G7広島サミット、ゼレンスキー氏の独り舞台に 踊ったメディア裏の裏

 

戦争当事国のトップに来るなんてあり得るの?

率直な感想を言えば「ゼレンスキー氏にすべて持っていかれたなぁ」である。5月19日から21日まで開かれたG7広島サミットの話だ。戦争をしている当事国の大統領がきてしまったのだからしょうがない。

ゼレンスキー氏がなぜ来たか? それをメディアはどう報じたのか? 記者経験者としてはこの2点が気になった。

 

ラジオで辛坊治郎氏的中 思っても言えなかった大手の本音

まずメディアの扱いである。放送系からオンライン系、SNS系をざっと見ていたところ、なんと一番乗りで「ゼレンスキー氏来日」を予言したのは、一番縛りがキツイ放送系だった。ニッポン放送のラジオ昼帯「辛坊次郎ズームそこまで言うか」。パーソナリティの辛坊氏が「バイデン米大統領が債務上限法案を棚ざらしにしたまま広島に来るということは、とんでもないサプライズが用意されているに違いない。考えつくのはゼレンスキー氏しかいない」と、18日の放送で言ってのけたのだ。

 

「事実を曲げず」「遅れをとらず」よくやるメディアの奥の手

説得力はあったが大手メディアは追っかけ記事にせず、Twitterだけが大いに盛り上がった。

大手メディアがこの手で「誤報」を出すと国際問題にもなるし、戦況に大きな影響を与えることにもなりかねない。大手メディアの記者は「事実を曲げない」という命題を追及しながらも、他社に遅れをとってはならないというジレンマを抱えている。作戦としては権威ある外電が打った直後に追いかける方策がある。例えば「ロイター通信が伝えたところによると」で始まる原稿を出す。伝えたことが当たっているにしろ、外れているにしろ、ロイターが伝えたこと自体は「事実」である、と理屈をつけるわけだ。裏がすぐに取れないときにやりがちである。

 

報道の「ファースト・ペンギン」 スクープ記者の孤独

報道の世界でも「ファースト・ペンギン」になるのは度胸がいる。スクープだと思って打ってみたところ、他社が全然追いかけてこない時の「あせり」は半端ない。こうした場合、単に裏取りに時間がかかっている場合もあるし、抜かれた記者が上司からこっぴどく怒られて変に奮起し第一報を凌駕する新情報を探っている場合もある。もちろん単なる「誤報」なので触る必要なしというときもあるのだが。まあ誤報を出したら、記者としては「進退伺」は書かざるを得なくなるだろう、。

 

米国の3権分立は日本の感覚とは大違い

キーパーソンはやはりバイデン米大統領だったろう。米国はキッチリした3権分立で大統領に予算編成権はあるが法案提出権がない。法案は議会が提出する。日本では予算編成権が内閣にあり、法案も7割方「閣法」と言われる内閣提出のものだ。

誰も米国が債務不履行になるなんて思っていないわけだが、統治機構上、制度として議会が法律を作ってくれないと話にならない。野党・共和党は来年の米大統領選に向け意地悪のしがいがある。だからバイデン大統領は「このままの状態で日本に行くことはあり得ない」と対面参加をあきらめる発言をしていた。

 

バイデン米大統領が暗に示したゼレンスキー氏来日

ところが「このままの状態」でも行く、となったのだ。旅行に参加するとしていたママが、娘の三者面談が入ったから「いけないかも」と言い出した。この場合、「やっぱ行く」となるのは三者面談が中止になるかリスケになった場合だろう。

 

バイデン氏は三者面談もあるが旅行にも行くといったようなもの。ただ、ここで「ゼレンスキー氏が来るから」とメディアで断言するのはなかなか勇気がいることだ。