雑誌を10倍楽しむ。インタビューは難しい編
スポーツ中継についてはもうしばらくお待ちください。
何が難しいか、と考えてみたがインタビューと記者会見の質問はかなりのものだと思う。安倍総理の辞任表明記者会見を見て益々その思いを深くした。
簡単そうなインタビューの落とし穴
まずインタビューの仕事について話したい。ほとんどの雑誌はインタビュー記事を売りにしている。フリーランスのライターの中にはインタビューを専門にしている人もいるので、頼めば良さそうなものだが、社内の記者に経験を積ませノウハウを会得させることも大事だ。さらに原稿料を節約したい編集部の事情もある。
一見、単純に見える仕事ほど出来に差が出るのは世の習い。ふだん記者は物的証拠や状況証拠を積み上げ、仮説がほぼ真実であると確信したとき本人に当てる。これを直当て(じかあて)という。記事に厚みを持たせるため色々な人のコメントを入れ込むが、重要な言葉を摘まんでカギの中に入れ込み、語尾は地の文で処理する。基本的には5W1Hの枠から出ない。ロジカル(論理的)な話を聞き出す通常の取材と、エモーショナル(情感的)な話を聞くインタビューでは明らかに異なる。
紳助・さんまの「間」を盗め?
インタビューには①問わず語り=地の文を入れず、一人で最初から最後まで思いつくまま喋ったように書く②一問一答=質問と答えを交互に端的に書く③伝記物語調=地の文と喋りを期別して書き分けるが全体としてまとまった物語のようになっている、などの文体があるように思う。
簡単そうでいて、最初は本当にうまくいかない。面白くない。悩む。副社長まで上り詰めた同僚は、現役記者時代インタビューの名人と言われていたが、いつも島田紳助さん、明石家さんまさんの番組を見て「間」を勉強すると言っていた。見てみたがレベルが高すぎてまったく参考にならなかった。こちらは、ひたすら過去の記事を集め、資料に目を通すしか方法がなかった。
サングラスの恐怖
テレビで見ていた人にインタビューするのだから、最初のうちはどうしても、のまれてしまう。新人時代、あるタレントがサングラスをして現れた。写真も撮るのでサングラスを外すか、透明のレンズのメガネに換えてもらうようお願いすればいいのだが、なかなか切り出せない。インタビューを始めたが目の動きがわからないので、相手の反応が分からず、やりづらい事この上ない。まして後ろにいるベテランのカメラマンが「サングラス、どうにかしろ」と言わんばかりに背中を突っつくので脇から汗が出るのがわかった。
大物役者にはテープレコーダーを回すのを嫌がる人もいた。音声が遺るのをよしとしないのだろう。昨今は「言った」「言わない」で訴訟沙汰になるのでICレコーダーを回した方がお互い精神衛生上いいようだ。いまでは考えられないが、インタビュー中にタバコを吸う大女優がいた。カメラマンはレンズを床に向け、あらぬ方を見ていた。撮らないのでゆっくり吸ってくださいという意思表示だ。
しゃべりだけが主役ではない
タバコには思い出がある。北陸から役者を目指して上京し大河ドラマの主役を射止めた俳優にインタビューした時のこと。生い立ちから聞いていったのだが、おもむろにハイライトを取り出して火をつけた。これでインタビューに深みが出ると確信した。マルボロやケントではなく、ここはハイライトでないといけない。インタビューは人に語らせるだけではないのだ。