藻谷浩介氏が、あの毎日新聞で「ご意見」を述べられていた。(*1)

記事によると藻谷氏は
"「事実」を、何よりも重視する"
そうだ。

藻谷氏といえば、池上彰氏や小飼弾氏らが推薦していた「デフレの正体」の著者として知られる。

しかし、藻谷氏の発言を引用した上念司氏のfacebook(*2)によると
"以下、Voice12月号77ページより引用)

拙論を、「人口減少がデフレの原因であるとのトンデモ説」「日本と同じく生産人口が減っているロシアや東欧ではデフレは起きていない」とする批判もある。しかし筆者は、「いま起きているのはマクロ経済学上のデフレではなくて、ミクロ経済学上の現象、すななわちクルマや家電、住宅など、主として現役世代にしか消費されない商品の、生産年齢人口=消費者の頭数の減少に伴う値崩れだ」と指摘しているのだから、これらはまったく的外れだ

(引用終わり) ※太字、下線は上念氏による"

と、「人口減少がデフレの原因とするトンデモ説」との批判に対して逃げを打っているように見える。

事実を何よりも重視なさる方が、出版社がつけてしまった「デフレの正体」(藻谷氏が著書で主張していたミクロ経済上の現象を、さもマクロ経済の現象であるデフレに関連したタイトルに仕立てあげた)というタイトルには目をつむったままだ。

さて、毎日新聞の記事に戻ろう。以下、「藻谷浩介氏」とある箇所は毎日新聞の記事(*1)からの引用です。
質問者2だけでは、とうてい理解できない内容であるため、迷探偵「増税画コンナン」君に登場願おう。


藻谷浩介氏"[前略]この3年間遂行されてきた「異次元の金融緩和」を例に取ろう。これは「リフレ論」なる特殊な経済理論((1))を奉ずる一部の学者をブレーンとした首相が、日本経済を成長させるには「この道しかない」という信念((2))を抱いて日銀の幹部を入れ替え、「経済理論はよくわからないが、この首相のやることなら信じる((3))」という一部の熱狂的な層の積極的支持と、「よくわからないけれど皆がそういっている((4))からそうなのだろう」と考える多くの層の消極的支持を得て進めてきたものである。"

コンナン君「"リフレ論なる特殊な経済理論"というのは、事実なのかな?リフレというのは、アーヴィング・フィッシャーが提唱したリフレーションの略で、デフレーション(デフレ:物価下落の継続)を金融政策で脱して、低い水準のインフレーション(インフレ:物価上昇の継続)を達成するこで、景気・雇用を回復する方法のことだよね?」

質問者2「コンナン君、一体どこでそんなことを…」

コンナン君「シンイチ兄ちゃんが言ってたんだよ(汗

田中秀臣さんと安達誠司さんの共著『平成大停滞と昭和恐慌』には 「インフレターゲットをめぐる論争は、すでに70年前に戦わされてきた論争のくりかえし…結末は…金輸出再禁止と…日銀による国債引き受けという二段階のリフレ政策の実施によってデフレからの脱出が達成され、小数派であったリフレ派の勝利に終った」とあるよ。
特殊な経済理論なんかじゃなくて、使い古された政策なんだよね。」

質問者2「アベノミクスの根幹をなす大胆な金融緩和は、クルーグマン、スティグリッツ、ピケティ、セン、など多くの一流経済学者に支持されているね。」


藻谷浩介氏"しかしその結果はどうだっただろう。

 異次元緩和で、マネタリーベース(世の中に出回っている円貨の総額)は、過去3年間に3倍に増えた。"

コンナン君「あれれ~、おかしいな~?日本銀行の解説を見ると
『マネタリーベースとは、「日本銀行が供給する通貨」のことです。具体的には、市中に出回っているお金である流通現金(「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」)と「日銀当座預金」の合計値です。

マネタリーベース=「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」+「日銀当座預金」』
とあるよ。
事実を何よりも重視する藻谷浩介氏なのに、正確な表現をしないのはナゼなんだろうね。」


藻谷浩介氏"これを受け、東京証券取引所1・2部の株式時価総額は、野田政権当時の2012年の平均273兆円が、15年には569兆円と2倍以上に高騰した。「リフレ論」からすれば、株式市場だけでなく実体経済もすぐにインフレ基調となり、3年といわず1年内には順調な経済成長が起きるはずだった。しかし実際には、過去3年間の実質経済成長率は順に1・4%、0%、0・5%と、野田政権当時の12年の1・7%より低い水準にとどまった。成長の鍵を握る個人消費(国内家計最終消費支出の実質値)が、1・6%、マイナス0・8%、マイナス1・3%と低迷したことが主要因だ。"

コンナン君「確かに暦年の実質GDP成長率(季節調整値)はその通りだね。リフレ論について、藻谷さんが言っていることは出典が示されていないので、正確な内容なのか疑問が残るね。
成長率が芳しくなかったことについては、個人消費の低迷が主要因ということを藻谷さんも認めているんだね。」

質問者2「2014年4月から個人消費が落ち込み、その後、停滞が続いているけど、一体何があったのでしょうね…」

藻谷浩介氏"リフレ論者は、「消費税増税がすべてをダメにした」と言い訳する。しかし消費税増税の影響というなら、増税による14年の消費反動減のそのまた反動で、15年には消費が上向くのが筋だ。"

コンナン君「あれれ~、おかしいな~?消費増税の影響には、駆け込み需要とその反動減だけではなくて、税率が引き上げられたままであれば、その分だけ実質所得減少が継続することになる点も見落としたらいけないと思うよ。」

<2016.05.09追記>
質問者2「うーん、実質所得減少を前年比だけで見ている残念なこの感じは、どこかで見た気がするんだけど、野菜不足のせいか、思い出せないな…」

コンナン君「もしかしてだけど、もしかしてだけど、それって、慶応大学関係者の土居丈朗さんなんじゃないの?
財政審メンバーの土居さんは東洋経済オンライン(*4)で次のことを言ってるね。

"2015年度に、2014年度と同じ手取りの所得(可処分所得)を稼いでいれば、消費税率は8%のままだから、家計の購買力は変わらない消費税が、家計の購買力を2014年度よりも減らすことはありえない。また、2015年度の物価上昇率に消費税が影響を与えることもない。しかし、2015年度に入っても、実質所得(あるいは実質賃金)は伸び悩んだ。それはなぜか。もはや、消費増税のせいではない。そもそも家計が得る所得自体が伸び悩んでいるからである"

ということらしいよ。」

質問者2「さ、さすが2014年7-9月の景気落ち込みを消費増税ではなく、人手不足や野菜不足などの供給制約によるものと豪語 なさるお方ですよね。ネタは違えど、消費増税の悪影響以外を悪者にするロジックは似たようなもの。斬新な考え方なので、ぜひ、英語で論文を書いて、世に問うて欲しいものですね。」

コンナン君「全ての現象は野菜減少である、というベジタリストが生まれる可能性もゼロではない。ジッちゃんの名にかけて!」

質問者2「(何か違う気が…)
土居丈朗さんの思考実験は何かが足りない(野菜以外)気がしたので、少しだけ思考実験してみました。
</2016.05.09追記>

所得が200円の人を考えて見る。
1)税率が5%の時に100円のものは税込みで105円になる。手元には95円残る。

2)税率が8%に引き上げられると、100円のものは税込みで108円になる。手元には92円残る。
→対前年で、税で取られる額が3円増加、手元に残るお金が3円減少

3)翌年は同じ税率のままだと100円のものは税込みで108円のまま。
対前年で、税で取られる額は変わらず、手元に残るお金も変わらずだね。
→手元に残るお金が税率5%の時に比べて3円減少する点は変わっていないですね。それなのに消費が増えると思うのは何故なんだろう?」


藻谷浩介氏"[中略]膨大なリスクを伴う極端な金融緩和という社会実験に、条件反射で拍手喝采した失敗体験を、せめて各自が判断力を磨く糧としなくてはいけない。"

コンナン君「膨大なリスクとは、何と比較して、どの程度のリスクなのか、定量的に示すことが、事実を何よりも重視する藻谷さんとしてなすべきことなんじゃないかな。個人消費が低迷したことを認めているのに、消費増税と経済成長率の関係はスルーしているね。」


デフレに親和的な方の論説は、金融緩和の効果を過小評価し、消費増税の影響をスルーしがちなので、各自が判断能力を磨いて読む必要がありますね。



(*1)《時代の風:異次元緩和の効果見極め》(2016.05.08,藻谷浩介・日本総合研究所首席研究員 - 毎日新聞)

(*2)上念司氏のfacebook

(*3)《マネタリー・ベースの解説》(日本銀行)

(*4)《家計所得低迷の原因は、実質所得低迷にあり 消費増税のせいにしていては何も解決しない》(2016.04.04,土居丈朗,岐路に立つ日本の財政 - 東洋経済オンライン)

(*5)《直近のGDPの落ち込みを野菜不足が主因と言う人など、誰もいないかと》(質問者2)