次の日はオプショナルツアーでアメデ灯台へと出かけた。
オプショナルツアーは他にもイル・デ・パン(松島)ツアーなどもあったが、南太平洋のリゾート地に来てまで松の生えた島に行くのも何だかなあ…と思いそちらはやめにした。ただ日本の松島と姉妹観光都市となっており観光地としてはイル・デ・パンの方がメジャーらしい。
アメデ灯台ツアーは本島から近くにあるアメデ島まで船で行ってランチを食べてゆっくり過ごすという半日ツアーだった。
どこまでも透き通った美しい青い海を風を受けながら船で進む。船の後部へ行ってスクリューを覗き込むとソーダ水のようなブルーがかき回されて、通り過ぎた海面に白いすじを残してゆく。
海に描いては消える白い航跡を2人でぼんやりと見ていたが、やがて島が近づいてきて船首へと戻る。
アメデ島は形のよい小さい島で中央に太陽に眩しく輝く真っ白な灯台がまるでキャンドルのように立っていた。その手前には海へと延びる桟橋がかかっている。真っ青な空を背にしたその姿は絵に描きたくなるほど美しく、まるでそのまま絵葉書のようだ。船はほどなく美しく3色に分かれた海を進んでゆっくりと桟橋に接岸した。

島に上陸すると灯台はますます眩しくてリっぱに聳えている。
ガイドの説明によるとナポレオン3世が建設したとのことだが、ということはフランス第二帝政の時代なので19世紀にできたことになる。メンテナンスが行き届いていたのだろう、近くに寄ってもそんなに古いものとは思えなかった。中にも入れるので入ってみることにした。中は急な螺旋階段になっており、はぁはぁ言いながら上まで登ると突然視界が開け南太平洋の景色と足元のアメデ島の海岸線がくっきり見えた。天気も素晴らしかった。
灯台を降りると木立の中に案内された。そこには素朴な木のテーブルが用意されていて横のグリルからはすでにBBQの煙が上がっている。肉や野菜などをしっかり頂いてあとは帰りの出航まで各々自由に過ごす。私たち2人は軽く散歩をした後は木陰にすわって海を眺めながら過ごした。ちょっとぬるくなったペットボトルの水をのどに流し込むと海面を渡ってきた涼しい風が身体を通り抜ける。2人はとりとめのない話をぽつぽつと続ける。なんて素敵な休日だろう。あらためて幸せを感じた。
そして出航時間が近づくと、私たちは腰を上げ船へと戻っていった。船は来た時と同じように波の穏やかな南太平洋の美しい海を渡って本島へと帰り着いた。

 

話はそれてしまうが、この後も何度か外国に行った経験上気が付いたことがある。
欧米人が企画したツアーにはたとえ半日ツアーであっても必ず食事が付いてくるのだ。人は誰しもお腹が空くと機嫌が悪くなるものだが我々日本人と比較して欧米人は特に激しく不機嫌になるに違いない。日本のツアーでは短い時間であれば食事が付いてなくとも特に不満を感じることもなく、あらかじめ軽食を持っていくなり現地で買って食べたりする。むしろ現地で美味しそうなものを探すことにかえって喜びを感じたりする。
ツアーではなく乗り物の料金システムについて考えてもらえば少し解かりやすいかもしれない。日本の新幹線に代表される特急などの運賃には食事代は含まれていない。たとえグリーン車に乗ったところで飲食は各々勝手にどうぞという姿勢だ。ところが欧米ではもしも一等車で食事が出ないという事になると、二等ではなく一等車に乗っているのに食事が付かないのはどういうことだと不満が出る。乗るのがたとえ数時間でもそれは同じだ。それなりのものをサービスしなければならない。飛行機の料金だともっと解かりやすいかもしれない。飛行機の運賃システムはもともと欧米でスタートしたものを日本でもそのまま踏襲したからだ。国際線は8時間も9時間も乗りっぱなしなので食事が付くのは当然としても2~3時間しか乗らないような国内線でも飲み物やキャンディくらいは配って回る。時に国際線では数時間前に夕食を食べたばかりなのにもう次の朝食のために寝てるのを起こされたりすることがある。何時間も座ってるだけなのにそんなにお腹空かないよという日本人も多いと思うが、きちんきちんと食事させないと怒り出す欧米人も多いんだと思う。

列車に話を戻すと、日本では明治時代の開通当初から長い時間列車に乗る時は自らおにぎりなどの簡単な弁当を持ち込むのが普通だった。そこに駅弁が誕生して発達していくにつれ、各駅で工夫された弁当を買って車内で食べるのが日本人の楽しみとなっていった。こういう歴史が伝統として続いてきた結果、運賃は運賃、食事代はご自分でという文化になったのだろう。
ただ現在では逆の発想で日本の豪華特急は特色のある美味しい食事を出して旅情と共にそれを楽しむというものも出てきている。これは運賃にすべて含めて、その列車に乗らないと味わえない料理を旅の目的に加えたものだ。いかにも美食好きの日本人らしい、やる時は徹底してやる突き抜けた発想だと思う。なぜならヨーロッパで乗った一等車の食事は不味くはないが特に美味しいというわけではなかったからだ。
ただ乗ったことはないけれど超高級な〝オリエント急行〟は料金が料金だけに別物かもしれない。