書籍を10倍楽しむ。新米武者修行編

 

 

版権の高い壁とD T P

思い出深い書籍といえばチャーリー・ブラウンとスヌーピーでお馴染みの漫画「PEANUTU」がある。チャールズ・M・シュルツ氏の新聞連載をまとめたシリーズ。翻訳を詩人の谷川俊太郎先生にお願いしていた。困ったのは版権料が高すぎて、ターゲットである中高生に手の届かない価格になってしまうことだった。仕方がないので東京・青山にある版権管理会社に交渉に行った。支社長はアメリカ人女性で流暢な日本語を喋った。だが、値下げの話になると急に日本語が分からない振りをする。商売となると洋の東西を問わず人間はシビアのなるものだ。相手の方が一枚上だった。

この時の救世主はDTP(desktop publishing)の登場だった。デザイン事務所、版下屋さん、印刷所の垣根が取り払われた。Mac上で動くPagemaker、QuarkXpress、Adobe inDesignなどのソフトが次々登場してコスト削減に貢献してくれた。進行でもかなり楽になった。今でもデザイン業界でMacが主流なのはこうした背景がある。

余談だが、海外のミュージカルのチケットが高いのは版権料のせいだと思う。その上、生のオーケストラを使うのだから致し方ない。

 

 

翻訳専門会社の存在

出版社の外国文学編集者は語学が堪能な人が多い。だが、英語、仏語、独語、露語全部に精通している筈もない。翻訳会社を兼ねた代理店のような事務所があり、資料を作って編集者に売り込み来るのだ。当たり前だが、原書で読んで納得してから企画書を書くというのは現実的に不可能な話で、餅は餅屋、いろいろな商売があるものだと感心した。だた、原作者と翻訳家の間の信頼関係は大切。「ハリー・ポッター」シリーズのように翻訳家が自ら経営する〈こじんまり〉した出版社でも、版権契約を独占的に結びベストセラーを生み出すケースもある。

 

 

絵本作りは楽しからずや

出版社に入ったからには1冊くらい絵本を作ってみたいと思っていた。やっぱり夢がある。書店は棚のサイズが決まっているので一般書は四六判、B6、菊版など定型が求められる。「棚に入らないから返品します」は一番困る。この点、絵本は結構自由だ。恐竜の絵本を作る機会に恵まれた。子供たちが舐めてもしゃぶっても楽しめ、ママを扇いだり、猫を叩いたり・・・そんな絵本を作りたい。インクも安全、紙も安全、糊も安全、糸も安全。これぞ万全で作ったのだが、全ページカラー、表紙にボール紙、背を糸で縢(かが)ったら高くなってしまい、あまり売れなかった。だが楽しい仕事だった。世の中には絵本専門の出版社があり、子供たちの心を掴んでいる。少子化が子供一人当たりの教育単価を上げたらしく、児童書ブーム到来し売り場も広くなっている。次の狙いどころなのかもしれない。