「処理水」海洋放出へ。「事故」と「通常」汚染水のどこが違うの?
「富士の高嶺に降る雪も 京都先斗町に降る雪も」・・・「溶けて流れりゃみな同じ」。一定以上の年齢の方ならご存じだろう。ムード歌謡の旗手「マヒナスターズ」のヒット曲の一節である。
福島第一原発の処理水放出OKのニュースを見ていてこの歌を思い出した。
IAEAお墨付き、グロッシ事務局長「安全基準クリア」を表明
IAEA(国際原子力委員会、グロッシ事務局長)は7月4日、福島第一原発の処理水海洋放出計画は国際的安全基準をクリアし、人体への影響は無視できるほど、とした報告書を岸田首相に提出した。
2011年3月11日の東日本大震災で炉心が溶け落ちた福島第一原発。この時点で原発は停止した。止まった原発から出る処理水と、通常運転する原発から出る処理水は全く同じものなのか。これが最初の疑問だろう。
マスコミは「この処理水は有害か無害か」ばかり論点としているが、もっと源流にのぼって検証する必要がある。
結論からいうと「アルプス(ALPS=多核種除去設備)」と通せば、両者の差はほとんどないらしい。人体に影響のない程度のトリチウム(重化水素)を含んだ水となる。
汚染水ができるまで【事故】と【通常】の違い
【事故汚染水】
水福島第一原発では炉心溶融で、溶け落ちて固まった「核燃料デブリ」が勝手に核分裂を起こさないように海から汲んだ水をかけて冷やしている。これは高濃度の放射能を含んだ汚染水といわれるものだが、実はこればかりではない。原発の西側から大量の地下水が流れ込んで、建屋のひび割れなどから中に侵入し、冷却用の海水と混じってしまっている。これだから原発の空き地に所狭しとタンクが並んでしまったわけだ。冷却水と核燃料デブリが触れているのでトリチウムも含んでいる。
【通常運転汚染水】
では通常運転の原発ではどうか。原発は核分裂のエネルギーを熱エネルギーに替え、沸騰したお湯(水蒸気)でタービンを回して発電をする。この水蒸気を冷やして再利用する。こうした過程で放射能を帯びてしまうので、これも汚染水と言われるものになる。
もう一つ、「水」には重要な任務がある。核分裂を連鎖的に起こさせるには、核分裂で飛び出した中性子を次の核燃料にぶつけてやる必要がある。だが、中性子のスピードが速すぎると核燃料をすり抜けてしまって、反応しない。このスピードを落とすために水が使われるのだ。この役割を「減速材」という。水は安上がりな減速材ということができる。中性子と水が一緒のところにあると、トリチウムがどうしても出来てしまう。これはトリチウムを含んだ汚染水と呼ぶことができる。
結局はトリチウムを含んだ「ただの水」。風評被害はまだ心配
これをALPSでもって濾過(ろか)すると、【事故後汚染水】【通常運転汚染水】両者ともトリチウムを若干含んだ「処理水」に落ち着くということになる。トリチウムは自然界にも普通に存在する「水」の同位体なので、IAEAは人体への影響は無視できるとの結論を導いたのだろう。
放出賛成論者のいう「中国も韓国も原発近くの海にトリチウムを含んだ処理水を捨てている」というのは事実である。もうひとつ事実をつけ加えるならば「日本の通常運転の原発からも処理水は大量に出ていて海に捨てている」となるわけだ。
事故を起こした原発から出ているので「縁起が悪い」というだけで「風評被害」が出てしまっているようである。