NHK、3補選すべて「8時当確」、大河ドラマを遅らせた報道の底力

 

NHKの当確を以って『当確』となす、ってどういう意味

いわゆる「8時当確」だった。4月28日の衆院3補選は立憲民主党が完勝した。NHKは大河ドラマ「光る君へ」を10分ずらし。開票特番で選挙事務所のリレー中継を入れた。私はNHKの14階にある記者溜まりに13年間詰めたが、開票特番では「NHKの当確を以って『当確』となす」という言葉があった。民放が先に当確を打っても、NHKが打つまで事務所でのバンザイはおあずけ。そのくらいNHKは打ち間違えないし、権威があった。

ちなみに3補選とは、東京15区、島根1区、長崎3区である。

 

報道局VS番制局の覇権争い、「大河10分遅らせろ」

私は総選挙の開票特番を1980年代に2回ほど取材したことがあるが、NHKの廊下に並べられた特設の電話約100台。つぎつぎ運び込まれる貸布団と弁当の数に圧倒された覚えがある。

補選の開票速報を特番として編成できたのは、まだNHKの報道局に力がある証拠だ。NHKは技術・営業などの業務系を中立的部署として除外すると、報道局番組制作局(通称=番制=ばんせい)が勢力を争っている。人事交流もあまりないし、お互いよく知りもしないのに仲が悪い。私のような「コウモリ記者」は、報道局では番制局のことを批判的に、番制局では報道局の横暴をネタに、その場を盛り上げるのが当たり前だった。

であるから番制局の看板番組大河ドラマを遅らせるのは、かなりの「力わざ」である。すんなり番制局が飲むはずがない。「テロップでいいじゃないか」とまずゴネタはずである。まあ、テロップも脚本家・出演者にはかなり評判が悪い。いまは録画で見る人が多いのでそのたびに興ざめするからだ。

 

セクト主義の打開策はNHKスペシャルにあり

80年代、報道局と番制局の対立があまりに先鋭化しすぎたため、NHKの上層部は一計を案じた。それが『NHK特集』である。いまは『NHKスペシャル』と名前が変わった。この番組、事務のおばちゃんが企画しても面白ければ予算がついて、そのプロジェクトの人員も好きなように選べるというものだった。キャッチフレーズは「something new」(少しでも新しいものを)だった。これで縦割り組織を変革しようとしたのだ。

民間の事業会社でいうならば、繊維産業から誕生した大企業「カネボウ」がセクト主義で身動きがとれなくなり、「kurasie」と屋号を変えて出直したケースがある。「カネボウ」は化粧品部門だけがその名を継承しているだけとなった。NHKもこの辺りをよく見ていたということだったと思う。

 

「出口調査」より正確な情勢分析はなし

選挙結果については、いろいろな専門家が分析しているので素人の私がコメントすることもなかろう。今回「立憲が3補選で頭ひとつ抜きんでている」とNHKが自信をもっていたのは、電話・面接によるアンケート的な「情勢分析」でなく、期日前投票所での「出口調査」だったらしい。

そりゃ「誰に投票しますか?」より「誰に投票しましたか?」の方が結果にコミットするに決まっている。それもタブレットを使って極秘裏にすばやく答えさせる。これには優秀な人材とお金が必要となる。このあたりはやはりNHKの独壇場ということなのだろうか。