小豆島を訪れる第一の目的は、虫送りを見る事だと書きました。

虫送りは、2011年に公開された映画「八日目の蝉」で紹介されていて、その神秘的な光景に惹かれて小豆島に興味を持ったのですが、この他にも印象的なロケ地がいくつもあり、虫送りが行われる中山千枚田ををはじめ八日目の蝉のロケ地を巡ることもこの旅行の大きな目的でした。


まず、八日目の蝉がどんな映画なのか手短かにご説明します。

二十四の瞳映画村にあった八日目の蝉のロケ地を紹介したパネルに書かれているストーリーを引用させていただきます。

(引用)
不実な男を愛し、子供を身ごもった女、野々宮希和子。母となることが叶わない絶望の中、同時期に男の妻が女の子を出産したことを知る。「赤ちゃんを一目見たい」夫婦の留守宅に忍び込み、赤ん坊を見た瞬間、希和子は思わず子供を抱えて家を飛び出していた。逃亡を繰り返し、絶望と幸福感の中で擬似親子となった二人。しかし逃亡生活は、やがて4年で終止符を打つ。‥・優しい母親だと思っていた人は、誘拐犯だった。誰にも心を許せず、本当の両親とわだかまりを抱いたまま大学生になった秋山恵理菜は、ある日、自分が妊娠したことに気づく。相手は、希和子と同じように、家庭を持つ男だった。自分の過去と向き合うために、かつて母と慕った人との逃亡生活を辿る恵理菜。最後の地、小豆島で恵理菜が見つけた衝撃の真実とは?

(引用終わり)

娘は4歳まで別の女に育てられたため実の両親との関係をうまく築く事ができず、大学生になった今でもギクシャクした関係が続いています。母親は自分の赤ちゃんが夫の不倫相手に誘拐されるという、とてつもない悲劇に遭遇した上に、4歳で戻って来た娘が自分になつかない事に苛立ち、時にそれを激しく娘や夫にぶつけるなど、情緒不安定になっています。

こう書くと、「誘拐した女はとんでもない女で、実の母親はなんて可哀想なんだ」と誰もが思うと思います。

しかし、映画(小説)の見せ方は全く違います。
永作博美演じる希和子と薫が過ごす、薫が4歳になるまでの描写が多く、しかも描き方も濃密で、その姿は本当の親娘のように微笑ましいものなのです。

この擬似親娘は、最初は訳ありの女性の駆け込み寺となっているちょっと怪しい施設、エンジェルホームに身を潜めます。しかし、エンジェルホームは家出した少女を受け入れたために、その家族がマスコミに訴える騒動が起き、警察の捜査を受ける事になってしまいます。このため希和子は薫を連れて施設を抜け出し、山を越えて道なき道を歩き、たどり着いたのが小豆島でした。

住まいはそうめんの製麺所、施設時代の知り合いのコネで、ここに住み込みで働く事になりました。

まずはその製麺所を調べて行ってみました。

行ってみたところ我々夫婦以外は誰もいず、観光地化しているわけではありませんでしたが、このように案内表示はありました。

場所は島の南東部にある小豆島の中心地(海岸近く)からちょっと内に入ったところです。

写真のとおり、対向車とすれ違うのも大変なくらい狭い道なので、車なら軽自動車で行く事をオススメします。



こちら、創麺屋株式会社さんです。希和子が先輩社員からそうめんの作り方を教わっている場面がありました。(撮影当時とは違う建て替えられてた建物でした)


記念にこの製麺所でオリーヴそうめんを買いました。





これは薫がよく遊んでいた公園です。

希和子が薫に、小豆島を離れる話をしたのはこのブランコででした。



この右側は、製麺所の裏で、映画の中で母娘がよく休憩で寛いでいた場所でした。帰って来た後に知ったのですが、映画の記念植樹もこの辺りにあるようです。



これは寒霞渓から島の南側を見たところですが、希和子が薫を連れてこの景色を見て、「色んなものを見ようね」と言ったシーンがありました。


次はいよいよ中山千枚田です。

場所は島の西部中央、先日小豆島_海篇で書いたエンジェルロードから車で北に進み、夕陽ヶ丘に辿り着く手前を右に入り、中山方面に向かって進むと5分くらいで千枚田の下まで行けます。


この日のために用意された駐車場に車を止め、そこから15分くらい歩いて、虫送りを上から見られる場所まで上がって行きました。待つ事1時間半、18時半から行進が始まりました。こうして竹の松明である火手(ほて)を持った人々が千枚田の畦道を下に下りて行きます。映画ではもう少し辺りが暗くて、松明の火との対比が美しかったのですが、日の入り19:19より前なので辺りは明るいままでした。


そして、希和子と薫が島を出るために向かったフェリー乗り場と、その直前に入った写真館がある福田港へ向かいました。小豆島には空港も本土と繋がる橋もないので、辿り着く手段はフェリーだけですが、フェリーは高松、岡山、神戸、姫路から出ています。今回千葉から行きましたが、福田港に行きたかったので、新幹線で姫路まで行って、姫路港から福田港に入るルートを選びました。実は小豆島にいくつかあるフェリー乗り場の中では土庄(とのしょう)港、坂出港、池田港がメインで、福田港はかなりマイナーです。レンタカーのオフィスも少ないのですが、福田港に入るには姫路港から行くしかないので、敢えてこのルートを選びました。

因みに福田港から出ているフェリーはすべて姫路行きなのに対し、映画では岡山にフェリーで向かう設定でした。雰囲気から福田港を選択したのでしょう。


映画の中で、中山千枚田で虫送りに参加している希和子と薫が写った写真を誰かがコンクールに出して入賞、それが全国紙に掲載されてしまいます。捜査の手が小豆島に伸びて来る事を恐れ、希和子は小豆島を出る決意をし、それを薫に伝えます。薫は友達もできて楽しく過ごしているので、希和子の話に「なんで?」と質問しますが、最終的には希和子に従います。


フェリー乗り場のすぐ近くに写真館があり、希和子は薫と初めて家族写真を撮ってもらいます。希和子は薫と過ごすことができる時間がもうすぐ終わる事を悟っているのです。

余談ですが、この写真館の店主を演じていた田中泯さん、いい味出してましたね。


写真館として撮影で使われたのがこちらの建物です。

どこかの会社の事務所だったようです。



これは写真館から福田港方面を見ている写真です。

薫は本当の名前は恵理菜です。大人になった恵理菜は井上真央が演じていますが、恵理菜は映画の最後の方で小豆島を訪れ、この写真館にも行きます。そしてあの日の微かな記憶が蘇ったのか、この道を走り出すシーンがありました。


最後は希和子と薫がフェリーに乗る前に入ったパン屋さんです。写真館もこのパン屋さんも、他の方が書いているブログで認識しました。パン屋さんは行った時は開いていませんでしたが、そのブログにはまだ営業していると書かれていました。


この写真を撮った背面がフェリー乗り場ですが、乗り場の建物は撮影当時のものはなくなり建て替えられていましたので、写真は撮っていません。


写真を撮って買い物をした後、フェリー乗り場の駐車場で希和子は待ち構えていた捜査員に逮捕されます。捜査員に囲まれた時希和子は、「その子はまだご飯を食べていません。」と叫びます。


希和子は世間一般的に冷静になって見れば、不倫相手の娘を黙って連れ去ったとんでもない女なのですが、映画では実の娘のように本当に薫を愛している事が伝わって来て、とても切ないシーンでした。


ストーリーの紹介で書いたとおり、赤ちゃんを連れ去った経緯は衝動的なものであり、不倫相手夫婦に悲しみや苦しみを与えようという復讐的な意図はなく、赤ちゃんを見て純粋に可愛いと思い、その母親になりたい母性によるものでした。描かれる4年間の二人の関係は、実の親子以上に密接なものに感じられました。


この日朝一番に行った二十四の瞳映画村内のカフェで、八日目の蝉の展示をしていました。



これがロケ地を紹介したパネルです。


八日目の蝉がお好きな方、是非小豆島のロケ地を訪ねることをおすすめします。