クラウン スポーツ試乗

クラウンにSprotとSedanが追加されていた。

SedanのプラットフォームはMIRAIと同様のもので、FCEVとHEVを用意する。

Sportはハリアーと同じプラットフォームでHEVとPHEVが用意される。

試乗したのはHEVで、Sport Zと言うグレード。

そもそもワングレードしか用意されていないことから、この車に対するTOYOTAの期待も透けて見えてしまう。

実際に初動から動きが悪く、納期もこの時代では考えられないほど早い。2か月かからないそうだ。

 

ではSpecから。

全長4720x全幅1880x全高1565mm、車重1810kg 

システム最高出力は234PS、トルクはエンジンのみで22.3kg。

車重があるので、速さはあまり期待できない。PHEVは304PSとのことで、速い車が欲しければ、

そちらをどうぞ、という事になる。

価格は590万円と、最近の傾向通りお高い。

4WDのために重い車になっているが、多くの装備により仕方ないのだろう。

 

さて、試乗の前にいつも考えるのは何を期待するか、という事。

Sportという名称から走りを期待したいところだが、クラウンの一車種であることは間違いない。

クラウンの範疇でSportなのであれば、走りそのものにあまり期待しない方が良いかもしれない。

この車の仕上げ方でTOYOTAのクラウンに対する考え方がわかるという事だ。

 

見てみて

スタイリングは無難にまとまっている。個人的にはこの手の車は飽き飽きしているが、リアフェンダーの

絞りなんぞ、鉄板の限界に挑んではないか?と思えるくらいに見事な造形だ。

どの面も平滑で、歪なく、パーテションラインの狭さなんぞ素晴らしい出来で、やはり見栄え品質において

TOYOTAは図抜けている。

それだけしばらく見ていても飽きないくらいだった。

ちょっと良くなったBMWが霞む。

ボンネットが分厚く、背も高いが、あまり車自体が大きく見えず、緊張感、凝縮感がある佇まいは

中々のものだ。

FR車のようなリアフェンダーのでっぱりは力強さを感じさせ、誰もが”走り”を感じさせる秀作だと思う。

顔がでかく、威圧感もあり、所有する満足感も高いだろう。

 

触れてみて

ドアを開け、シートに。

例の室内のドアハンドルは相変わらずカローラと共用部品で、今回はグレーのメッキで質感を上げているが、

操作性は安っぽく、乗り降りする度にがっかりさせてくれる。

目の前のインパネはクロスオーバーと一緒だが、配色、塗装などの影響からかチープな感じは

少し収まっている。

クロスオーバーへのコンプレインを反映させた結果だという。

まあ、そりゃそうだろう。

物理スイッチを多く残しており。昨今のBMWや、Mercedesよりも好印象だが、使い勝手はもう少し。

ボタンが小さく、表示も小さい。

NAVIモニターの表示される地図は相変わらず稚拙で解像度が低い。

もうちょい良いものを奢って欲しい。

ポジションそんなに悪くなく、あまりいじらずにしっかり出た。

TOYOTA車では珍しいことだ。

シートも腰のあたりの張りもほどほどあるし、違和感がなかったという事は良いシートだったという事でしょう。

革シートが標準のようだが、ドイツ車の安革とはちがい、柔らかく、質もそんなに低くない。

これなら革シートでもうれしい(標準だった)

リアシートは座面の長さはまあまで、クロスオーバーのように座面を凹ませていないため、腹に圧迫感がなく、

またトルソ角も良いので、感心した。

問題はHPが低いため、膝裏が浮き、尻に面圧が強くかかってしまうこと。

バイポーラ型ニッケル水素電池はリアシートの下だから、もうすこしHPを上げても良いと感じた。

 

サイドウィンドウの絞り込みが強いため、頭側面にウィンドウが迫っており、圧迫感がある。

膝前、頭上空間のみを考えたような空間設計だ。

 

リアラゲッジは391リットルとのことで、サイズからすると少し物足りない。

リアオーバーハングを切り詰め、リアウィンドウを寝かした影響である。 とにかく深さが足りない。

 

走ってみて

公道へ出る。

大きな段差があるが、室内からは変な音は出なかった。アルファードだと、「ガシャ!」と騒がしく鳴る。

速度が遅いとEV走行ができるが、少しアクセルを踏むとすぐにエンジンがかかる。

いつものTOYOTAのHEVで、エンジンがかかる際の振動は殆ど分からない。

そこは良かったが、なぜかエンジンが回りだすと、フロントフロアの辺りに振動が出る。

「?」

アクセルをオフると振動が収まる。

また深く踏む。

やはりフロントフロアにワナワナとした振動が伝わる。

何じゃろ?これ?

まさか剛性が低いわけではないし、エンジンマウントがおかしいわけでもない。TOYOTAのHEVに乗って

初めての感じだ。

個体差なのだろうか?

ゼロ発進からアクセルを床まで踏むと、例のCVTラバーバンドフィールのようにエンジンは叫ぶとも

車速が付いてこない。

感覚的にレスポンスが悪いと感じてしまうのだ。

そしてエンジンの音も中々盛大に入ってくる。

TOYOTAのHEVは世界に誇る素晴らし制御、技術だと思うが、これまで良いPower Unitと思ったことは

一度もない。

LEXUS RCが発売されたとき、直ぐに乗ってみたが、やはりHEVの印象の悪さが抜けなくて、買うのを

止めた。

あの車で峠(当時は登山が趣味だった)を気持ち良く走ることはできないと思ったからだ。

今回はこれまで乗ったTOYOTA HEVで一二を争う出来の悪さだった。

 

乗り心地は大変すばらしく、21インチタイアとは思えないくらい突き上げがなく、ドタバタ感も

感じなかった。45と言う扁平率が良かったのかもしれない。

ミシュランのe-Plimacyを履いていた。

困った時は”ミシュラン”である。 購買価格が高いので中々採用されないが、今回は奢ったようだ。

ロール、ピッチも少なく、背の高さは気にならない。

この手の車にしては十分な剛性感があり、快適性の高さは流石クラウン一族と言うべきか。

大いに感心しました。

ステアフィールに関しても特に軽いとか、重いとかは無く、電動パワステの変な制御もなく、 好印象。

もちろん、ステアへの反力はあまり感じず、どちらかと言えばあまり伝えない方向。

クラウンらしいが、Sportsではない。

車線変更を意識的に早く行ってみたが、動き自体はあまりクイックではない。

この辺はもう少し機敏な動きが欲しいと思うが、ロールも小さく違和感は全くなかった。

優秀。

 

エンジンそのものは電気式CVTの影響もあり、もっさりしており、キレは無い。

もう少々演出があって欲しいものだが、完全に黒子であり、レスポンスも良くない。

ICEの作り込みを行うには大変厳しい時代ではあるが、もうちょい回転感が良いとか、

精度感みたいなものがあれば、良い車だなと思わせるのにそれが全く感じられないのは残念な所。

 

降りてみて

中々悩ましい車だ。

Sportyを期待して乗れば、中途半端であり、どこがSportsなんじゃ?となる。

クラウンの範疇のSportsであるなら、まあこんなもんであろうとも思える。

TOYOTAは”クラウン”という縛りの中でSportyさを演出したのだろうから、この車の仕上げ方は

正しい方向なのだろう。

ただ、そうしてみるとこれまでクラウンが追ってきた上質さは低い。

NHV命みたいな己を確立した独特の個性があったと思う。

それが先代辺りからぼやけてしまい、今のクロスオーバー含め、それが薄くなってしまった。

以前のクラウンの世界から抜け出した車になったのだ。

そうなると”クラウン”という物差し以外でこの車を評価する必要が出てくる。

そう言った観点から見れば、この車は突出した個性が無く、上質ではあるけど、ただそれだけで、

以前のTOYOTA車の評価(80点主義)のようになる。

不満点は無く、多くの人を満足させる。

乗ってみれば明らかにハリアーよりも上質であり、若干ながらSportyだ。

重厚感もあり、高価格な車に乗っている感はある。

あまり車が好きではない人、興味がない人にとってはほぼ満点の車ではないだろうか。

 

僕のような偏屈な車好きからすると、十分に良い車だが、心に刺さるようなものが無く、刺激が少ない。

素晴らしいと感嘆するようなところも無いが、ここは駄目だ、というところも無い。

CVTのドライブフィールの悪さと、フロアのビビリ、凝縮感の無さ、レスポンスの悪さ、駆動系フリクションが

イマイチであることなど、あまりお金がかかっているようには思えない。

所詮、中国と米国で売れれば良いと考えている訳であり、その程度の品質で十分であると

考えているのだろう。

心に引っかかるものが無い車に思えてしまう。

車から下りた時に語るのが難しい車だと思った

 

ただ、このような車を作る事は難しく、どのメーカーもこんな車が作りたいと考えている。

変な主義主張、こだわりを優先せず、市場迎合を優先する車。

Majorityに支持される車。

スタイリングは洗練され、所有欲を満たされる車。

燃費良く、壊れない車。

TOYOTAが凄いのはこういった車を平然と作り上げ、それが売れるという事だ。

開発主査のこだわりを持って作られた車こそ市場に支持され、会社を潤すことが出来る、なんてのはおとぎ話

である事は良く分かっている。

だから免許も無い人間が主査を務めることが出来会社なのだ。

 

クラウン Sportはとても良い車であり、感心した。

同時にTOYOTAの底力を再認識でき、またTOYOTAの変わらぬ車作りの姿勢を感じることが出来た。

良くも悪くもこの車はTOYOTAの車であり、そしてクラウンではないという事が良く分かりました。

顔が大きく、立派。ボンネットの高さがかなりあり、質量を感じる。それでいて、ボンネットはしっかりポップアップ式だ。

例の如く、ボンネットを開く際のラッチは軽自動車並み、ステーで支える等、抜くところは抜く。

まあ、エンジンルームを開けない人が多いので気にならないか。

凝縮感があり、リアフェンダーの造形は素晴らしい。ここまでやるか!といった感じ。

 

今にも走り出しそうな姿勢。Sportの名に恥じない?少しリア周りはやり過ぎ感がある。

デザイナーは空間を残すのが嫌いなんですよね。

このサイズなのでパッケージングはまあまあ。 リアシートの座面が適度な窪みがあり、悪くない。トルソ角も悪くなかった。

ただ膝裏が浮くのはNG。

参考までに、こちらはクロスオーバー。リアシートの座面の窪みが強く、トルソ角も寝ている。何故かシーバックがバケット状で、

有効面積が狭く、小さいシートに感じる。膝回りは広いが、それだけの駄目パッケージング。

スタイリング優先の弊害。

ちょっと色直しをして改善された品質。

これで中国で通用するかは少し心配。地味だもんね。せっかく物理スイッチを残したのだから、もう少し使い勝手を

考えてくれれば良いのに。