② 長崎オランダ村
参考
かつては草木の生えない泥沼、今はカブトガニも生息する場所に。変わり続けるハウステンボスの変わらない魅力とは
人間と自然が共生する“光と花の王国”ハウステンボスは、今や世界の若者が環境を学ぶ場になっている。
ハフィントンポスト(209.10.15、参考)
近世のオランダの街並みを自然とともに再現したテーマパーク「ハウステンボス」(長崎県佐世保市)は経営危機を乗り越えるたび、雰囲気が変わってきた。
アトラクションを拡充したり、映像や音楽で疑似体験を楽しめる最先端の施設を設けたり。来場客は増え、経営も上向きになった。
そんな中、ハウステンボスが開業以来、変わらず大切にしてきたものがある。それは「環境保護を考える実験の場でありたい」という思いだ。
草木も生えない埋立地から、約30年前に誕生したハウステンボスの本当の狙いと楽しみ方を紹介する。
インスタ映えから絶叫まで。老若男女楽しめる“日本のオランダ”
場内を流れる運河、実在する豪華絢爛な宮殿や石像、庭園を再現した街並み──。日本にいながら、ヨーロッパの空気を味わうことができるテーマパーク、ハウステンボスだ。
あちこちで「インスタ映え」を求めてカメラを構える若者を見かける。子どもたちはVRを活用したジェットコースターや巨大な立体迷路を楽しみ、大人はクルージングや街歩きを満喫している。
一時は「万年赤字」のレッテルを貼られた経営から、見事にV字回復。工夫を凝らしたアトラクションや景観、多彩なイベントが大人気だ。
定番は、春のチューリップを始め、一年中咲き誇る季節の花。冬には全国ランキングで1位に輝いたイルミネーション「光の王国」が開催され、全国各地から来場者が集まる。
自然の木々を生かしたアスレチックから、VRなど最新技術を駆使したジェットコースターまで、約50のアトラクションは1日では遊びきれないほど。馬車やカヌーでの観光など、その日の気分でいろいろな楽しみ方ができるのも売りの一つだ。
そんな笑顔あふれるこの場所はかつて、草木一本育たない埋立地だった。
オランダにならう、自然と人間が共存する国造り
そんな華やかさからは想像もつかないほど、かつてこの場所には淀んだ泥沼が広がっていた。高度経済成長のころに長崎県が工業用地として造成したものの、誘致に失敗。企業の進出はなく、10年以上も放置された。
雨が降るたびに巨大な水たまりができ、乾燥するとひび割れして悪臭が漂った。土地の活用をどうするか──。県が目をつけたのが、ここから約30キロ南ですでに開業していた「長崎オランダ村」だった。
長崎とオランダにはつながりがあった。日本が鎖国下にあった江戸時代、長崎に出島が設けられ、唯一、オランダとの貿易が認められていた。
一方で、オランダは国土の多くを干拓で造成。人工的に作られた土地にも豊かな生態系が残されており、そうした姿勢を模倣しながら土地の「再生」に取り組みたいと考えた。
自然や環境に優しい人工物を作りたい──。そんな思いが結実したのが、1992年に開業したハウステンボスだった。
ハウステンボスの理念は徹底されている。開発段階では、土壌をごっそりと入れ替え、約40万本の苗木や花を植樹した。
施設のシンボルにもなっている巨大運河の護岸や、隣接する大村湾の沿岸には、コンクリート製の護岸はいっさい使っていない。地面にも自然の石やレンガを使っている。
こうして長い年月をかけて徐々に生態系を取り戻し、運河には「生きた化石」とも言われる天然記念物カブトガニも生息するまでになった。
人工物であるはずの施設の中にもこうした豊かな自然が根付いていることこそ、ハウステンボス最大の売りでもあり、施設内で採れた野菜を使った食事をレストランで楽しむこともできる。
マザーハウスのバッグがくれたヒント
新しい取り組みがクローズアップされがちな中、ハウステンボスが開業以来、大切にしてきた自然との共生について、ハウステンボス株式会社の坂口克彦社長に聞いた。
──ハウステンボスは開業の時から、一貫して「環境と人間の共生」を掲げていますね。現在の具体的な取り組みを教えてください。
今後は場内のバスをEV(電気自動車)化する計画をしており、ゆくゆくは施設で使う電力全てを自家発電でまかなえたらという目標を掲げて太陽光発電の規模を拡大しています。
そのエネルギーを使って育てた葉物野菜やハーブは、場内のレストランで提供しているんです。
広大な敷地、かつ私有地という強みを生かし、ベンチャー企業や大学研究室などと協働して様々な実験も進めています。
案内ロボットの試験運転や、ドローン撮影も敷地内であればできますし、二酸化炭素を排出しないゴミの熱分解など大規模な試行も可能ですから。
──環境に配慮した経営に、坂口社長はどのような思いで取り組んでいるのでしょうか。
個人的に強くインスパイアを受けているのが、マザーハウス代表の山口絵里子さん。「途上国から世界に通用するブランドを」という方針に深く共感して、バッグもいくつか購入しています。
商品の背景に共感したり、感銘を受けたりして買った物なので、とても思い入れがあるんです。
自社もそんな風に、共感してもらえるような経営をしていきたいですね。
「ハウステンボスに行くことで、自分も間接的に環境に良いことができている」と思ってもらえる場所にできれば、来場者にとってより思い出深い経験になる上、スタッフが本当に誇りを持って働ける仕事になると考えています。
──最近では、SDGs(持続可能な目標)に貢献する企業も増えています。長年、環境保護に取り組んでいる中で、何か変化を感じますか。
「どうせ買うなら環境に配慮したメーカーのものにしよう」と思って選ぶ人が増えていますよね。消費者の意識が高まっているので、企業も中途半端ではダメ。本気で取り組んだ結果、消費者がそれに共感し、応援してくれるサポーターになってくれるんだと思います。
ハウステンボスが目指しているのは単なるテーマパークではなく、「環境ビジネス都市」です。モナコ公国に匹敵する広さのこの施設で、真剣に「環境」ということに取り組めば、もっと変えられることがあると思っています。
浄水や太陽光発電設備、場内の自然環境の見学をし、「自然と共生する未来の社会」について遊びながら考えるプログラムを学生向けに長年提供してきましたが、近年では中国や台湾など、海外からの参加者も増えているんです。
1000人のスタッフで創る経営
──スタッフ一人ひとりと面談やランチをされているとうかがいました。そうした機会から経営のヒントを得ることもあるのでしょうか。
一人ひとりとの面談は、もうすぐ200人に届くというところです。1000人以上いるので、まだまだですね(笑)
環境への取り組みや、多様なイベントへのアイデアもそうですが、今月から始まるパスポートの料金改定も、スタッフとの面談をきっかけに実施することになりました。「アトラクションや施設で、都度料金をいただくのは申し訳なく感じる」という意見を聞いて、「確かにその通りだ」と。
来場者の顔を一番よく見ているスタッフからの意見を反映することが働きがいにつながり、来場者の満足度にも直結すると考えています。
──ビジネスと環境保護の両立は難しいと言われることも多いと思いますが、今後の経営や取り組みに関して聞かせてください。
環境を守ることは目先の利益のためではないんです。両立といっても、今はビジネスと結びつけて考えているわけではないです。
ハウステンボスのブランドイメージ、スタッフの働きがいや誇りにつながることを願って、環境への取り組みを続けています。
ただ、環境保護って、研究や設備投資でお金がかかると思われがちですが、広告費や宣伝費、人件費... トータルコストで考えたらむしろプラスになっているんじゃないかと思いますよ。
ハウステンボスと聞くと、「光の王国」というイベント名の通り、四季折々の花とイルミネーションを思い浮かべる人が大半だと思います。
でも、これからは、それと同時に「環境に配慮したテーマパーク」というイメージを持ってもらえるよう、創業時からの一貫した信念と誇りを持ちながら、どんどん新しいことに挑戦していきたいですね。
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この「声」をもとに、ハウステンボスはこれからもどんどん生まれ変わり、新しい姿を見せてくれそうだ。