレが続く中で、2013 年 4 月以降、黒田総裁のもと大規模な金融緩和が始まりまして、その結果、資産市場や失業率などの実体経済、経済状況は改善してきています。ただ、ご承知の 通り、政府と日本銀行が共同声明で締結している 2%の「物価安定の目標」については、現状は達成まで遠い状況です。

私自身、抱負ということで申し上げますと、今後は研究員の立場から変わりまして、政策委員会の一員として、日本銀行の様々なリソースを活用し ながら議論を重ねて、そして何としてでも、2%の「物価安定の目標」を達成 し、物価の安定を図ること、これを目指して色々な皆様方の力を借りながら、 議論を進めて実際の政策を実行してまいりたいと思っています。こうしたこと が、国民の皆様方の付託を通じ、国会議員の方の議決によって、審議委員という重い、非常に責任のある仕事を任された私の使命ではないかと感じている次第です



(問) 一部お話にもありましたが、今の日銀の金融緩和策についての評価、 とりわけ景気の改善にもかかわらず物価目標の実現がなかなか見通せないと いう、この現状についてもあわせて所見をお伺いできればと思います。


(片岡委員) 日本銀行は、2013 年 4 月の「量的・質的金融緩和」以降、2014 年 10 月の「量的・質的金融緩和」の拡大や、2016 年の 1 月「マイナス金利付 き量的・質的金融緩和」、それから昨年の 9 月の「総括的な検証」を経まして、 現在行っている「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」と、このような形で 2%の「物価安定の目標」の早期実現、これを目指して金融緩和政策を行ってきたと認識しています。こうした一連の金融緩和策は、黒田総裁からもお話が あった通り、名目金利の低下と予想物価上昇率の上昇を通じて予想実質金利を 引下げる、これが様々な経路を通じて総需要を高めて、実際の物価上昇率、こ れを 2%近傍に安定・維持することを最終的に意図していると思います。


ご質問のうち、これまでの金融緩和策の評価については、先程、鈴木 委員からもお話がありましたが、日本銀行法第二条では、「物価の安定を図る ことを通じて国民経済の健全な発展に資する」ということが謳われています。 景気の改善、これは 2013 年 4 月以降、進んでいると思いますが、これは私自身、日本銀行の金融緩和策の 1 つの成果であると思います。物価は実体経済を写す鏡ですので、もちろん現状不十分なところはあるかもしれませんが、兎にも角にも、失業率や資産市場等の好転の 1 つの起点になっていることは、私は評価していいのではないかと思っています。

他方、物価につきましては、先程も申し上げました通り、足許、予想物価上昇率がなかなか上がってこない状況です。ただ、更に最近ではやや上がってきているような、そんな印象も私個人はもっていますが、ともかく、2013 年 4 月以降、予想インフレ率はジャンプして、それに引きずられる形で、消費税増税の影響を除いた消費者物価上昇率や生鮮食品を除いたコア、こういった 指標が 1%台半ばに到達し、さらにエネルギーを除いたコアコアも 1%弱位の 伸び率まで復帰したことは、金融政策がうまく効いたということだと思います。

ただ、それ以降「総括的な検証」にもありますが、消費税率の引上げに伴う個人消費の低迷や住宅投資等々を含めた実体経済の悪化が起こりまし た。これは総需要の低下を通じて、物価に対しては下押し圧力が掛かると思い ます。加えて、原油価格が非常に大きく低下したことや、新興国の金融市場混 乱といったことが、物価の上昇率に対しては制約になってきたということだと思います。

従って、このような点については、引き続き、金融政策を通じて、2% の「物価安定の目標」の実現と安定化に向けて努力していくことになるかと思います。

予想インフレ率については、色々論点があると思いますが、これは 8 月、9 月の実体経済の動向等も含めて、色々な方の議論を聞きながら判断して いきたいと思っています。例えば展望レポートで挙げられているような話題、 GDPギャップが縮小し、需要超過の状況になってきているにもかかわらず、 なかなか物価上昇率が高まっていく気配が今のところ見えないことや、黒田総裁がおっしゃっていますが、例えば、物価上昇率がどういうタイミングでどういう形で急速に上がっていくのか否か、という点についても、現実のデータをチェックしながら、委員の皆様方と議論を重ねて、適切な間違いのない判断をしていければと思っています


(問) お二人に質問します。黒田総裁の政策は、実際には、紆余曲折あった と思います。当初の 2 発については、純粋な量的緩和的なインパクトがあった と思うのですが、その量の期待インフレ率に与える影響について、今後も活用 していくべきとお考えなのか、局面によって効果も変わってくるので、必ずし も、今後は、量によって期待インフレ率を上げていくのは慎重に考えた方がよ いということなのか、その辺りの見解をお願いします。特に、現行の日本銀行 の政策では、80 兆円という文言が紙には書かれていますが、この点については 今後論点になると思いますので、ご見解をお願いします。


(片岡委員) 日本銀行は、現状、量・質・金利という 3 つの軸で、特に最近では、先程鈴木委員からもお話がありましたが、「長短金利操作付き量的・質 的金融緩和」という形になっていますので、引き続き、例えば、量のみにこだ わるとか、金利にのみにこだわるとか、そのような話ではなくなっていると理 解しています。もちろん、今後どうしていくかという点については、私個人としては、足許の経済動向ですとか、委員の皆様方の議論を拝聴しながら、適切な対策を自分なりに考えて、提案なりを考えていくということなのだと思って います


(問) お二人にお伺いしたいのですが、反リフレ派と言われていた佐藤委員、 木内委員が抜けることによって、全会一致でこれから政策決定が行われていく ことになるのではないか、そういうことを危惧する声があります。議論が深ま らない状況になるのではないかということなのですが、そのような懸念がある 中で、お二人は審議委員として、どのような姿勢で政策決定に臨んでいこうと 考えていらっしゃるのでしょうか。


(片岡委員) 私はよくリフレ派と呼ばれることが多いので、基本的に私に対 する質問なのかもしれませんが、私がリフレ派なのかどうかについては、神学論争だと思いますので、直接申し上げることは何もありません。私個人は、こうして国会で選んで頂いた以上、自分の職務に忠実に、精一杯努めていければ と思っています。それから、先程のご質問に関連して申し上げると、リフレ派 なのか反リフレ派なのかといった主義主張に基づいて、現実の経済動向や環境 条件の変化といったものを無視して政策判断を下すのは、私は全くの間違いだと思います。よくエコノミストや経済学者の意見がコロコロ変わる、例えば、 ケインズも書かれている本の時々において意見が違うという話もあるわけですが、なぜこのようになるのかというと、やはり現実の経済動向や統計などのファクトに基づいて、その時々に最適と考えられる政策判断を行った結果だと 思います。そのような意味で申し上げると、鈴木委員も少しおっしゃいました が、全員が賛成だから不毛だとか、全員が全く違うことをおっしゃっていればそれでいいのかとか、そのような話にもつながると思いますので、そうした話 は、正直不毛だと思います。それから、金融政策決定会合で、どのような議論がなされているのかについては、議事要旨ですとか、「金融政策決定会合における主な意見」などの形で公表されると思いますので、まずはこれらをご覧頂 いた上でご判断頂ければと、現時点では感じています。


(問)片岡さんには、今の質問の答えで少し分かったような気もしたのです が、昨年の時点では量の拡大をすべきだという主張をよくされていて、その中では外債の購入やヘリマネも選択肢としてあり得るというお話もされていま した。一方で、金利に対しては批判的な意見を述べられていたと思うのですが、 こうした去年までの、あるいは就任前の意見というのはそのまま政策委員とし ても主張されるのかどうか、お考えを教えてもらえればと思います。


(片岡委員) 将来、特に 9 月以降、私自身がどのような提案をさせて頂くの かについては、現段階で直接的なお答えはできませんし、それは議事録をご覧頂くということになる、と思っています。それから、先程も申し上げましたが、 金利か量か、など、政策手段の話は、その時々の判断に応じて変わっていくも のだと私自身は考えています。ですから、そういう意味においては、現状の経済動向ですとか政策手段などを判断、議論しながら、私個人の中で間違いのな いように進めていければと思っています。


(問) 追加緩和の考え方についてお伺いします。今、足許 2%の「物価安定 の目標」の達成時期が 6 回先延ばしになっている状況の中で、ただ、世の中で は日銀に対する追加緩和の期待はあまりないような状況だと思います。この中 で、仮に、今の低インフレがこのまま続いた場合に、世の中からの要請が仮になかったとしても、追加緩和を断固として、先程片岡委員がおっしゃったよう に、なんとしてでも 2%の達成を目指していくのか、お考えをお二人からお願 いします。


(片岡委員) 追加緩和云々につきましては、鈴木委員と同じですが、あくま で現状の経済動向、それから、日本銀行が展望レポートという形で物価の見通しを出していますので、こうした見通しをチェックしながら、その時々におい て最適な金融政策を判断して実行していくということに尽きるのではないか と考えています。


(問) 今目標としている2%という数字についてお伺いします。世界的に今、 物価上昇が鈍いと言われていますが、現状、2%を掲げている目標の数値自体 についてどう思っていらっしゃるか、高いと思っているのか、このままでよい と思っているのか、お二方にお伺いします。


(片岡委員) 先程、鈴木委員がおっしゃった通りの面はありますが、2%という物価上昇率は、いわゆる何か起こった時の「のりしろ」としての意味合い があるということ、それから消費者物価指数には上方バイアスという問題があ り、実際の物価動向と比べるとCPI上で判断される物価上昇率はやや高めに 出るという特徴があります。それから、先進諸国でインフレターゲットを設け ている国々は押しなべて 2%近傍の物価上昇率にコミットしていますので、こうした状況の中で、例えば日本だけが 2%未満という状況にコミットすること になると、必要以上の無益なデフレ圧力を対外的に受ける懸念があり得るので はないかと思います。こうしたことが 2%のインフレ目標を目指している理由 なのではないかと思います。


(問) これから日銀の中に入って、お二人は色々と検討されていくと思うの ですが、これまで外におられた方として、CPIの 2%達成という点について、 どういう視点が日銀には欠けていたと考えていたかを教えて下さい。


(片岡委員) 非常に難しいご質問だと思いますが、1 つは、私自身、過去の著作において日本銀行のことについて、色々と論評してまいりました。ただ、 今回、日本銀行の内部に入って銀行のスタッフの方を含めて色々な方とお仕事 をさせて頂くという状況になりましたので、こうした経験を踏まえた上で内部 の方と目線をあわせて判断しないとご質問にきちんと回答できないのではないか、と思います。そういう意味で、5 年程、日本銀行の中で、実際、過去に自分があれこれ申し上げていたことがどのような流れで決まっているのかや、 どのように考えたらよいのかという点も踏まえて、これから判断していきたい と思っています


(問) 今遠いと言われている、物価目標 2%に行くためには、もちろん金融 政策だけではなく、他の要素も必要だと思うのですが、今のアベノミクス自体 の評価をお二人にお伺いします。


(片岡委員) 私個人は、アベノミクスについて過去色々な著作を書いてまい りました。そういったことから、今回、日本銀行の内部の人間の立場になり、 立場的に変わったということもありますので、そうしたご質問への回答は直接的には控えさせて頂ければと思います。ただ、1 つ申し上げたいのは、日本銀行自体は日本銀行法に定められている枠組みの中で適切な金融政策を行って いくことが使命です。それから、先程鈴木委員もお話しされましたけれども、 政府と日本銀行の間には共同声明が結ばれていますので、そのもとでできる限りのことをやるというのが、日本銀行の最大かつ唯一のミッションなのではな いかと認識しています。


(問) 出口戦略について伺います。2%が遠いとはいえ、バランスシートが これだけ膨らんだ状況ですので、出口戦略を市場と対話して語っていくべきだ という議論があるのですが、お二方は、その辺りについてどういう見解をもっ ていらっしゃいますか。また、実際に前審議委員の木内さんなどは、対外的な 講演の場などでその辺りの警鐘を鳴らすような発言をされていたこともある と思いますので、ご自身の考え方も含めて伺えればと思います。


(片岡委員) 私自身は、出口政策については、現状の物価動向や景気から判 断しますと、時期尚早ではないかと思います。ただ、出口政策に関して、その手段、ないしは、日本銀行のバランスシート等々への懸念があるということは理解しています。ですから、そうした状況、ご批判は、ある意味、出口政策に 突入するタイミング、ないしはそれが見通されるであろうと判断できる時期において、日本銀行の中でも適切に議論がされると思いますので、そうした状況 を踏まえて、今後判断していきたいと思います。むしろ、出口政策の議論よりも前に考えなければいけないことは――現状でも日本銀行として議論してい るところだと思いますが――、2%の「物価安定の目標」をいかに達成するか、 達成後は物価上昇率をいかに 2%に安定化させるかということだと思います。 ですから、2%の「物価安定の目標」を達成・維持したうえで、政策を、適切な形で、金融システムやその時の経済状況にあわせて変えていくことが出口戦 略だと思いますので、順序としては、まずは 2%の達成を目指したうえで考えることだと考えています。


(問) 既に日銀の方になってしまったので、お答え難いかもしれないですが、 黒田総裁の市場とのコミュニケーションについて、例えばマイナス金利導入の前に「全く考えていない」と言った直後に導入するとか、外からみるとちょっ と唐突感があったり、市場とのコミュニケーションがうまくいっていないので はないかという見方もあります。それは外からみていてどのように思われたか、 また、日銀の今後のコミュニケーションのあり方で改善すべき点がある、とい うことがありましたら教えて下さい。


(片岡委員) 黒田総裁については、私自身が直接何か申し上げることはあり ません。私個人としましては、市場の関係者といっても色々な属性の方がいらっしゃると思います。マーケットに非常に近い方もいらっしゃいますし、それから私の前職であったエコノミストのような立場の方もいますし、一般の国民の皆様方も当然いらっしゃいます。ですから、そうした様々な属性を持った 方々に対して、分かりやすく納得して頂けるように、自分の意図をきちんと説明していくといった努力が必要だと感じています。


(問) お二人は、これから 5 年間任期があるわけですが、その間に物価目標 が達成できるかどうかの見通しについては、どのように思っていらっしゃいま すか。


(片岡委員) 先程お話しさせて頂いた通り、日本銀行は、できる限り早期に 「物価安定の目標」を達成することを 1 つの使命、目標として掲げています。 従って、いつ達成すると申し上げることは現状できませんが、そのための努力 をこれからしていきたいと考えています。


(問) そもそもの話として、ご自身が審議委員に選ばれた理由についてどの ように自己分析していらっしゃるか、お二人それぞれにお願いします。


(片岡委員) 自己分析というのはなかなかしづらい部分ではありますが、私自身は、20 年程、色々な形で経済政策や経済情勢の調査をしてまいりましたの で、そういった知見を活かしたいと考えています。それから、私自身は 1996 年に会社に入りまして、社会人として今に至っているわけですが、こうした時代というのは、日本経済の中では、デフレが進んで長期停滞が深刻化してきた ちょうどその時期だったわけです。そうした中で、自らの能力ではなく、例えば外的な景気の悪化や経済停滞、そうした要因で就職がうまくいかないとか、 そういった方たちの思いに何としてでも応えたい、そうした状況を繰り返すわけにはいかない、という気持ちでやってまいりましたので、自分自身が適格かどうかは私個人は判断できませんが、選ばれた以上は自分なりになぜ私がこの 場に立っているのかという事実を重く受け止めて、そのためにやれることを やっていくだけだと、そのように感じています。



以上


黒田総裁がいる間は、現状維持決定会合が続きそうな予感がします。

次の正副総裁人事はとてつもなく重要です。

片岡剛士さんには片岡さんらしく、ご活躍下さるようお祈りいたします٩( 'ω' )و