縄文時代の日ノ本(ヒノモト)の首都圏である東日本と弥生時代以来の日本(大和、ヤマト)の首都圏である西日本を結ぶ聖なるラインの真上に、浜松市の賀茂神社があり、江戸時代のこの地に生まれた賀茂真淵がいる。
彼は古事記、日本書紀、万葉集をベースに日本を研究する国学に取り組み、日本語についても研究した。そして本居宣長へも影響した。
賀茂真淵が取り組んだ「国学」とはどんなものであったかを学ぶため、浜松市を訪れた。
※国学とは『古事記』『日本書紀』『万葉集』などの日本の古典を研究して、儒教や仏教渡来以前の日本人のモノの見方や考え方を明らかにして、そこに日本人の生き方を見い出そうとした学問。
三方原台地のはずれ、雄踏街道「商工会議所」信号を北に坂を上がると、「賀茂真淵記念館」がある。賀茂真淵に関する重要な資料を約2,000点以上所蔵している。国文学研究の為に、資料の閲覧に来る方も多いという。
館長の松下了三(りょうぞう)さん
「国学は、現代に生きる私たちに、もっと自分の国の事を深く知り、古(いにしえ)のことを知る中で自分をしっかり見つめようという自覚を促すものです。また、そこから、今風化しつつある日本人の心を呼び覚まし、日本人の本性を大切にした生き方を呼びかけるものでもあります。」と松下さん。
賀茂真淵をよく知らない私は、先ず記念館の案内ビデオを見ることにした。最初に合唱団が「旧浜松市歌」を唄っている。市歌の1番は、万葉の昔を詳しく究め明らかにした賀茂真淵を称えている。「真淵翁を偲べよ、古の書物を読むならば」と。
葵の紋服を拝領した賀茂真淵(手本張り賀茂真淵像より)
賀茂真淵は1697年、現在の浜松市中区東伊場に、賀茂神社神官「岡部政信」の3男として生まれた。26歳の時、荷田春満(かだのあずままろ)に出会い、国学への目を開いた。学問に励み、50歳の時八代将軍「徳川吉宗」の次男「田安宗武」(たやすむねたけ)の和学御用となり、宗武40歳の誕生祝いの際に、葵の紋服を拝領した。
真淵は晩年ことばの研究の総まとめとして『語意考』(ごいこう)を書いている。語意考は、契沖という学者が作った五十音図を基にして音韻や語法を説き、ことばの基礎を整理したものである。これは、現在使われている文法に大変役立っていてる。
書道の手本となった自筆(手本張り賀茂真淵像より)
『なにはつに さくやこのはな ふゆこもり』。この歌は王仁(わに)の作といわれ、手習いの基本の歌になっている。当時、教養人の間では、「真似ることが学ぶこと」といわれ、和歌等でも本家取りといった、真似をした歌が多くあった。現代では盗作と言われることが、当時では学ぶことでもあった。
松坂の一夜
『出会いが人生を変える』とは、正にこの一夜のことである。1763年賀茂真淵67歳の時、近畿地方の旅の途中、伊勢の国(三重県)松坂で若き頃の本居宣長(もとおりのりなが)と出会う。話が古事記の事になると真淵は「順序正しく進むことが学問の研究には必要ですから、まず土台を作って、それから一歩一歩高く上り、最後の目的に達するようになさい。」と宣長を指導する。その後、宣長は絶えず文通をして、真淵の教えを受けた。両者面会の機会は松坂の一夜限りであった。宣長は真淵の志を受け継ぎ、35年の間努力を続け、古事記の研究を大成し『古事記伝』を完成させた。古事記伝は日本国文学の上に不滅の光を放っており、「世界で十指に入る名書である。」と松下さん。
記念館では、毎年「小・中学生の為の夏休み学習展」を開催している。また、一般向けとして各種講座を開催しているので、詳しくは記念館にお問い合わせいただきたい。
賀茂真淵は和歌にも優れた才能が有り、多くの歌を詠んでいる。記念館中庭には、真淵の歌に出てくるゆかりの草木が植えられている。これらの草木が出てくる歌を探すのも一興だろう。国語の苦手な私は、一から出直したくなった。
『賀茂真淵記念館』所在地: 浜松市中区東伊場1-22-2
TEL:053-456-8050
開館時間:9:30~17:00
休館日:月曜日(祝日を除く)・祝日の翌日
② 賀茂神社、浜松市(参考)
神社名:賀茂神社
鎮座地:静岡県浜松市西区
御祭神:鴨建角身命、別雷命、ほか十八柱
例祭日:9月8日9日
社格:旧郷社
この一帯は京都賀茂神社の荘園であったという。その縁で賀茂神社が勧請されたのでしょう。神社の南には伊場遺跡があり、古くから集落として発展していたようです。
伊場遺跡の一部を公園として公開しています。資料館わきから鉄道引込線の踏切をわたると、古墳時代の住居、弥生時代の環濠、葦原、奈良平安時代の建物跡が並んでいます。公園内は、自由に散策いただけます。JR東海道線や東海道新幹線の車窓からも眺めることができますから、お確かめください。
弥生時代の環濠の一部(北端)をそのまま保存しています。
かつての伊場遺跡周辺、湿地がひろがっていました。