臓器移植あっせんで逮捕者。億単位の闇ビジネスが成り立つ需要と供給
読売新聞の調査報道で警視庁も動いた
ベラルーシに渡航を促し、無許可で臓器移植をあっせんしたとしてNPO法人の職員(62)が警視庁に2月7日に逮捕された。2月28日は別の人にも話を持ち掛けていた容疑で再逮捕されている。動いたおカネは1億円以上といわれる。「臓器売買」といったショッキングな事案でないものの、ちょっとした「闇ビジネス」のニオイを感じる。読売新聞は昨年夏からこの実態を調査報道しており、警視庁も動かざるを得なくなったのだろう。
和田心臓移植を「殺人罪」で告発。60年代大ニュースに
今回の事件は腎臓だったが、おおきなニュースになったのは心臓移植だろう。話はちょっと古い。1968年8月、札幌医科大学の和田寿郎教授(故人)が溺死したドナーから心臓をとりだし心臓弁膜症と診断していたレシピエント(希望者)に移植した。これが日本初の心臓移植施術であった。患者は83日間生きたがその後死亡。和田教授は殺人罪で告発された。結果は不起訴処分だった。この大学の卒業生に医師で作家・渡辺淳一さん(故人)がいて事件を題材に小説「白い宴」(角川文庫)を書いている(発表時は『小説心臓移植』が題名)。
人の死の判断は「心臓死」か「脳死」か、大論争
なぜ殺人罪かというと当時の日本の法律では「心臓死を以て人の死とする」と決まっていたからだ。「心臓死」に対して「脳死」があるわけだが、この「脳死」概念が臓器移植法に取り入れられ1997年10月から施行された。新法律では脳死は心臓死に至る不可逆的な過程と定義された。脳死は脳波が平坦になることで確認できるという。当初は「生前に本人が書面で意思表示をしていた15歳以上」としていた法律が、13年を経た2010年には、本人の意思が不明でも家族の承諾だけでも可能となり、15歳以下でも提供できると、適応範囲を広める改正がなされている。保険証の裏に意思表示欄をつけている健康保険組合もある。
ドナー50人にレシピエント1万5000人のアンバランス
ただ日本は死生観からかドナーがさっぱり現れない。脳死になった人がいても周りが提供に反対するからだ。年間50人程度。これは先進国では最低レベルで、拒否反応の都合があるので、なかなか手術にはたどりつかない。その一方で、レシピエントは増える一方で1万5000人近くいるという。こうなると闇ビジネスの登場となる。
これを危惧した国際移植学会は2008年、不正な手段による臓器の入手を禁じた「イスタンブール宣言」を採択した。移植臓器は自国で調達するのが望ましいとして、移植ツアー増加に危機感を露わにしている。
90年代、心臓移植再開の噂でTV業界に不穏な動き
90年代、心臓移植手術が再開されるとさかんに報じられた。当時、テレビ業界を担当していた私は、患者に密着取材したドキュメンタリー番組を作るため、ある局が家族と医師、病院に大金を渡したとの情報を得た。聞いたのは東京と大阪の大病院ひとつずつ。どうも優先順位が決まっているらしく患者も特定できたのだが、いかんせん手術は行なわれなかった。当時私は道義的なことは問えなくても業界の内幕話として大きな記事になりそうな気がしていた。そもそも周りの記者が心臓移植に無関心なので特ダネになると信じていたのだ。未達のまま人事異動になったが、「逃がした魚は大きい」わけで、いまでも残念に思っている。