ちょっと休憩。ペストの本を読んでみた
カミュ「ペスト」
新型コロナウイルスの猛威の中、フランス文学の巨匠アルベール・カミュの「ペスト」を読んだ。1947年の作品。「異邦人」(1942年刊)、「ペスト」などで『不条理』をテーマにし、1957年、40代の若さでノーベル文学賞を受賞した。カミュは移民であり出身は北アフリカのアルジェリアである。
大戦直後の作品であり、「ペスト」の意味するものが、フランスを占領したナチスドイツであったことは想像に難くない。物語に、パニックもの特有のハラハラドキドキ感がなく、ひたすら暗いのは歴史の重みだろうか。カミュはペストに打ち勝つには民衆の「連帯」が必要だと繰り返し書いている。「連帯」は狭義の政治用語として使われるようになっているが、みんなが「反抗」して力を合わせるとの広い意味を持っているようだ。
「人は内なるペストを持っている」として、人に対して懐疑的であり、死刑廃止論者も登場させて、人が人を死に追いやることの危険性も説いている。かと言って神を絶対視しているわけでもなく、心揺れ動くところがカミュの思考の深さだろう。
戦後、アルジェリアは宗主国フランスから独立すべく立ち上がる。二つの祖国を持つカミュは政治的沈黙を貫き、双方から裏切り者呼ばわりされてしまう。そして1960年、47歳の時、自動車事故によって非業の死を遂げる。
ペスト流行の歴史
自宅待機で暇なので歴史の本を読んでみた。
伝染病の代表格といえばペストだが、ヨーロッパでは6、14、17世紀の3回大流行があったようだ。最近の研究によると、かつてウイルスはシルクロード経由で中国からもたらされたらしい。現代版シルクロード「一帯一路」政策を打ち出した中国発で、またまた新疾病が広まったのは何かの縁らしい。
中世欧州の権威といえば教会だったが、神様にお祈りしてもペスト禍は一向に治まらず、民衆に神様への不信感が募るという心理的な要素。農民がバタバタ死んだため封建領主と農奴という荘園制が崩れるという経済的要素。この双方が資本主義に向かわせたようだ。
さらに16世紀、カトリック教会はサン・ピエトロ寺院(バチカン市国)のリフォーム費用を捻出するために「免罪符」を売り出した。カネで過去の罪をなきものにするというインチキ商法が成功する筈もなく、ルターによる宗教改革が起こる。プロテスタントの誕生である。カトリックが労働を軽んじたのに対し、プロテスタントは勤勉を美徳とした。春秋の筆法を以ってすれば、14世紀の「ルネサンス」から始まり18世紀の「産業革命」までの変革はペストによってもたらされたと言っても過言ではない。
疫病は歴史を変える分水嶺になるかもしれない。