「紀州ドン・ファン」殺害裁判で無罪判決 素人裁判官の存在意義

 

「疑わしきは被告人の利益に」で大方の予想を覆す

齢(よわい)67になった。20歳代の女性を娶(めと)る「男のロマン」?達成は命がけであるようだ。酔って「膝がツルツルしてる」とのたまい、周りに「キャー、それってセクハラ~」と叱られる。このパターンでモテた気分になる悲惨なサッコンである。「女性の若さ」と「男性の経済力」は『社会的交換価値』において極めて高い取引材料になることは確かなようだ。

あいかわらず前置きが長くなった。12月12日、和歌山地裁福島恵子裁判長・裁判員裁判)は同県田辺市の資産家で「紀州のドン・ファン」と呼ばれた野崎幸助さん(当時77)を急性覚醒剤中毒で死なせたとして、殺人と覚醒剤取締法違反に問われた元妻の須藤早紀被告(現在28)に無罪を言い渡した。検察の求刑は無期懲役。「疑わしきは被告人の利益に」の刑事裁判の大原則が貫かれた。検察側は「上級庁と相談する」と言っているが、私の予想では99・8%の可能性で控訴するだろう。この数字、起訴案件の有罪率だからだ。

 

素人6人プロ3人で「多数決」 出世に関係ない素人の直観

まず裁判員裁判のおさらい。話題になるような大きな刑事裁判で1審にのみに採用される裁判方式。無作為に選ばれた素人裁判官6人プロ裁判官3人が判断する。原則は多数決。ただし有罪判決を出す場合はプロ裁判官1人以上の同意が必要である。であるから無罪判決は素人裁判官だけでいける。この「有罪判断○人、無罪判断□人」の内訳は、未来永劫極秘で公開請求の対象にもならないし、検察側にも被告側にも通知されない。

プロ裁判官は検察側の求刑に対し刑期で言えば7掛け・8掛けの有罪判決を出しやすい。自分が無罪判決を出して、上級審に進み有罪判決が出るということは、一般企業で言えば上司が部下の通した企画書を破り捨てるようなものだからだ。出世に響く。なので刑事事件での起訴後の有罪率は99・8%となる。この点、裁判員裁判は無罪を素人裁判官のせいにできる点において有意義である。だから予想外のことも起こり得る。

2審以上はプロ裁判官のみになる。

 

詰めが甘かった検察 遺産目的の動機に重点を置きすぎか

裁判の経過を見ていて、今回は検察側の詰めが甘かった。遺産目的という「動機」が真っ黒に思えたので、安易に状況証拠を積み上げた感がある。「いくら薄い色のフィルムを重ねても黒になることはない」と評論家はいっている。印刷でも色を重ねれば重ねるほど黒に近づくことは確かだが、真の「黒」を出すには「K版」フィルムを入れる。Kは「黒」ではなく、「キー・プレート」の頭文字。今回の裁判でもキーになる決定的な直接証拠がなかった。

 

和歌山では「毒入りカレー事件」以来の話題裁判

これだけキャラの立った人物が登場する裁判も珍しい。和歌山といえば「毒入りカレー事件」が思い出されるが、あの時も濃いキャラでワイドショーがよく取り上げた。カレー事件は4人死亡で有罪判決は死刑を意味する難しい判断だった。今回、死亡したのは1人だが、遺産が大きい。遺言状では「遺産の全額を田辺市に寄付」とあったようだが、妻だった須藤さんには遺留分(5割)を受け取る権利がある。有罪なら遺留分ももらえない。この遺言状が本物かも裁判中である。