テレビ・新聞・雑誌と「映画」を10倍楽しむ。鬼滅の刃編
最速『鬼滅』歴代1位に。『千と千尋』抜く
またまたちょっと間が空きました。『鬼滅の刃』が日本の映画興行収入Number1になる日を待っていたのですが、思ったより時間がかかってしまいました。12月28日、新記録達成です。コロナでガラガラの映画館に同情した「ジブリ」が劇場上映権の条件を緩和したようで、ジブリ作品がかかり、タイトルホルダー『千と千尋の神隠し』も興行収入を伸ばして、一時期足踏み状態が続きました。『鬼滅の刃』、「ジブリ」作品、両方とも東宝の配給なので、同社の思惑が働いたのではないかと深読みしましたが、これはちょっと穿ち過ぎのようです。新記録樹立まで73日で最速。観客動員は2405万人となりました。
新しいビジネスモデルにも注目
『鬼滅の刃』が話題になっているのは、その作品性はもちろんですが、製作にテレビ局が出資していないアニメ映画ということにあります。新しいビジネスモデルです。テレビ局が出資して、アニメ番組を作らせ、定曜定時に放送して客をつけてから、劇場版を作る。この流れが壊されたのです。
配給収入から興行収入に
まず映画の興行について話しましょう。『鬼滅の刃』が歴代1位、興行収入324.7億円(12月28日発表)となりました。2位は『千と千尋の神隠し』(316.8億)、3位『タイタニック』(262億)となります。日本は映画の成績指標に「配給収入」をずっと使ってきたのですが、2000年に「興行収入」に変えました。「配給収入」は計算が面倒くさくてわかりづらいので、単純明快な「入場料×観客数」=「興行収入」にしたのです。そもそもこちらの方が世界標準です。
映画ビジネスの基礎知識
映画は製作・配給・劇場の3部門に分けられます。ふつうの産業で言うメーカー・卸・ショップとほぼかわりません。製作はおわかりだとおもいます。配給は劇場のブッキング、フィルムの複製・配送、宣伝、チケットの印刷・販売などをします。劇場は知っての通り接客業です。
映画は劇場を多く抑えたほうが圧倒的に有利です。『カメラを止めるな!』みたいに単館からスタートしてヒットするなどというのは奇跡に近い所業なのです。ブッキングは新作で封切日から2週間から4週間の契約が多いようです。封切り直後は配給に手厚く、ロングランになるほど劇場の実入りが良くなるよう設計された「段階的契約」が一般的です。最初の契約期間を「ファースト・ラン」。それ以降の契約延長を「ムーブ・オーバー」(続映)といいます。
ジャニーズvs角川映画の夏休み戦争
この辺で余談を。「劇場」、映画業界ではこれを『小屋』と言います。夏休みなどは子供向けの映画が沢山あるので、小屋の取り合いになります。1980年代半ば、ジャニーズ事務所がタノキン映画、角川春樹事務所が薬師丸ひろ子・原田知世映画。これが夏休みに激突したことがありました。ジャニーズ事務所タレントが角川書店の雑誌に一切協力しないというケンカ状態が約1年間つづきました。このとき角川の窮地を救ったのが中山美穂ら女性アイドルと言われています。
興行では「初日」が勝負。ヒットするかどうかが決まります。業界では「初速」といいます。グライダーのようなもので勢いがつくと「惰性」とは言わないまでも、数字が伸びる傾向にあります。最近は出版社がよく出資しているので、チケットを買わされたというと語弊がありますが、自発的に協力した製紙会社や印刷会社の社員たちが初日に並んだりしているようです。
『鬼滅の刃』でもう1回くらいお話できそうです。