現代版『羅生門』 兵庫パワハラ騒動は前知事「再選」で決着

 

黒沢明監督もビックリ?エゴぶつかり合いの構図

今回の「兵庫県知事パワハラ騒動」を遠目で眺めながら、かつて名画座で観た黒沢明監督の『羅生門』の現代版だなと思っていた。1950年配給でベネチア映画祭金獅子賞、米アカデミー賞名誉賞を受賞した名作。「日本映画」の存在を世界に知らしめた。

あらすじをおさらいすると、平安時代、ある武士の殺人事件めぐって、目撃者や関係者それぞれが自分の利益になるように、食い違った証言を繰り広げる。それぞれの言い分に十分説得力があるように描かれ、人間のエゴイズムの特質をついている。原作は芥川龍之介だが、映画の方が分かり易いかもしれない。

 

14万票差で大勝 斎藤前知事、出直し選を制す

前置きが長くなった。もう結果はご存知だろうが兵庫県知事選である。不信任で失職した知事席を巡る出直し選挙は、11月17日、投開票され前職・斎藤元彦氏(47)が当選。県民は続投を支持した。次点と14万票差がつく思わぬ大勝だった。投票率は55.65%で前回より14.55%増。

前半は権威を笠に着た知事のパワハラとおねだりが部下を自殺に追い込むストーリーで展開。後半は既得権益を守りたい県議たちを敵に回し孤軍奮闘する冤罪の前知事というストーリーだったように思う。

社長の出身派閥が変わると民間企業でも組織はガタつくもの。多選の知事のあとでは行政組織でも同じことが起こるようだ。

 

投票先で参考「SNS」が最多30% テレビ・新聞を凌ぐ

前半は既存のマスメディアが盛り上げ、後半はSNSが大きな役割を果たしたようだ。

NHKは出口調査で、投票先を選ぶ際に参考にしたメディアを聞いている。それによると「SNS動画サイト」30%、「新聞」24%、「テレビ」24%となった。

SNSで独自ネタを先行させる報道を制限されているNHK(民放圧迫排除の原則、テレビ・ラジオの2次利用はOK)にとって皮肉なデータとなった。選挙におけるテレビ・ラジオの利用は「空中戦」と言われたが、YouTubeなどのSNS利用は「情報どぶ板戦」と言うべき草の根運動のような役割を果たしたのではないか。

 

総選挙を挟んで風向き変わる SNSの重要性を確認

百条委員会が結論を出す前に不信任決議案を可決して知事を失職に追い込んだ兵庫県議会の「速攻作戦」は、間に「総選挙」(10/27)という大イベントを挟んだことで風向きが変わってしまったように見える。とくに国民民主党の玉木代表がSNSで「103万円の壁」を訴えて勝利。これが刺激になったのは間違いないようだ。

 

情報をかける篩(ふるい)の目が細かくなるSNS

兵庫県議会のメンツは不信任決議案の可決時と変わっていないため、斎藤知事は大船に乗ったというわけではないが、県民の「みそぎ」は済ませた状態になった。旧来の大手メディアが「悪」で、SNSが「善」という評論もあるようだが、私には、細かい事まで逐一伝えるメディアが増えたことで、情報をかける篩(ふるい)の目が細かくなったように見える。