民法 物権 抵当権
結論
追い出せる
解説
占有屋とは、競売対象になりそうな不動産に占有し、立退料をもらおうとする悪い奴。落札者としては、早く明け渡して欲しいものだから立退料を支払うことを約束してしまうことがある。立退料を支払う分、それを費用と考える落札者は、入札価格を下げるので、債権者が優先弁済を受けられる金額は減少する。大きな視点で考えると、占有屋の存在は競売市場にとって損害以外のなにものでもない。
占有屋には、力押しで家の鍵を換えてしまうようなヤツ(こいつを便宜上、タイプαとする。)と、抵当権実行されたくない抵当権設定者とグルになって安い賃料で賃貸借契約を結び居座る知恵のあるヤツ(こいつを便宜上、タイプβとする。)がいる。力づくだろうが、知恵があろうが、占有屋であることにかわりない。
なお、昔は、賃貸借契約が短期賃貸借(建物3年以内)だとその契約期間が満了まで、賃借人保護の観点から、競落人は賃借人を追い出すことができなかったが、この制度も占有屋が悪用したせいで、現在では短期賃貸借保護制度は廃止されている。その代わりにできたのが、建物明渡猶予制度である。
さて、話を元に戻す。
かつての判例は、抵当権者には占有がないことをもって、抵当権者が抵当権に基づく明渡請求をすることができないとしていた。その時代は、しょうがないから、抵当権者は、抵当権設定者(抵当不動産の所有者)の所有権に基づく返還請求権を代位するという、遠回りの理屈をとっていた。遠回りの上に、タイプβに対しては使えない、不完全な方法であった。なお、この理屈自体は現在でも通用はするが、普通は使わない。
だが、現在は判例も、要件を満たせば、抵当権に基づく明渡請求を認めている。
その要件とは、タイプα相手だと、占有屋の「占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるとき」であり、タイプβ相手だと、この要件+「占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められるとき」である。
小難しい表現だが、占有屋がいれば、優先弁済請求権の行使は困難だろうし、タイプβなんて競売手続妨害目的があるに決まってる。追い出せる結論ありきで、もっともらしい要件を作っていると考えておけばいい。
さて、これで追い出せることは分かった。ただ、この追い出しは、あくまでも、抵当権設定者に戻すよう請求することであって、抵当権者自らにその不動産を渡せと言えるわけではない。なぜって、抵当権者には占有が元からないから。
そこで、タイプβのヤツがいるときに新しい問題が生じる。タイプβに、「抵当権設定者に戻せ!」と言っても、その抵当権設定者は実はタイプβとグルになっていた人だ。グルの一方にもう一方に戻せと言っても意味がなさそうというのは説明するまでもなかろう。
そこで、追い出しのかけ方として、抵当権者が「自分にその不動産を渡せ!」とまで言うことはできないか?が問題となる。
これについて、判例は、要件を満たせば、それも認めましょうとしている。
その要件とは、「抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できないとき」というもの。
これも小難しく聞こえるが、占有屋とグルになってしまったような人に、抵当不動産を適切に維持管理することが期待できるはずがない。こっちの要件も、結論ありきでつけられた理屈というわけ。
ということで、占有屋がいる場合、抵当権者は抵当権に基づいて明渡しを請求できるし、場合によっては、その不動産を自己に渡すように請求することもできる。