何やら4Dr.のBEV GT sloonがLotusから発表された。

Lotusと言えば、コーリンチャンプマンの創立したライトウエィト Sports Car Makerだった。

Sports Carはどうあるべきかを体現していたのがLotusの車だったと思う。

Y字バックボーンフレームにどっかから拝借したエンジン、簡素なサスペンションを装着し、Bodyは

FRPとし軽量な車を作った。

軽ければエンジンなんて何でもよいし、トランスミッションもデフもサスもブレーキも何もかも簡素なもので済む。

そしてそれも軽さに貢献する。

それ故安くなる。

軽い車は何もかも良い方向に事が進む。

特にSports Carであればその効果は大きい。

Super 7、エラン、ヨーロッパ等を送り出し、エスプリで少し迷走した感もあったが、その車作りは

ぶれることなく、Sports Car作りの思想が一貫していた。

ロータスヨーロッパ 風吹裕也Version

一度で良いから乗ってみたい車です。

チャップマンストラット。これはエランのシャシ。

ドライブシャフトがアッパアームの代わりをし、擬似ダブル・ウィッシュボンを形成している。

簡素で軽量。但しドライブシャフトへの負担は大きい。

 

勿論Lotusと言えば市販車だけではなく、レーシングシーン、特にF1の世界では常にチャップマンの

創造性が生かされた車が世に生まれた。

Lotus 49、72、78、79とこれまでのF1の常識を覆すような車を投入し、World Championを何回も

取得した。

個人的にはLotus 79は一番美しいF1の一つだと思っている。

あの時代によくもまあ、グランドエフェクトを理解し、実践投入した発想・技術は凄いと思う。

後継の80はやり過ぎとチャップマンの強すぎる思想によって失敗作に終わったが、あの車への期待度は

僕自身半端なかった。

格好良くて速かったLotus79。ポーラベアのステッカーがあるのはピーターソンのTカーを乗ってレースに出たため。

期待大だったLotus 80。

これはモナコで3位に入った時の車。前後のスポイラーは必要ない、と喧伝されたが、結局過大なポーポジングの発生のため、

それを抑える意味もあり付けることになった。

スカートがうまく働かない等、色々問題が起きて早々にこの車の開発を諦めた。

残念。

 

チャップマンが他界し、その後会社は低迷、F1も低迷。

GMに売られ、その後はブガッティ、プロトンへ吸収された。

そこで起死回生の一発としてエリーゼを発売。

横置きエンジンなのは気になったが、アルミのシャシで軽量かつ簡素であり、正にLotusの車だった。

その後TOYOTAのV6やOpelに提供したシャシを使いまわしてヨーロッパの復活、911の対抗馬として

出した4シーターのエヴォーラなんてのも出してしまった。

軽くて安い車だけの商売ではうまく行かないことが如実になっていた頃だ。

エヴォーラの透視図。無理やり4シーターにしたため、エンジンは遥か後方へ。V6横置きのため、重心高く、サスペンションアームが短く、

挙動変化が大きい。

リアがすぐに発散し、素人には危ない車なのはこの絵から良く分かる。

 

2009年、Car GRAPHICの表紙を見て驚いた。

Lotusが高級Sports Car路線に変わると言うのだ。

エスプリ、エラン、エリート、エリーゼ、エテルネ(新Model)を一度に用意し、これから販売するというもの。

CGでは踊るように文章が綴られていたが、どう考えても失敗するだろうと思っていた。

エンジンはTOYOTAから供給され、V6 4リットルはエリーゼに。ライバルはPorsche 911。V8 5リットルは

エスプリに搭載され、フェラーリをライバルとした。

こんなのはBrand商売の典型であるが、そのような高級車市場に対するLotusの

Brand力なんて高いものではない。

市場調査を徹底してやったつもりだろうが、読み違えたのは間違いない。

紙面に登場した車は一台も市販される事は無かった。

ひょっとすると金集めのための壮大な詐欺事件だったかもしれない。

エラン。911がライバルです!

エスプリ。フェラーリがライバルです!

エリート。あれ?2シーターになった。。他の車種との棲み分けは?

エリーゼ。

既視感があるエルテナ。何でこれがLOTUS?

市場に出なくてよかったです。

 

 

その後、中国の吉利(ギーリー)がLotusを買収し、新しい体制になった。

2022年にエリーゼの後継車と言えるエミーラが登場。

アルミ押出材による接着式シャシの採用は良いが、フロントシート後方にラゲッジルームが置かれ、

全長×全幅×全高=4,412 mm、1,895 mm、1,225 mm 車両重量 1,405 kgと、

これまでのLotusとは言えないような車になっている。

ギーリーがこういった車を要求したのか、Lotus Carsがトチ狂ったのか不明だが、この車重だけで

これまでのLotusではない事は誰にでもわかる。しかもエンジン横置き、V6もある。

 

そして今回、BEVを発表。

エントリーモデルの「エメヤ」(1634万6000円)、装備が充実した「エメヤ S」(1793万円)、そして

フラッグシップの「エメヤ R」(2268万2000円)と高価。

全長×全幅×全高=5139×2123×1459mm ホイールベース:3069mm

車重 2490kg

「エメヤ」「エメヤS」では最高出力612PS(450kW)、最大トルク710N・mを、最上級モデル「エメヤR」では

最高出力918PS(675kW)、最大トルク985N・mを発生する。

動力性能は、エメヤ/エメヤSでは0-100km/h加速が4.15秒、最高速が250km/h、

エメヤRでは0-100km/h加速が2.78秒、最高速は256km/h

まあ、これだけ見てもLotusの車とは誰も思えないわけで、チャップマンがこれを見たら仰天するだろう。

またもやLotusという会社のBrandを使い、高級Sports BEV市場に乗り出すギーリーは

2009年の失敗を知らないのだろうか?

いくら歴史があり、過去、F1での活躍があったとしても、アストンや、マゼラッティのようなBrand力とは異なる。

Alfa Romeoの華麗なる失敗を我々はつい最近も見たばかりではないか。

しかもLotusをここまで醜く、バッジが無ければ何の車か分からないような物を出してしまうとは。

600PSだの900PSだの、どうでも良いが、こんなもん、モーター制御で破綻しないようにしてあるわけで、

街中でアクセルを踏んでも気が遠くなるようなジャークは得られないだろう。

摩擦抵抗が高い、素晴らしい路面で直線という特別な環境のみ、この高出力が発揮されるだろう。

Lotusにこのような車が求められると勘違いした馬鹿者は一体誰なのだろうか。。

BEVになると揃いも揃ってこんな感じになります。

Body分厚く、何かもっこりした車。

スタイリングは BYDシールにも似ている。まあ、似たようなPackagingなので、皆こうなるわな。

 

何故Lotusが世界から支持され、ここまで生き延びてきたのか、ギーリーは分かっていなかった。

Brand再興は多くの夢想家が抱くものだが、ギーリーにはそんな夢物語を成そうとは考えていない。

単にLotusが商売のネタになるかどうかにだけ興味がある。

多くのマスゴミが称賛するのかもしれないが、こんなものをLotusとして販売する

クソ度胸とLotus、チャップマンに対する敬意の無さがこのような間違いを世に産んでしまった事は大変

寂しい話である。

 

さようなら。

僕の大好きだったLotus。

 

おまけ

Lotusの車は市販車であれ、レーシングカーであれ、軽量化が大きなテーマだった。

Lotus 79があのような成功を収めたにもかかわらず、80の失敗の裏にはさらに向上したダウンフォースが

79流用アルミモノコックシャーシでは受け止めきれなかったことも一つの原因。

当時ドライバーのマリオ アンドレッティは何度もチャップマンに提言したが、全く受け入れなかったと言う。

モノコックはレース毎に疲弊するが、79でさえ、アイドリングでモノコックのビスが震えて回っていたと言う。

Skylineの生みの親である櫻井慎一郎は当時ブラバムのレーシングカーを参考にR380を作ったが、

Lotusは嫌いだと言っていた。

何もかもギリギリに設計されていて、人間味が無い。ドライバーの事を考えて設計されていなかったから

だと述べている。

また、79のリアブレーキはインボード式であった。それはサイドポンツーンのエアを奇麗に流す、

という意味もあったが、バネ下重量が重くなることをチャップマンが嫌ったためだ。

それ故にレース後半になるとギアボックスの熱でブレーキがフェードし、ブレーキ時に細心の注意を使ったと

マリオが言っている。

(そう言えばLotus 72、76、77(初期)もフロントはインボードブレーキだった。

78でアウトボードにしたのはモノコックの幅を狭くする必要があったため)

他のマシンでリアをアウトボードにする事が当たり前になっても中々チャップマンはそれを許さなかったと言う。

名車、速い車が生まれてくる背景には多くのこだわりと、何にも屈しない強い意志が作り手に必要なのだが、

時にはそれが裏目に出ることもある、という事だろう。