前回より続く

 

T字カミソリもシック(Schick)とジレット(Gillette)を2択で長年愛用してきていたが、ある日「じゃ国産はどうなんだろう?」と疑問に思った。
T字カミソリを初めて手に取ったあの日の私も今では何十年もヒゲを剃り続けて来たベテラン。長年の経験をもとに今のT字カミソリを選んでみようと考えた。
国産ではフェザーと貝印2社のT字カミソリが存在するが、近所のドラッグストアにあったのはフェザーだけだった。パッケージを手に取って裏に目を通すと刃にダイヤモンド・ライク・カーボン・コーティングが施されていると書かれている。

「すごい!カミソリにまで来たか」

日本人にはあまり知られていないことだが特別なものを除けば刃物の技術は実は日本が世界の最先端を走っている。世界には刃物の三大産地というものがあり、イギリスのシェフィールド、ドイツのゾーリンゲン、それに日本の関と言われている。その中でもシェフィールドはどちらかというと過去の名声に負うところが大きいし、ゾーリンゲンは現在も盛んに生産されてはいるが先進的技術を持っているわけではない。刃物の先端技術は関に代表される日本が持っているのだ。
ダイヤモンド・ライク・カーボン・コーティングとは刃にダイヤモンドに似た構造の炭素をコートすることによって表面が非常に硬くなり摩耗を抑えることで切れ味が長く続くという優秀な技術だ。この技術は刃物以外にも使用され、腕時計のチタンなどのケースにダイヤモンド・ライク・カーボンをコートすることで、今まで不可能と思われていた、キズがほとんど付かない時計ケースも完成した。

…というわけで私は初めて国産のフェザーT字カミソリを買ってみた。
T字カミソリは私が少年時代に初めて使った時とはまるで別物のように大きく変貌していた。
一枚だった刃は時代が進むにつれ二枚になり、三枚になり、どんどん増えていった。固定されていたカートリッジヘッドは縦に動き、横に動き自由自在に肌の曲線に追従するようになった。
カミソリの刃は一枚より二枚、二枚より三枚と枚数が多いほど滑らかな剃り味になる。しかし正直な話、四枚から先は五枚や六枚になってもそれほど変わらなくなってくる。
電動シェーバーもそうだが、T字カミソリが利益を出すには本体ではなく、替え刃をたくさん買ってもらう必要がある。なぜなら替え刃一個一個が消費者が考えるよりも高価で利益率が高いからだ。そのため本体価格は手に取りやすいように比較的安く設定してある。替え刃は一枚よりも二枚、二枚よりも三枚以上と刃の数が増すほど当然のごとく高価になる。だからメーカーとしては五枚、六枚と増やしていきたいところだと思うが、私の考えでは三枚で十分、四枚以上はさほど変わらない。だからフェザーの今でも買える三枚刃はとても好感が持てる。それと以前は二~三回使用したら交換していた替え刃も技術の進歩だろう、十回やそこらは平気で使用できるようになった。もちろん多少の切れ味の劣化はあるにしても一般的使用には十分だと思える。

いま日本に来る外国人観光客は競うように日本の包丁を買って帰るという。それもそのはず、ステンレスではない本物のはがねで造られた和包丁の切れ味と刃持ちのよさは外国製の包丁とは次元が違う。それが日本にやってきた各国のシェフの間から口コミで広く知られてきた結果だと思う。
あるブランドを単に知名度があるという安易な理由で選択すると本物の良さには辿り着けないものだ。
ひげそり器も一度本体を買ってしまうと惰性で替え刃を買ってしまい同じメーカーに縛られがちだが、一度立ち止まって見直してみるのも良いと思う。以外に知られていない名品があるかもしれない。