今回は、また、一応「専門向け」です。
司法書士会員専用会議室でたまたま私が回答して、
その後、異論もないので、「多分正しいであろう」ということで、
転載してみます。
(もちろん、誤り等あればご指摘下さい。)
なお、専門向けの上、今回の話はややこしいので、
特に一般の方は、理解できなくても全然問題ありません。
まず、以前も同様の投稿をしましたが、
【専門向け】相続の登記原因日付(死亡日)を誤った場合(更正登記は?)
その時の前置きをまず貼っておきます。
さて、一般の方には御存知ない話ですが、
司法書士会員専用の電子会議室(掲示板)というのがあって、
私は、司法書士会連合会(全国の司法書士が対象)のものと、
神奈川会のものの、2つの掲示板を利用しております。
業務のこと、その他のことなど、様々の投稿があります。
ただし、これは司法書士会員限定ということなので、
個々の情報を司法書士以外の方に公開することはできません。
ですが、私自身の投稿であれば、
それは私の著作物ですから、私が良いと思えば、
こちらなどにも書くことができます。
私が分からないことをそれらに質問して、
詳しい方や諸先輩から御教示を仰ぐ場合もありますし、
不肖私が、他の同職の質問に回答する場合もあります。
決して私は、それほど経験豊富というわけではありませんが、
ただ、同業者の中でも割と理屈っぽい方らしくて、
私見を申し上げるだけながら、回答側に回ることも多いのです。
(必ずしも、的確な答えを常に書いているわけでもありませんが……。)
それらについても、ブログネタとして、
内容がブログにふさわしいものであれば、
紹介してみようかなと思います。
なお、他の方の「質問投稿」については、
上記の理由で転載できませんので、
話が通じるように、若干の補筆や修正を施しています。
(なんでそんな論点にも触れるの?とお考えの場合は、
そこに触れた御意見があったとお考えください。)
と、前置きが長くなりましたが、今回こんなことを書いてきました。(ここまで)
分割手続未了の相続事件につき、さらに相続人の1名が、熟慮期間経過後に死亡し、
その死亡相続人には相続人がいない場合は?
(分かりにくいですね?タイトル欄は
字数制限があるので「詰め」ました。)
1 まず、事案はこんな感じです。
(元の事案をさらに変えています)
被相続人A(H20年死亡):
相続人は、Aの子の BCD の3名。
さらに、相続人の1人 D は、H30年に死亡:
Dの相続につき第1順位の相続人たる子Eは相続放棄、
第2順位:直系尊属(父母・祖父母等)はすでに死亡、
第3順位:兄弟姉妹BCも相続放棄、
……その結果、Dの相続人は不存在となってしまいました。
BC間では、A名義の不動産をBの単独に相続登記をしたい、
ということで話がまとまっています。
したがってCはBに相続分の譲渡をすることにします。
2 Dの相続人は全員相続放棄してしまったため、いない
ので、私などもうっかりすると
(何かで舞い上がって緊張していたりすると)、
「BCだけで遺産分割協議して協議書を作ったら」などと、
つい、言ってしまいそうですが、
実は、Dにつき、相続財産管理人(Fとします)を選任して、
Fも協議に参加する必要があるわけなんです。
(似た事案で、DがA相続の熟慮期間*経過前に死亡し、
D相続人が、A⇒Dの相続を放棄する話も
時々議論されますもので。)
*熟慮期間:Aが死亡し、かつ自分がAの相続人になったことを知ってから3か月。
これを過ぎると相続放棄ができなくなるのが原則です。
3 Dにつき、債権者や特別縁故者が不存在と見込まれ、
民法255条*(他共有者への移転)が最終的に適用されると
見込まれる場合
* 民法第255条
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、
その持分は、他の共有者に帰属する。
この場合は、
「CはBに相続分譲渡して、3分の2はB、3分の1は亡D と、
まず、相続登記をして、その後、255条で
「特別縁故者不存在確定」を原因とする
亡D⇒Bの移転登記となろうかと思います。
なお、税務関係ですが、
255条で相続人不在による取得の場合は、
取得したBの課税関係は、
遺贈に準じて相続税の対象となるようです
(持分放棄では贈与税になるようです)。
http://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/01/06.htm#a-9_12
また、255条で取得した場合は、不動産取得税もかかるようです。
https://www.tactnet.com/topics/150406.html
4 Dの債権者が存し、特別縁故者は存しない、
と見込まれる場合
おそらく、Dについて、全員が相続放棄をしてしまった、
ということは、これに該当する可能性が
大きいのではないかという気がします。
この場合なら、亡D相続財産管理人Fと遺産分割協議をして、
当該不動産はBが単独取得し、亡D相続財産法人*に
代償金を支払うこととすれば、1件で、
B単独取得の相続登記が可能ではないでしょうか?
*相続人がいない場合、「相続財産法人」という「法人」として扱います。
普通「法人」というと、会社や○○法人なので、ちょっと分かりにくいですね。
(1) この場合で、代償金で
すべてのD負債の弁済ができない場合
代償金額は適正な時価によるべきかと思います。
(「適正な時価とは??」というのも難しい論点ですが……)
某D相続財産管理人Fの善管注意義務、
また対債権者との関係を考慮しますと……。
そして、適正時価の代償金であれば、
代償金について、譲渡所得税の対象とならず
(代償金額が過大な場合は対象になり得ますが
本件では考えないで良いと思います)、
あくまでもA相続に関する相続税の範疇で収まる話となると思います。
(であれば、A死亡はH20年の話なので、時効にもなっている。)
(2) では、適正な時価による代償金が、D負債
(+相続財産管理人報酬、以下同*)を
上回る場合はどうなのか?
* 報酬を申立時に申立人が予納する場合は、考えないで良いことになります。
これも以下同じです。
結局残額は特別縁故者が無ければ、国庫帰属*となりますが、
国庫帰属が生じない額の代償金で良いのかどうか?
(善管注意義務にも照らして…)
それは、亡D相続財産管理人Fが
家裁に照会すべきことかもしれません。
(これが可能となれば、登記は1件となります。)
*相続する者がいない相続財産は最終的に国庫(財務省)に帰属します
(民法第959条)。
そこで、こんな方法が取れるかもしれません。
D持分の一部(負債相当額)相当の代償金を支払い、
その一部相当持分についてはBの取得部分とし、
残部については、一旦Dに帰属させ、
D帰属部分については、255条でBに移転、
というようなことも、可能である気がします。
具体的に申すと、本件不動産のD持分3分の1
(これが総財産とします)のうち、
半分相当が弁済額とされる場合
(すなわち持分としては6分の1相当)、
BはDから6分の1取得するための相当額の代償金を払い、
「B6分の5、D(相続財産法人)6分の1」という相続登記をします。
そして、代償金で負債を全額支払い、
残余のD法人6分の1については、
さらに255条で移転します。
これにより、国庫帰属分までBは支払わないで済む気がしますし、
D相続財産管理人Fの善管注意義務にも
反しないように思えますが、どうでしょう?
(登記は2件になります)
で、この方法があるので、前段の、
「国庫帰属が生じない額の代償金で良いでしょう」
の方に話を持って行けるかもしれません。
5 D債権者は無いが、特別縁故者が存すると
見込まれる場合
(1)特別縁故者への分与額
(+相続財産管理人報酬、以下同じ)が、
D持分(おそらくDの総財産?)全額に
相当すると見込まれる場合
上記3(1)と同様、亡D相続財産管理人Fと遺産分割協議をして、
適正時価で代償金を支払うことによって、
1件でB単有の相続登記ができると思います。
(2)特別縁故者への分与額
(+相続財産管理人報酬、以下同じ)が、
D持分(おそらくDの総財産?)全額に
満たないと見込まれる場合
この場合ももちろん、(1)同様、適正時価で代償金を支払い、
特別縁故者への分与後の残額は
国庫帰属でもよいのかもしれません。
また、分与額確定後、その額に見合う代償金額で
許容されるのであれば、それでもよいかもしれません。
そしてさらに、これも4(2)同様に、
D持分の一部(特別縁故者分与額相当額)
相当の代償金をBはDに支払い、
その一部相当についてはBの取得部分とし、
残部については、一旦Dに帰属させ、
D帰属部分については、255条で移転のようなことなども、
可能である気がします。
再度具体的に申すと、本件不動産のD持分3分の1
(これが総財産とします)のうち、
半分相当が特別縁故者分与額とされる場合
(すなわち持分としては6分の1相当)、
BはDから6分の1取得するための代償金を払い、
「B6分の5、亡D法人6分の1」の相続登記をします。
そして、代償金で分与額を支払い、
残余の亡D法人6分の1については、
さらに255条で移転します。
これにより、国庫帰属分までBは支払わないで済む気がします。
(この方法では、登記件数が2件になることも同様)
また、この方法があるので、前段の、
「国庫帰属が生じない額の代償金で良いでしょう」
の方に話を持って行けるかもしれないことも同様です。
※ ただ、以上の各方法については、
負債や分与額の「見込み額」を上手く算定できるのか、とか、
相続財産管理人や、家裁の考え方にもよりますから、
Bの意向だけで自由に有利な方法が取れるかどうかは
何とも言えません。念のため。
6 D債権者が存するが、弁済後も財産が残り、
それにつき特別縁故者への分与も
全部ないし一部ある(と見込まれる)場合
この場合は、4~5の応用となると思います。