佐々木融氏のコラム(*1)をサンプルに日銀の金融政策について考えてみましょう。

1)なぜインフレ率は今でも2%が適切なのか。


佐々木氏は次のように批判的に2%の妥当性を検証(?)します。


"しかし、そもそも、主要10中銀の中で、コアインフレ率2%超えを達成しているのは現状、英中銀(BOE)だけだ。仮に何らかの構造的な理由で世界的にインフレ率が低下しているのであれば、上記の他の2つの理由を考慮しても2%が適切とは言い切れず、すでに非現実的な水準となっているのかもしれない


今でもインフレ率2%を目標とすることが本当に正しいのか、既存のマクロ経済学の「常識」にも疑いの目を向けて、改めて検討すべきではないだろうか。"(*1)



2%としている理由については、岩田規久男日銀副総裁の講演を参照しましょう。


"第一の理由は、「デフレは絶対に避けなければならない」ということです[中略]デフレを絶対に避けるた めのバッファーとしては、1%程度のインフレ率では必ずしも十分ではない ということです

第二の理由は、「消費者物価指数の上方バイアス」です。[中略]したがって、消費者物価指数を参照指標とする場合、上方バイアスの存在も 織り込んだ、尐し高めの目標数値を設定する必要があるのです。

第三の理由としては、1990 年代から最近にかけての先進国の実績をみると、 2%程度のインフレ率を維持している国の経済が、経済成長率が高く失業率は低いという、良好なパフォーマンスを示していることが挙げられます。

こうしたことを踏まえれば、日本においても、2%程度のインフレ率を「物価安定の目標」とするのが適切であると考えられます"(*2)


佐々木氏のお考えで2%が適切かどうか良く分からないなどの理由があっても、より適切な目標(クルーグマンは4%の物価上昇率、他の識者は名目GDP水準ターゲットなど)を示すべきです。



2)金融政策で企業は賃金を上げるのか。


佐々木氏はデータを見ているのでしょうか?

"企業が賃金を引き上げないのは、構造的な問題であり、そもそも金融政策で何とかできるようなものではないだろう。"(*1)


日銀はサボタージュするために、低過ぎる潜在成長率(0%台前半)と高過ぎる構造失業率(3%台半ば)などを使っている疑義があります。

もっと、金融政策のアクセルを踏め、で良いかと。


高橋洋一さんによれば




"1970-2011で、

インフレ率=-2.1+0.62*2年前のマネーストック増加率

相関係数0.89

一人当たり報酬上昇率=0.11+1.38*インフレ率

相関係数0.95

これらをみれば、2年前のマネーストック増加率がインフレ率と賃金上昇率を決めている"

とのこと。


3)金融政策で物価が上昇するような状態にあるのか。



片岡剛士さんのレポート(リンク切れ?削除?)より

"「量的・質的金融緩和」の効果はなかったという評価を下すのならば、日銀は「総括的な 検証(背景説明)」の補論図表6においてマクロ経済モデルによるシミュレーション結果を提示しているので、これを実証的に否定する必要がある[後略]"



4)インフレ目標達成時期を6回も先延ばしして、フォワードルッキングな期待形成に寄与できるのか。


ここは同意です。

寄与できないことは予想インフレ率や実際の消費者物価上昇率などを見ると推しはかることが出来るのではないでしょうか。


某国の中央銀行総裁は、増税しないと「ドえらいリスク」とのたまわり、Zの官僚時代には、日銀の金融政策の手段である外債購入に待ったをかけた人物だそうです。

現状維持決定会合を繰り返しており、YCC(イールドカーブコントロール)は、国債管理政策としては効果を発揮していることは否定できません。しかしながら、年間の長期国債純増ペースは、ここのところ70兆円を切るペースとの推計もあります。やる気…


5)日銀政策委員9人中8人が見通しに自信なしなのか。


自信ないのでしょうかね。


6)日銀の上場投資信託(ETF)購入額は本当に「小さい」のか。



小さいかが論点ではないですね。

ETFの購入額に云々すると

金融政策の手段の独立性がー
と大騒ぎするところでしょうか?


ポジショントークの面について、高橋洋一さんが以下の動画の26分過ぎで言及されています。



7)市場機能を損ねることのコストを軽視し過ぎてはいないか。


佐々木氏
"しかし、市場参加者が利益を出せない管理された市場は当然、活力を失う。多くの参加者はその市場から撤退し、市場として機能しなくなる。日銀が日本経済の活性化のために金融政策を行っているのであれば、経済の重要な構成要員である企業の資本調達の場の機能を奪って良いとは思えない


国債市場に関しても、先進国で最も大きな対国内総生産(GDP)比での国家債務を抱えている日本の国債市場から、参加者を追い出すことが本当に正しいことなのか疑問に思う。日銀は市場機能を損ねることのコストを軽視し過ぎているのではないか。"(*1)


何を仰っているのか良く分からない…
「企業の資本調達の場の機能を奪って」
とあるが、奪っているのだろうか?
社債、借入、株式などにより、企業は資本調達をしている。株式の買手がいるのに、市場関係者が儲からない(?)からといって、それを不適切とする理由にはならない。

「日本の国債市場から、参加者を追い出す」
とあるが、本当に追い出しているのだろうか?
そんなことはない。
また、国債市場に国債が足りないのであれば、国債の供給側である政府・財務省に国債増発を働きかけてはいかがだろうか?


質問者2は、確定拠出年金と持株会などで少しばかりの資産を運用する身として「私情関係者」の1人かもしれない。
だからといって、金融政策を歪めるような言説を垂れ流すことはしないように気をつけたい。



(*1)『コラム:日銀の金融政策に対する「7つの疑問」=佐々木融氏』(2017.07.23,ロイター)

http://reut.rs/2tLWKLo


(*2)『「量的・質的金融緩和」の目的とその達成のメカニズム』(2013.10.18,岩田規久男日銀副総裁)

https://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/data/ko131018a1.pdf