「半導体って何?」早わかりIT技術[栄枯盛衰]物語【歴史編】
そもそもはソニーのトランジスターから始まった
半導体の実用化においてはソニーの果たした役割は大きかった。半導体素材(シリコンなど)に不純物を混ぜ、刺激を与えると、プラスの性質をもつ「P型半導体」とマイナスの性質を持つ「N型半導体」に分離する。「N型」「P型」「N型」の配列でくっつけると、半導体装置の最小単位である「トランジスター」ができる。電気を[通す][通さない]の、小さな、小さなスイッチだ。これを使ったのがソニーの高性能トランジスター・ラジオである。1950年代の話だ。米国ではラジオのことを「ソニー」と呼ぶ時代があった。日本で小型飛行機をなんでも「セスナ」と呼ぶようなものだ。セスナは1企業名である。
現在の半導体装置はトランジスターが何億個も集積されチップ状になっている。壊れず使い勝手がいいようにプラスチックなどでパッケージされているのを私たちは日頃見ることになる。
日米半導体協定で日の丸半導体に陰り
ここから日本の快進撃が始まる。「日の丸半導体」の時代である。NEC、富士通、東芝などが世界シェアの80%を占める時代があった。これに危機感をもった米国は1986年「日米半導体協定」の締結を求めてきた。円安で有利な上に、日本メーカーはダンピングを行なっているというイチャモンだった。繊維→鉄鋼→自動車→半導体と、日本の最先端技術は米国の目の敵にされる運命をたどってきたわけだ。
企業用から個人ユースに、消費家電になる
1980年代は企業用大型コンピューターの時代だった。IBMの全盛期であり、日の丸半導体はこれに使われていた。
ただ時代は変わる。IT産業は開発と陳腐化を繰り返し体験することになる。耐久設備型の企業用大型コンピューターの時代から、消耗品家電としてのパーソナル・コンピューターの時代に移っていく。
技術立国ニッポンの半導体は高性能、長寿命、高価格。20年使っても寸分狂わないが、いかんせん値段が高かった。コンピューターが価格勝負の単なる消費財となり、個人ユースが中心になると気づくのが遅かった。1995年、マイクロソフト社のパソコン用OS「Windows95」の発売はそれを象徴する出来事だった。
インテルの隆盛、そして致命的な経営判断ミス
パーソナル・コンピューター(パソコン)は3年で陳腐化するといわれ、買い手も5年もすれば新型機種に目がいってしまう。明らかに日の丸半導体はオーバー・スペックのシロモノだった。この間隙を縫ったのがインテルだ。「インテルはいってる」時代の到来である。はじめからIT技術はすぐ陳腐化するものと理解し、安価でそこそこ高性能の半導体を市場に供給し続けた。インテル社長の陳腐化理論「ムーアの法則」は、その先見性でいまでも語り草である。
1990年代はインテルの時代であった。しかし、このインテルでさえも経営判断を間違えることになる。2007年、世の中を変えることになるアップル社のiPhoneが発売された。この時、半導体供給を要請されながら断ったのである。
「アプリ」で半導体回路図が作れる時代に
こんなとき半導体の生命線である回路図をつくるアプリを開発した企業があった。「arm」という聞き慣れない名前の会社だった。これにより回路図作りは飛躍的に簡単になった。こうなれば企画・設計が内製化の方に向くのは自然の流れ。あと工程(工場部門)は外注するにしてもだ。とくにアップル社のインテル離れは決定的になっていく。
高度化、分業化進む、露光機は世界でたった1社だけ
その一方、半導体が進化しすぎて、あと工程にしても分業化せざるを得なくなった。1工程、1工程で莫大な設備投資費用がかかるので自社製品だけを作っていたのでは採算が合わないのだ。
大まかに言って半導体の工程は22あるとされている。一気通貫は米国インテルと韓国サムスンくらいのもの。分業で、とくに難しいのは、回路図のフィルムの上から強い光を照射してシリコン上にミゾをつける工程だという。ミゾ幅2ナノ・メートル(10億分の2メートル)ともなると、当てる光の波長も選ぶ。短くなければならない。この機械「露光設備」を作れるのはオランダ「ASML」社だけ。シェア100%である。
自律兵器に使用、安全保障の中心物資に躍り出る
この半導体、兵器に使われているから話は一気にキナ臭くなる。電波妨害(ジャミング)、おとり、を掻い潜る自律型兵器には高度な半導体が大量に必要だからだ。国際安全保障のステージである。
世界最高峰の台湾「TSMC」(ノーブランド、受注生産のみ)が日本(熊本)、ドイツ(ドレスデン)米国(アリゾナ州)に工場を作ったのには、米国の影がチラつく。
次世代「ひかり半導体」では日本NTTが一歩リード
あまりに日本企業の話が出てこなかったので、言っておくが、ここまでは「電気半導体」の話。次世代は「ひかり半導体」が来ると言われている。電気より光の方が速い。ひかり半導体の研究が世界で一番進んでいるのがNTTである。
また「日の丸半導体」の時代が来るかもしれない。