パートとして半年働いた頃
次の年に「嘱託職員」という立場で働くための資格取得を勧められました。
「いまさら資格を取ったって、すぐ辞める歳になる」
「お金も随分掛かるし、神奈川で一週間の研修もあるし」
「そんな資格、いらね~や」
と、もう資格の話は関係ない物と忘れていました。
そんなある日に副施設長から
「しま猫さんと一緒だったら資格を取ると言ってますよ」
どういうこと?
それは資格は取りたいが一人でやるのは心細い、
誰かと一緒なら資格は取りたいという
同期に就職した若い女性支援員の申し出でした。
「困った奴だな~」
でも、前途ある若い支援員の志を無にすることは出来ません。
それ以上に一緒に研修に行けることに嬉しさを感じていたのかもしれませんがw
とにかく、不埒な理由も内包しつつ、
意を決して、資格を取るために一年間の修学をする事に決めました。
最初は定期的に送られて来るテキストに回答する方式。
初めての内容も多いですが、心理学や医学と言った興味のある分野も有り、
そこそこ楽しみながら提出することが出来ました。
そんな感じで半年以上が過ぎ、
いよいよ研修で神奈川県の施設に出向くことになりました。
「暖かい」
雪深く寒い田舎から出てきましたので
まるで別世界のようでした。
大きな施設に大勢の方々が全国から来ています。
年齢も様々で、施設長から新人まで立場も様々でした。
毎日 講義と講習があり、それが終わると同行の女性支援員と
ラウンジで講習の内容や自分達の施設の事などを語る日々が続きました。
知らない方々が大勢居て、少しの緊張感はありましたが
大人しく講習さえ受けていれば「どうってことない」そう思っていました。
そんな私に「どうってことある」事態が起きるとは知らずに。
それは後半の講習。
レクリエーションのような形で
「デートゲーム」というのをやりました。
内容は、不特定多数の女性の中から日替わりのデートの約束を
7人分取り付けるという物でした。
「なんでそんな恥ずかしい事をしなければならないのか?」
「この講師は頭がおかしいのではないか?」
そう思う間もなく「見つからなかったら罰ゲームで~す」「はい、スタ~ト!」
「ふざけんな、職人魂に誓ってナンパなんか出来るか!!」
そういくら思っても、廻りは必死になって声をかけ続ける男ばかり、
仕方なく、本当に仕方なく、私は人生初の「ナンパ」という行為を体験しました。
それは恥ずかしくて、恥ずかしくて仕方なく、時間ギリギリまで交渉して
やっと後一人になったとき、一緒に来た女性支援員の姿を見つけました。
「よし、こんな恥ずかしい事もこれで終わる」
「○○曜日が居ないんだけど、大丈夫?」
「もう埋まってます」
「うらぎりもの」(泣)
ああ、この講習は 恥ずかしさと理不尽さに耐性を付けるためのゲームなんだな。
なんとか一週間の約束を取り付けられた私は、安堵しながらそう思っていました。
そして安堵よりも、この経験がトラウマにならないだろうかと心配していました。
案の定、この経験は私の「心の傷」としてまだ残っています。
ですが それ以上に、ゲームとはいえ
「こんな爺からデートの誘いを受けて断らない優しい女性が」
「地球上に少なくとも7人以上は存在する」
と言うことに感謝しなければなりません。
まさに「愛は地球を救う」です。
そんなスリルとサスペンスと眠気に襲われた一週間が過ぎ、
最終テストも全員合格という、奇跡的に優秀な人達が集まった研修会は、
最後の一日を迎え、ある講師の方の講義で締めくくられました。
それは徳川さんという、多くの施設を創設・運営されている方の、
「十円玉の重み」
というお話でした。
正確に内容を覚えているわけではないので要約しますが。
■自分の施設に、ペンを組み立てる内職の仕事の依頼があり、希望を募ったところ
何人かの利用者さんが「やりたい」と申し出ました。
その中に 寝たきりの重複障害者の方が居ましたが、
「自分もやる」という強い意思があり、支援員も了解して内職仕事が始まりました。
仕事は簡単な物でしたが、やはり重い障害のある寝たきりの方は仕事が捗らず、
僅かに進めながら一ヶ月かかって、やっと数本のペンを組み立てられたそうです。
そして納品になり、それぞれの利用者さんに出来た分だけの工賃が支払われました。
多い人は二千円以上稼ぎ、とても喜んだそうです。
そしてあの寝たきりの重複障害者の方も十円の工賃を受け取ったそうです。
その人は、その十円をとても大切にして いつも手に握っていたそうです。
そしてある日、その方の所にお母さんがいらして
十円を持っていることを疑問に思い、本人に聞いてみたところ。
「自分で稼いだ」と言ったそうです。
でも母親は、それはとても信じられないと疑っていました。
そしてそれが どういうお金なのか気になり、施設の職員に聞いたところ
「いや お母さん、その十円は確かに お子さんが自分の手で稼いだ十円ですよ」
と説明され、お母さんは その場で泣き崩れたそうです。■
十円は、どんな経緯があろうが十円に違いありません。
ですが その十円を、お母さんや事情を知っている施設の職員は、
そして本人は、他と同じ十円に思えるでしょうか?
たかが十円。でもその重みは計り知れない。
その想いは 私の支援の仕事を貫く強い指針になりました。
おそらく支援とかに関係なく、人生の指針になっていると思います。
「この話を聞けただけでも 来た甲斐があった」
こうして、あれこれ影響を受けた一週間の研修は終了しました。
帰ってから一ヶ月ほどして最終テストがあり、それに二人とも合格して
はれて「社会福祉主事」の任用資格を得る事が出来ました。
受講する前は色々考えましたが、今は行って良かったと思います。
勤め先によって、必要な資格は違うと思いますが
他の施設の方々との交流は、得難い貴重な経験でした。
みなさんも こんな機会が有りましたら、ぜひ受講されることをお勧めします。