島を横目にぐるっと回るように次のビーチに到着した。
今度のビーチは船着き場が使えないので、船は浅瀬に寄せてトレッキングシューズを両手にサンダル履きで海に降りた。
上陸すると浜に転がっている流木に腰かけて靴を履き替えた。
さあ今度はトレッキングだ。砂浜から低木の間を通って山の上の方まで道が延びている。私たちは一歩一歩急ぐことなく歩き始めた。山に入るとすぐに傾斜が急になってくる。他の観光客と一緒に列をなして登っていく。暑い陽ざしのなかをカミさんと一緒にゆっくり歩いていくが喉も乾くし汗ばんでもきた。少し上の方にちょっと開けたところがあって、他の観光客も休んでいる。われわれもあそこまで頑張ることにした。到着して岩にすわり汗を拭いてペットボトルを口にする。周りを見渡すとなかなかの景色。入り組んだ海岸線に碧い海に青い空。二人それぞれに気に入った風景を切り取り写真を撮った。そしてまた上を目指して歩き始める。観光客が行きかう開放的な尾根上の細い山道をしばらく登っていくとやっと目的地に到着した。振り返って下を見下ろすと素晴らしい景色に素晴らしい天気だ。タコが脚を広げたような島の海岸線が確かに今まで見た事の無い絶景。ここでガイドがポケットから紙を取り出しわれわれの前に得意げに広げた。「お札の絵と同じですよ」
お札を受け取りよく見ると、確かにインドネシアのお札に描かれた島の景色とまったく同じアングルの景色が目の前にあった。

この同じアングルの景色をバックに二人並んで写真を撮ってもらったのは言うまでもないだろう。
そして岩がゴツゴツした道で脚を踏み外さないように気を付けて山を下って行った。ビーチでサンダルに履き替えている最中にふと横に目をやると鹿がいた。なんと野生の鹿が山を下りてビーチで散歩していたのだ。びっくりしたが、ま、ここならそういう事もあるのかなと変に納得しながら船へと戻った。


次のメニューはピンクビーチだ。

船は再び外海へ出てコモド島を目指す。この辺は島と島の間が近いのでそれほど時間もかからずコモド島へ到着した。目指すピンクビーチは船着き場の砂浜に上陸してこんもりした樹々を通って左へ抜けたところにあった。数時間前にレッドビーチの鮮烈な紅(あか)を見たばかりだったので衝撃は少ないが、目の前に広がるピンクビーチは確かに美しかった。レッドビーチよりもだいぶん明るい色調でちょうどいい具合にピンク色になっていて目に優しい。
私たち夫婦の今回の旅の目的はただひたすらに〝コモドドラゴンに会いたい〟だったので他のアクティビティにはろくに目がいってなかったのだが、コモドにこんな素敵なところがあったなんて…これは嬉しい誤算だった。


ガイドに手渡されたシュノーケリングの3点セットを付けて波打ち際から海に入って行く。まあまあ穏やかな波の中をフィンを蹴って進むと砂底にサンゴが見えてくる。普通に見かける白っぽいサンゴもあるが、やはり特徴的なのが濃い小豆色をしたサンゴ。ストローをくっつけて板を造ったような、今まで水族館でも見たこともないサンゴだった。触れると簡単にパキっと割れてしまう。波に身体を弄ばれると、自分の意志に反してサンゴを次々に破壊しそうだったので早々に波打ち際まで戻った。
砂浜に立って足元を見ると、海草に混じってさっきの紅いサンゴの欠片やきれいな貝殻が落ちている。あらためてサンゴの欠片を拾いあげてよく観察してみるとほんとに薄いぺらっぺらの小豆色のストローみたいだ。とても珍しいので打ち上げられたサンゴをお土産に日本に持ち帰ろうかとよっぽど迷ったが、やはりここは世界遺産のコモド島、それはすべきではないだろうと諦めた。

ところで先のレッドビーチと今度のピンクビーチ、色の違いはどうしてだろうかと砂浜に顔を近づけてよく見ると白い砂と小豆色の砂の割合の違いだった。レッドビーチの方が小豆色の砂が多い。つまりあちらの方が小豆色のサンゴが多くいるという事のようだ。

そろそろ船に戻ろうかと思った時に、ピンクビーチの入り口付近にお土産を広げて売っている親子がいたことを思い出した。
「そうだ、明日はいよいよコモドドラゴンを見に行く日だ。お土産に木彫りのコモドドラゴンを買う事はもう決めているし、お土産の下見をしておくか」と考えてピンクの砂をぎゅぎゅっと踏みしめて親子のところに向かった。
到着すると素朴な木のテーブルに大小さまざまな木彫りのコモドドラゴンが並べられている。それ以外にも虹色に反射するきれいな貝を貼り付けて作られたウミガメの置物もあった。
どうやら他の村から小さな船でこのビーチにやってきて店を広げているようだ。
テーブルの前には小さな女の子が店番をしていて、隣ではお母さんがコモドドラゴンを彫っている。ちょっと離れたところではお父さんが何やら作業をしていた。商品を見せて貰うとどれも異なるポーズをしているドラゴンで、すべて手づくりで間違いはない。例えば目に黒い石を埋め込んだもの、目は彫っただけのものなど細かいところが色々と違っている。大きいサイズだと本当に緻密でウロコの一枚一枚が正確に彫られている。その出来の良さによっぽど買って帰ろうかと思ったが、少々値も張るし「まだ本物のコモドドラゴンを見てもいないのに買うのもなあ」と辞めにしてその代わり貝のウミガメを買う事にした。木を細工してできたカメの表面にキラキラした貝殻を貼り付けてあるピンク色のかわいいカメだ。


ウォーレシアで買った最初のお土産を手に穏やかな海を渡って私たちはフローレス島へと戻った。