「異次元の少子化対策」国会論戦始まる。出生80万人割れで社会保障はどうなる

 

 

「異次元」とはなんぞや 具体策に乏しく

通常国会が1月23日に召集され30日からは実質審議となる衆院の予算委員会が開かれた。防衛予算の拡大のほか岸田政権は「異次元の少子化対策」を重要課題として掲げている。「異次元」は金融緩和政策の枕言葉だと思っていたら、使い回しが利く便利な用語になったようだ。今回は少子化について考えてみたい。

 

少子化が年金に及ぼす影響は

どうにも取り上げづらいのは、少子化対策の具体案が全く示されていないからだ。所得制限なく給付金を増額するということぐらいで、財源については言及もない。こうして政府が「少子化対策」のための『給付』というときは①支持率アップ、ひいては選挙目当てのポピュリズム(大衆迎合主義)②よき納税者を増やして増収を見込む、という文脈が隠されていることを知っておくべきだ。昨年2022年の出生数は80万人を切ったといわれる。これだと社会保障制度が持たなくなる。年金で多くの人が誤解しているのは「積立方式」で制度ができているという思い込みである。現在の年金は「賦課方式」(ふか・ほうしき)だ。「仕送り方式」とも言われ現役世代から保険料を集めてお年寄りに配っているだけだ。制度ができて最初にいきなり年金をもらった世代は積み立てなどしているはずがない。だから途中から積立方式にするのは無理がある。しかも積立方式は物価変動(貨幣価値変動)の影響をまともに受けてしまう弱点もある。だが、よく考えてみれば、積立方式の方が理解は得られ易いかもしれないと思わないでもないが。

 

物価高騰のなかの年金「マクロ経済方式」

政府は「マクロ経済方式」と称して、「物価」「賃金」、変動幅の小さい方に「年金」をリンクさせるようにした。かつては大きい方にリンクさせていたから保険料プールが枯渇する恐れがあった。マクロ経済方式では、2022年のように狂乱に近い物価上昇があった場合でも、まったく上がらない賃金上昇率の方を選べる。それで年金制度はどうにか安泰を保っている。ただ根本が賦課方式なので現役世代の減少は大問題なのである。

 

把握できる「死亡」と予想不可の「出生」

先進国は社会が高度化しているため、こどもに莫大なお金をかけないと、まともな労働力にならない。そんな中、賃金が上がらないので相対的に少子化に拍車がかかる。先進国はどこも、少子化に頭を痛めている。カネの問題なのか、制度の問題なのか、性の問題なのか、道徳倫理の問題なのか、どれも当てはまりそうだ。

厚労省の役人にいわせると「そこと比べると死ぬ方は予想していた数字と狂わない」という。

生命保険会社が駅前の立派なビルに入っているのも、保険数理上で、保険料収入保険金支払いが正確に予想できるからに他ならない。これが生まれる方は予想通りにいかないらしい。

 

政府の深謀遠慮を政策から読み解く

であるから、とりあえずカネを配ってみよう、とは誰もが思いつく方法である。なぜ「所得制限なし」なのか。ここに「よき納税者を増やす」という政府の深謀遠慮が見え隠れする。これは唯一、少子化対策に成功しているフランスの考えに近いものがある。次回は、少子化対策に対する思想的背景を考える。