ザル法も法?「政治資金規正法」をかい潜る政治家あの手この手
匿名性の罠か、自民5派閥4000万円の不記載
「どこに投票しましたか?」
選挙のあと、こんなことを聞かれたらドキッとするのではないだろうか。
「こいつ非常識なこと聞きやがる」と思うかもしれない。
今回の自民党5派閥の政治資金パーティーにおける政治資金規正法違反(不記載・虚偽記載)疑惑の根底には、この感覚が「謎解きのカギ」として存在しているような気がする。
22年秋から「赤旗」が追及、NHKもいよいよ本腰
疑惑追及のきっかけを作ったのは昨年11月の共産党機関紙「赤旗」日曜版だった。これを機に大学教授らが自民党などを刑事告発。ことしの夏以降、NHKも本腰を入れて報道し、弱り目に祟り目の岸田首相があたふたする羽目になった。
「規制」ではなく「規正」と書く法律上の意図
政治資金規正法は戦後すぐできた法律だが、「規制」ではなく「規正」と言う字を使っていることに注目だ。民主政治はカンパや善意の支援で成り立つものなので、「制限をかけるつもりはありません」そのかわり「正しいものを発表(記載)してガラス張り」にしましょう。これが法律の意図なのだ。まあ、政治家の後援会は「ファンクラブ」であれ、みたいなことだろうと思う。
スズメの涙で東京地検特捜部が動くはずなし
で、今回、自民党5派閥に不記載が見つかったようだが、総額で4000万円ほど。自民党は政治資金パーティーで年間50億円以上動かすというから、スズメの涙程度だ。こんなことでなぜ東京地検特捜部まで動き出したのか。正直言うと私もわからなかった。だが、この謎を政治部記者が教えてくれた。
パー券購入は小口で複数、「名寄せ」はしない慣例
どこ派閥(政治家)を支持しているかを他人に知られたくないという心理は、企業でも同じなのだ。政治資金規正法で名前を公表しなくてはならないのは、1回のパーティーで20万円以上「パーティー券」を購入した場合だけ。ふつう、派閥のパーティーだと複数の議員や秘書などが企業相手に一斉に営業をかける。A議員筋から30万円分のパー券を買ったら企業名が出てしまう。
では、これはどうか。B議員筋から10万円分、C議員筋10万円分、D議員筋10万分と分割して買うのだ。派閥の事務局が「名寄せ」をキチンとしていれば当然公表しなくてはならないとなるだろうが、こういうところはけっこうぞんざいなのだという。もっとひどいと20万円以上受けとっていながら阿吽の呼吸で帳簿に数字を過少記載し「名前が出ないようにうまい事やっときましたから」ですませる方法もあるだろう。どのみち、法を潜り抜けて、不記載で訴えられたなんて聞いたことがないのだそうだ。
ネコババ議員も?これって「裏金」っていうんじゃないの
もうひとつ奇妙な現象が起こる。ノルマ以上の売り上げになった時である。派閥の政治資金パーティーなので所属議員全員にノルマが課せられる。当選回数が多くなればなるほどノルマはハードになるシステムらしい。E議員に100万円分のパー券ノルマがあるとする、達成しなければ派閥内で出世しないとか、長に小言を言われるとかあるだろう。逆にオーバーしたら正直に言って、素直におカネを渡すだろうか。普通は「ポッポ」に入れて「裏金」としてしまうのではないか。上納していても派閥側が気を遣って一部をキックバックすることはあり得るのではないか。
【追記:自民党安倍派はノルマを超えた売り上げを、売った議員に還流していたことを認めた(2023/11/30)】
東京地検特捜部がなにをしようとしているのか全く見えてこないが、もしかしたらE議員のような存在を見つけたのかもしれない。
「悪法も法のうち」というが、政治資金規正法という「ザル法」はけっこう興味深い。