春が近づいて来ている2016年3月。
景気良い話は余り聞かれません。
GDPは伸び悩み、消費停滞、円高株安というのが、ここ最近の報道や統計データで見聞きします。
経済政策を本腰入れて行わないと「失わせた30年」になりかねません。
自然現象で「失われた」のではなく、マクロ経済政策の失政(デフレ、増税という緊縮策)により、人災により失わせてしまったのです。


現状に合わせて、適切な政策を割り当てて、実施する必要があります。

ひとことで言うなら
財政再建よりも所得再建!

【ポイント】
1.消費増税の影響は大きく、消費税率を引き上げて約2年が経過する現在も続いており、簡素な給付金や公共事業、金融緩和などでは対応しきれていない。
→増税というマイナスの財政政策をやめる。消費再増税は延期ではなく凍結して、消費減税(税率を元の5%に戻す)する
復興で大変なときに実施された復興増税(所得税と住民税の増税はそのまま。復興法人税は停止)も、国債不足が言われていますので、復興債を増発して、増税を即座に停止しましょう。
→後述の「日本経済は復活するか」(*4)の283ページの表「消費増税についての留意点」<増税ラッシュの中で可処分所得の低下抑制政策を行わない場合には影響は大きい>
にある通り、増税ラッシュです。。。

以下、先ほどの書籍の表から引用します。

2012年
・子供手当に所得制限導入
・法人税減税と復興付加税
・個人住民税増税(扶養控除廃止・縮小)
・地球温暖化対策税導入
2013年
・所得税増税(給与所得控除に上限)
・個人住民税増税(退職金の優遇廃止)
・所得税復興増税
2014年
・消費税増税(5%→8%)
・個人住民税増税(給与所得控除に上限)
・個人住民税への復興増税
2015年
・消費税増税(8%→10%)

※消費税増税(8%→10%)は2017年4月に延期されました。


2.再分配であるはずの社会保障を支えるためという名目で、逆進性のある消費税税率を上げて、低所得者層に重い負担をかけてしまった。
→逆進性解消のため、別の方法(景気回復による税収増、資産課税、国債増発、累進課税の強化、社会保険料の逆進性の改善など)を取る。低所得者向けに給付金を配る。消費税の社会保障目的税化という愚策をやめる必要があります。

3.やると言っていた名目GDP成長率3%、実質GDP成長率2%、物価安定目標2%はいずれも未達成のまま。
→ゆらいでしまったコミットメントの再強化のためにも、経済安定化政策(財政金融政策)の目標値の引き上げなどによりコミットメントの強化(名目GDP600兆円の達成時期明確化、日銀法改正で物価安定目標達成と雇用の最大化を義務付けなど)、それを裏付ける政策を打ち出し直す。



気鋭のエコノミスト、片岡剛士さんのコラム(*1)を基に、今取るべき政策を考えてみたいと思います。

次の図表は、片岡さんのコラム(*1)に掲載されたものです。
リーマンショック以来の実質家計消費支出の底割れ(下の赤い点線を下回る)が起きています。

{E3C6B4F2-3505-4885-9232-07B710D0B85F}
図表 出所:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(*1)

増税推進派は、増税後にV字回復というようなことを喧伝していた記憶があります。ところが、V字どころかL字(それすら危なくなっていますが)停滞です。

直近の2015年10-12月の実質GDPマイナス成長を「暖冬で冬物衣料の売れ行きが鈍った」ことに原因をもとめるような報道もありましたが、「そんなわけないだろ」(*2)です。

第二次安倍政権以降、アベノミクス + 消費増税 + 消費増税対策(簡素で質素な給付金、公共事業支出拡大)、賃上げへの働きかけ、法人減税(復興法人減税含む)、日銀の追加緩和や補完措置があっても、この状況です。

2014年4月から消費が停滞し続けています。
ずっと、お天気が悪かったのでしょうか?
野菜不足(*3)が約2年も続いたのでしょうか?
そんなことはないですよね。


心ある経済学者やエコノミストの方々は、デフレからの脱却と併せて、消費増税の危険性を訴えてこられました。

書籍「日本経済は復活するか」には、片岡剛士さん、田中秀臣さんの論考があります。

"第IV部 消費税増税ショックと今後の経済対策
消費税増税ショックと今後の経済対策"と題して、消費増税の危険性を訴えています。

"デフレ脱却を目指すリフレ・レジームと、財政再建を目指すデフレ・レジームとのレジーム間競争が深刻化してしまい、日本がこの先どうなるのか、公衆のマインドが不安定になり、それが経済の不安定にも寄与してしまうからだ"(328ページ)

そして、「流動性の罠」の下での消費増税が、そうでないときの増税に比べ大きな影響を及ぼすことが簡単な図で示されます。(355ページ)

レジームの毀損への対処として、次の通り提案されています。

"日銀法を改正して日銀の政策目標に「雇用安定」を新たに追加することで、物価と雇用の安定化にコミットする姿勢を明確化すること、更に政府が目標としている「名目成長率三%、実質成長率ニ%」という成長目標を引き上げて「名目成長率四%、実質成長率ニ%」を掲げた上で経済対策や追加緩和を行うことだ"(338ページ)

消費税率が8%に引き上げられて以降、日銀の追加緩和(QQE2)、名目GDP600兆円はありましたが、物価と雇用の安定、名目成長率に関するコミットメントの強化とそれを裏付ける政策は実施されておりません。


心ある経済学者やエコノミストは、有識者会議(第一回)から、消費増税に反対、もしくは、慎重でした。
片岡剛士さんは第一回の会合で、消費増税の延期を提案されています。(*5)

有識者会議(第ニ回)では、若田部昌澄さん(*7)、片岡剛士さん(*6)らが、消費増税反対の立場で提案をされています。

若田部昌澄さんのご意見(*7)をご紹介します。
以下の3つの図はいずれも、第二回有識者会議での若田部昌澄さん資料(*7)からの引用です。

日銀の追加緩和、消費再増税延期+最善策として消費減税が挙げられています。

{76CFD0C2-8361-4FBA-9CC9-49208C110290}

{F62FF4BE-5463-4AD7-B174-2F378BA835B5}

{1E0BC5B8-72D5-4F88-B713-2B11493B9EE9}


あの日~♪あの時~♪あの場所で~♪消費税を上げなきゃ~♪(タイトル忘れました…)


取るべき政策が分からない訳ではなく、やる気がないだけ。

消費再増税は、やりたくなくなったし、実際に延期しました。
次は、消費再増税を凍結し、消費減税をはじめとした、反緊縮策である拡張的な財政政策と金融政策を景気回復を、さっさと実施すべきです。

物価安定・雇用安定・経済成長率の目標達成をして、所得再建を最優先!20年停滞した経済なので20年は安定成長をお願いします。

目標達成してから、増税のお願いをしにきてね、政治家の皆さん。目標を達成していたら、検討しても良いですよ。


【2016.03.06追記】
なお、消費税率が8%に引き上げられて以降、消費減税について言及されていた記事を調べてみました。

先ずは、ポール・クルーグマンのインタビュー記事です。

"消費増税は、日本経済にとっていま最もやってはいけない政策です。今年4月の増税が決定するまで、私は日本経済は多くのことがうまくいっていると楽観的に見てきましたが、状況が完全に変わってしまったのです。
[中略]
'90年代を思い出してください。バブル崩壊から立ち直りかけていたところで、財政再建を旗印に掲げて、日本の指導者は消費増税に舵を切りました。これで上向いていた経済は一気に失速し、日本はデフレ経済に突入していったのです。安倍政権がやっているのが当時と同じことだといえば、事の重大性をおわかり頂けるでしょう。
[中略]
では、この危機を脱するにはどうすればいいのか。

答えは簡単です。日本国民の多くが、これからは給料も上がるし、物価も上がるのでいまのうちにもっとおカネを使おう、という気分になれる政策を打つだけでいいのです。国民がそう思うだけで、経済はずっとよくなります。

そのために最も手早く効果的な政策をお教えしましょう。それは、増税した消費税を一時的にカット(減税)することです。つまり、安倍総理が増税したことは気の迷いだったと一笑に付して、元の税率に戻せばいいだけです"

元に戻すだけで良いのですね。
ただ、この当時は2014年9月、そこから事態は深刻化していますので、更なる対応が必要でしょう。


次に、高橋洋一さんの記事です。

"筆者はこれまでも言ってきたが、今となっては最善の手は、5%への消費減税。それができないときには、軽減税率を導入して、全品目5%の軽減税率の適用。それもダメなら、97年増税時には先行所得減税だったが、今回は事後所得税減税。それもできないなら、これまで増税した分をすべてはき出すような減税と財政支出だ"

増税の悪影響を打ち消す対応策をいくつか挙げています。最善策を消費減税としています。



次に、田中秀臣さんの記事です。

"純輸出も弱く、政府最終消費支出も弱い。政府の財政政策は公共事業中心だが、その効果は乏しいものがある。むしろ消費増税の悪影響を取り除くためには、政府は実質的な減税政策(各種の所得補助金)を中心に行う必要があり、筆者の私見では消費再増税よりもむしろ消費減税が必要な局面とさえいえるだろう"

政府が行った消費増税への対応効果が乏しく、消費増税の悪影響を取り除くには、消費減税が必要としています。


これらの記事から約2カ月後、安倍総理は消費再増税を18カ月延期することを発表(*11)しました。

今思えば、あの時に、増税凍結、消費減税を行うべき(そもそも、消費税率は5%から上げるべきではなかった)、ということですね。



【参考情報】
(*1)《「消費低迷の特効薬」を考える》(2016.03.04,三菱UFJリサーチ&コンサルティング,片岡剛士)

(*2)《日本経済新聞の質を高める改革を起動せよ》(当ブログ)

(*3)《直近のGDPの落ち込みを野菜不足が主因と言う人など、誰もいないかと》(shinchanchi)

(*4)【本】《日本経済は復活するか》(2013.10.25,浜田 宏一, 若田部 昌澄, 榊原 英資, 中島 將隆, 西部 邁, 田中 秀臣, 原田 泰, 安達 誠司, 田村 秀男, 片岡 剛士, 高橋 洋一, 松尾 匡, 中村 宗悦, ロベール・ボワイエ)


(*5)《消費税増税と日本経済》(2013.08.27,三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社,片岡剛士)

(*6)《消費税再増税と日本経済》(2014.11.17,三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社,片岡剛士)

(*7)《消費税再増税とアベノミクス》(2014.11.17,若田部昌澄)

(*8)《本誌独占インタビュー ノーベル賞経済学者クルーグマン「日本経済は消費税10%で完全に終わります」》(2014.09.16,現代ビジネス)

(*9)《日銀総裁の講演の疑問点を読み解く 景気後退への最善策は5%への消費減税》(2014.09.18,高橋洋一)

(*10)《景気後退局面か GDP速報値大幅減が示唆 消費増税で深刻な経済悪化を招いた財務省の罪》(2014.11.17,田中秀臣)

(*11)《平成26年11月21日 安倍内閣総理大臣記者会見 | 平成26年 | 総理の演説・記者会見など | 記者会見 | 首相官邸ホームページ》