テレビを10倍楽しむ。ドラマ編
定曜定時が生み出す価値観統一
今回はドラマ作りを見ていきましょう。
テレビの最大の特徴は「定曜定時」だと思います。生活の習慣としてテレビが存在しました。土曜の夜8時は、火曜の夜10時は、といった具合に「視聴習慣」が形成されました。テレビマンユニオンの今野勉氏がテレビを「お前はただの現在にすぎない」と論破したのは1969年でした。みんなが同じ番組を見ると言うのは、同じバックボーンを持つことで価値観が統一され中間層が増えました。一方、インターネットの動画などはオン・デマンド方式で、自分時間の中に取り込むことで人々の価値観は多様化したようです。
定曜定時の最たるものがNHKの連続テレビ小説です。最近は、あまりに習慣化されてしまって、作品が変わろうが視聴率は誤差の範囲内ぐらいしか動きません。
ドラマで最高視聴率を打ち出したのは「おしん」(1983―1984)です。平均52・6%、最高62・9%(1983・11・12)。これはもう打ち破れない記録となるでしょう。
ドラマヒットの3原則
ドラマ作りの原則は色々ですが、最低限、このくらいは必要です。
① 人の琴線に触れる脚本
② 魅力的な俳優
③ 時代が要請したテーマ
「おしん」は勤勉の大切さ、戦争の悲惨さを訴えました。朝ドラの伝統的テーマは「反戦」です。観ているのが主婦層なので、生活が蝕まれる戦争の悲惨さがベースになります。とくに「おしん」は橋田寿賀子脚本、小林(旧姓・岡本)由紀子プロデュースの女性コンビでグイグイ引き込みました。
リハーサルから編集まで
ドラマの作り方は基本的に「映画」を参考にしています。映画は1カメで撮りますが、テレビのスタジオ収録は3カメ。ロケは1カメです。リハーサルは別室で行い、この動きの時はこの方向からカメラが狙うとか演出(ディレクター)が指示していきます。スタジオでは
「ドライ」(役者が動きだけやってみる)
「カメリ(ハ)」(カメラをイキにしてカット割の確認)
「本番」
この繰り返しです。スタジオ収録では丸1日かけて撮高(とれだか=放送で使う分)15分、ロケで7分が目安です。週3日スタジオで1回分。このペースを考えるとNHK朝ドラや2時間サスペンスがいかに強行軍かお分かり頂けると思います。
収録の後もディレクターは編集作業があります。荒つなぎ(オフライン編集)の後、プロの編集マンに参加してもらい尺(時間)を調整したり、テロップなど文字を載せたり本格的な編集(オンライン編集)作業をします。その後、音楽、効果音、ナレーションなどの音入れです。
テレビはエンドロールとは言わない
テレビドラマは俳優、スタッフの名前のテロップをどこに入れるかのルールはありません。映画は「エンドロール」といって最後に入れます。テレビはエンドロールのような入れ方をすると視聴率がガクッと落ちて、最後のCMを誰も見ないという現象が起こるのです。抜き打ちがいいのです。
俳優については、いろいろ好みがあるでしょうから多くは触れません。ただ、ドラマがスタートする頃になると主役クラスの「熱愛」が発覚することが間間あります。これは番組宣伝で仕掛けているケースと、ほんとに職場恋愛のケースがあります。番宣のつもりで仕掛けても「記事になることで本人たちが意識しだして本物の恋愛になることがあるから面白い」と教えてくれたのは、『恐縮です』でお馴染みの突撃レポーター梨本勝さん(故人)でした。男女の機微はいつの時代でも面白いですね。
山田太一、倉本聡は作家を超えた
脚本は映像がついてナンボと言われますが、脚本のまま単行本として売れ、商売になったのは「岸辺のアルバム」などの山田太一氏、「北の国から」などの倉本聡氏くらいでしょうか。
最近は「カルテット」などの坂元裕二氏もシナリオ本を出しています。脚本家も小説家と同じくらいの社会的地位が高くなりました。そうは言っても、この3人は特別な存在で、ふつうはノベライズの方が売れるようです。
ハイビジョンの性能を超えろ
ドラマ作りは基本的にそう変わりませんが、役者の背が高くなったのでセットがひと回り大きくなりました。ハイビジョンカメラの撮影なので女優さんのメイク時間は長引き、カツラと地肌の境目、照明、ヘアメイク、気を遣うことが多くなったかもしれません。
テレビ局の採用試験を受ける人は「報道」志向と「ドラマ」志向が多いようです。ドラマ部では演出(ディレクター)に人気があります。運良くドラマ作りに携われも「演出」には感性が求められるため挫折してしまう人も。そうした人はプロデューサーとして制作費の管理などで才能を発揮することもあります。
新型コロナとドラマ作り
時代劇のロケは車の轍はダメ、電線はダメと、どんどん山奥で撮るようになりました。山の中でも、市街地でも全て警察に許可を得ています。ロケ弁を用意するスタッフもいてドラマは人海戦術の要素も多いのです。新型コロナウイルス禍の中、収録は難しいと思われます。