「選挙番記者」に聞いてみた。4・23補選『おや?』の知られざる真相

 

 

補選の開票特番を見ていて「おや?」と思ったことがいくつかあった。この辺りを選挙担当の記者に聞いてみた。

 

深夜の「当確」、千葉5区って、そんなに接戦でしたっけ

まず衆院5区である。「当確」が出たのが、NHKでも深夜0時過ぎだった。これはあまりにも遅すぎないか。この選挙区、自民党前職が「政治とカネ」の問題で辞職して、かなり自民党に逆風が吹いていた。結果的に当選した英利アルフィヤ氏(自民の新人)は知名度に欠けていた。これだけ材料があると、NHKも自民候補者の「当確」は打ちにくい。NHKでは「自民候補者の当確打ち間違えは辞表モノ」と言われているそうだ。自民党に怒られるばかりでなく、放送法には「事実を曲げないこと」という条項があるので総務省からも怒られる。

でもである。衆議院の小選挙区だ。トップ5万票で約5000の差だ。接戦には間違いないが、「当確を打つのは大して難しくない」(報道マン)のだそうだ。これに対して、参院大分は20万票で競って300票差だから「途中で打ちようがなかった」とも言っていた。

 

「当確」「当選」はあくまで統計学、視聴者をくぎ付けにする法

統計学的に誤差を超える有意の差がついた場合「当確」。残りの票がすべて次点の候補者に入っても逆転されない場合が「当選」である。

衆院5区は千葉県の市川と浦安地区。4月23日(日)に何があったのか。勘のいい方ならお気づきだろう。東京ディズニーランドの40周年記念イベントがあった。浦安地区の道路が大渋滞して、投票箱の運び込みが大幅に遅れたのだという。

テレビマンによるとこうした場合「接戦、接戦、で引っぱる」のが常道で、視聴者をくぎ付けにしておく作戦なのだそうだ。聞いてみるとなるほど、の話であった。

 

山口2区、長州藩「岸家」が躓いたホームページの家系図

続いては山口2区。岸信千世氏(自民新人)がぶっちぎりの勝利とみられていたが、こちらは6万票で約5000の差だった。「おや?」である。政治の世界では「山口県はいまだ長州藩」といわれる保守王国。安倍元首相の実弟である岸信夫元防衛大臣の息子の出馬となった。遡ると「60年安保」で有名な岸信介・元首相までいく家系となる。

政治部記者によると信千世氏の作ったホームページが災いしたのだそうだ。血筋の良さを訴える家系図を載せたのだが、男系のみの家系図だったらしい。女性が一人も登場しない。これで女性有権者を敵に回してしまったらしい。

私も記者時代、家系図を出して血筋を説明することがあったが、男系だけにするとき、途中で側室が男子を産んで家督を相続している場合が多かった。家系図がやたら複雑になってしまうからだ。

信千世氏の家系図に、ここまで想像力を発揮した有権者もいないだろうが、「SNS選挙」といわれる時代。思わぬところで「墓穴を掘る」といことにもなりかねない。

 

 

【参考】

衆院千葉5区

当 英利アルフィヤ(自民新)       5万0578票

  矢崎堅太郎(立民新)         4万5634票

 

衆院山口2区

 岸信千世(自民新)          6万1369票

  平岡秀夫(無元)           5万5601票