異化効果が憐れにも逆効果になっている | GLORIOUS MEMORY

異化効果が憐れにも逆効果になっている


前回の投稿で、様々な生理的現象がない問題へのツッコミ殺到に対して、「現代人は想像力に欠けている」という題材で、私は厳しく批評致しました。

何故、視聴者には「想像力」が大切なのかを分かりやすくご説明致します。


ほとんどの視聴者は、ドラマを見る時には主人公や登場するキャラクターたちの人生に共感し、「感情移入」することで心が開放され、カタルシス(魂の浄化)を味わいたいと求めている。これを演劇理論に当てはめると、コンスタンチン・セルゲーヴィチ・スタニスラフスキー氏(1863年 - 1938年)が提唱する「リアル」を追求した「リアリズム演劇」です。

それに真っ向から対立したのが、オイゲン・ベルトルト・フリードリヒ・ブレヒト氏(1898年 - 1956年)が提唱する「異化効果」を取り入れた「叙事的演劇」です。

この演劇理論は、リアルなものをそのまま描きたいのではなく、そこにわざと非日常的な演出を投入し、観客の視点や概念を「感情移入」から切り離し、客観的立場から本当に伝えたい「真理(宇宙の道理)」を観客に気付かせようとすることが目的なのです。


実は、近年のドラマ、ミュージカル、アニメーションの作品は、この「異化効果」の手法を用いた演出が非常に多いです。例えば、ミュージカルでは『エリザベート』、アニメーションでは『新世紀エヴァンゲリオン』が当てはまります。

まさに、このドラマ『ペンディングトレイン』は、ファンタジーを投入し、もし人間がこういう状況に置かれた時、どう考え、どう判断し、どう行動するのかに視点を向けさせている。ただ単に、サバイバル生活を見せたい訳ではないのです。

しかし、せっかく「異化効果」を用いた演出が、視聴者の「想像力」が欠けていることによって、憐れにも「逆効果」になっていると私は申し上げたいのです(笑)


ちなみに、スタニスラフスキー氏とブレヒト氏の演劇理論は、本質的には「表裏一体」であり、対立している訳ではない。これについては、ここでは述べず改めて講義させて頂きます。


島倉 学