一応(?)司法書士としては新人ながら、

人生の大先輩(?)の方のブログでの議論です。

私も、1度コメント付けたのですが、

その後も多数の方からコメントが出ました。

 

さらに私見を申そうかと思いましたが、コメントはたしか全角1000字で、

長くなると、複数コメントに分割する必要があります。

それもどうかと思うので、リブログして、

自分のところで書かせて頂きます。

(他の方へのコメントでも使えそうなものは、

ブログネタになりそうですね。)

 

なお、今回の話は、専門家向けで、一般の方が読まれても、

何が問題なのか分からない、と思います。

それは正常で、むしろこういうことをああだこうだ議論している、

根が暗い(?)人たちが世の中に生息している、

ということを知って頂くだけでもよろしいかと思います。

(ただし、会社の登記に業務で携わっておられる方

(社長さん、法務部の方など)には、役立つ……かもしれません?)

 

まず、元記事はこちら↓

リブログが上手くいかないとか、別ウィンドウで見たい方は、

こちらのアドレスからどうぞ↓。

https://ameblo.jp/dachshund1223/entry-12328715105.html

 

前置きが長くなりましたが、ここから本論です。

 

まず、議論となっている設例の引用です。

「A株式会社の定款には以下の記載があります。
・取締役の員数は5名以内。
・取締役が一人の場合、その者が代取となる。
 2人以上の場合、取締役の互選で代取を決める。
(中略) 
では、乙が代取に選定された場合はどうか? その場合甲の存在意義がなくなるので、甲の退任登記、乙の就任登記を行う。
皆さんは、どう思われますか?」


なお、これについての、私が最初に付けたコメントは次のとおりです

(一部修正あり)。
 

(コメント番号2)
「乙を代取(=代表取締役)選任の場合……
甲の代取退任事由は何なのでしょうか?
任期満了?資格喪失??
2名になった時点で乙を互選した場合、
従前選任された甲の代取の資格に
影響を与えるのでしょうか?
乙を選任しただけなら、甲乙共代取になりそうで、
甲が平取(=平取締役=代表権のない取締役)になるには、

辞任の意思表示が必要ではないでしょうか?
違うかな?
司法書士 新保善浩」


これについて、もう少し詳しく述べてみます。

 

1 実務では……

法務局の審査で、登記官から要らぬ疑義が出ないように、

文旨明確に書類を作成するのが、実務家の基本と思います。

 

本件では、甲乙間で争いや解釈の相違も無いわけで、

甲乙共に代取になるか、乙が代取になって甲は平取に下りるかについて、

両者で合意ができていて争いも無いわけです。

 

ですから、2人代取であれば、例えば、

「業務拡大のため、新たに乙を代取に追加選任して……」

のように書きますし、

甲⇒乙交替となるなら、

「甲より一身上の都合により代取を辞任したい旨申し出があり、

互選の結果、新たに乙を選任……」

のように書けば、話が紛れることはありません。

(なお、そもそも代取だけ辞任できるのかについては後述。)


2 代取選任方法の種類と性格

一般の方が読まれるかもしれないので、復習を兼ねて。

株式会社で、平取を選任するのは、

基本的には株主総会

(なお、定款でも可能、ただし設立時以外は稀)ですが

代取を選任する方法は、いくつかあります。

 

A 取締役会設置会社

 A1 取締役会で選任

   (一応これだけ。もっとも、取締役会設置会社でも株主総会でも

    選任可という議論はありますが、話がややこしくなるので省略)

B 取締役会費設置会社特例有限会社も同様)

 B1 取締役の互選で選任

 B2 株主総会で選任

 (B3 定款で選任もありますが、やはり設立直後以外は稀なので省略)

 

さて、A1とB1を「地位分化型」、

B2(B3もですが)を「地位非分化型(一体型)」と呼びます。

 

地位分化型:平取選任機関と代取選任機関が分化している

平取選任機関は(原則)誰が代取になるかまで決められない。

(効果):選任機関が別のため、代取だけ辞任して、

      平取でなお残ることもできる

(こちらは比較的分かりやすい)

 

地位非分化型(一体型):平取選任機関と代取選任機関が

分化していない

平取として選ぶのではなく、選んだ取締役は

代表権も持つ(=代取)のが原則。

ただ、選んだ人の一部を代取とすることもでき、

その場合は、代取とされなかった人(=平取)の

代表権を制限した、と考える

(効果):非分化のため、代取だけの辞任はできない

辞任すると、平取としても残れない

平取で残すには、株主総会で、上記の「代表権の制限」の決議をするが、

これは解任」として登記されるので、

会社内に内紛があると錯覚する人もいて、好まれない。

なお、一旦、平取としても辞任して、

即時再度、平取として選任することは可能。

(これが中々分かりにくくて、一般の方にはなんのこっちゃ?かも。)

 

ここをしっかり確認することが大切です!

 

3 定款規定の解釈について

さて、以上を踏まえて、本件を考えてみます。

 

「・取締役が一人の場合、その者が代取となる。」
「2人以上の場合、取締役の互選で代取を決める。」

 

まず、定款規定の後段の

2人以上の場合、取締役の互選で代取を決める。

これは上記のB1であることは明らかでしょう。

 

では次に、前段の「取締役が一人の場合、その者が代取となる。

はどうでしょうか?

 

これについて、コメント8では

「取締役が甲だけだった時には、実質的に各自代表で、取締役と代取の地位が分離していません。

従って、代取だけの辞任はできないと思います。」

という意見が出ていて、つまりB2だと言っていますが、

私はこの意見に反対です。

 

つまり、同一会社の代取やその定款規定で、

「代取だけ辞任できる」(分化型B1)と、

「代取だけの辞任はできない」(非分化型B2)とを

併存させる機関設計は可能なのでしょうか?

私はそんなことはできないと思います。

 

もしそれが可能なら、例えば、

「取締役2名以下の場合は、代取を株主総会で選任、

取締役3名以上の場合は、代取は互選で選任」

みたいな規定も可能のはずですが、

もし平取が増員され、そして代取も増員された場合、

代取の中に、代取だけ辞任できる人とできない人とが

併存してしまいます。

 

あるいは、本件では2名以上(今の設例では3名以上)で、

性格が変わるので、前の代取は退任、と考えられなくもありませんが、

そもそも、監査権限が変わった監査役と違い、

代取で、選任方法が変わった場合、その者が退任、

というのが明文でありましたっけ?(後述)

 

そして、同じ会社で、取締役の人数の変動で、

代取の性格や、その選任機関が変化するというのは、

異常ではないでしょうか?

 

むしろ、本件の場合の「取締役が一人の場合、その者が代取となる。

も、互選による代取選任である、と考える方が、

よほど自然な解釈です。

 

つまり、1人であれば、

互選と言っても、その者を選任するしかなく

また、代取を選任することは、取締役の義務であり、

善管注意義務に照らしても必須ですから、

その者が平取でいられるはずがありません。

 

この規定は、そのことを注意的に規定したものであり、

要はこの会社は、いずれにしても、

「分化型」であり、「互選により代取を選任」する会社なのです。

 

そうなりますと、コメント3は、B2の非分化の話なので、

本件には当てはまらない、と思います。

 

4 発展問題

それでは、例えば、元々、非分化型の会社(代取は株主総会で選任)が、

定款変更して、取締役会設置会社(あるいは非設置会社だけど互選規定)

になった場合はどうか?

 

宿題でもあった、「前の代取は、何らの意思表示無しに退任となるのか?」

問題もここで顕著になります。

 

これについて、司法書士の商業登記ブログでは有名なものの1つがヒットしました。

(なお、同姓の方ですが、残念ながら親戚ではありません。

なお、「その5」まであります。このリンクは、その1↓)

http://blog.goo.ne.jp/chararineko/e/bdb39d95175d20f1960307e6e00bdd61

こちらでも、「自動退任」については、そのような説もあるが

「懐疑的」とされています。

 

なお、定款変更に際して、定款附則で、

「従前より就任している代取は、変更後の定款第○条の規定により

選任されたものとみなし……」のようにすれば、

やはり紛れが無くなるので、実務的にはよく行われます。

 

 

5 「商事法務NO.1778.P4-14」について

コメント4で紹介されている文献ですが、

私も持っていません。

(なお、余談ですが、神奈川会は図書館的なものはありません。

若干の書籍は持っていますが。)

 

ただ、これについて、「商事法務NO.1778 代表取締役」

で検索すると、この辺がヒットしました。

 

1つは、上記と同じ、同姓の著名な先生

(その4まであり、なお、前記事からの続きのようです)。

http://blog.goo.ne.jp/chararineko/e/a7427e76e7d34e63244d87364b029a2b

もう1つ、こちらも。

https://ameblo.jp/sihousyosi-nishide/entry-11736028102.html

正直、こちらの「葉玉説」私には理解できません。

詳しい方がいらしたら解説頂きたいです。

その他、御意見等ございましたら、コメント欄など御利用下さい。

 

以上、大変長くなって、書くのに思いのほか時間がかかりました。

とほほ。