「京都買います」
脚本佐々木守・監督実相寺昭夫

京都の寺社から人が侵入した形跡もなく仏像が盗まれるという事件が頻発する。
SRIが呼ばれて調査に入るが、盗まれた仏像は偶然の一致なのか大学の藤森教授が研究しているものばかりだった。
牧らは藤森教授の元を訪ね話を訊くことにした。
藤森教授は仏像が消えて残念に思う反面ほっとしているとも言う。
最近の京都の変わりようでは〝仏像が安心して住めない〟からだと。
そこに入ってきた若い女性がいた。藤森教授の助手で須藤美弥子といい、やはり仏像に心奪われているという。
しばらく話を訊いているうちに牧は軽薄な最近の若者とは違い古き良きものを愛する彼女に惹かれていくようになる。

やがて聞き込みを終えるとその場を後にした。

さおりに連れられてゴーゴー喫茶(生バンドやレコードのロック音楽で集まってきた若者たちが踊る店。今でいうクラブみたいなもの)にやってきた牧だったが、その喧騒にうんざりしていた。
その時店内に美弥子を見つける。彼女はその場で踊る若者たちに契約書を見せてはサインを求めていた。契約書には京都の文化財を美弥子に売りますと書かれていた。美弥子に「京都を売って」と何度もせがまれるうちに最初は戸惑っていた彼らも面白半分にサインをするようになっていた。
そして集めた契約書を抱えて美弥子は店を出ていく。
美弥子を追いかけて行った牧はどういうことかと問いただす。すると美弥子は「誰も京都なんて愛してないって証拠です」と答えるとそのまま走り去る。

その後あちこちを巡り、美弥子を探し当てて一緒に京都の街を歩く牧。
「京都の街を買いたい」というのはどういうことですか?という牧の問いに「仏像の美しさが分からない人たちから京の都を買い取って仏像の美しさが分かる人たちだけの都をつくりたい」と美弥子は答える。
学生運動の騒々しいデモ隊が行き交う街を眺めながら今の京都を嘆く美弥子。街を散策し、語り合ううちにやがて牧に心を開いていくようになっていった。

そしてまたも仏像が盗まれる。現場からは無線機のような小さな装置が見つかり、所長の的矢はカドニウム光線を使用した物質電送機ではないかと推理する。物質電送機は人が侵入して持ち出さなくても仏像を別の場所へ移すことができる。

仏像を盗まれた寺には必ず美弥子が訪れているという事実を京都府警が掴んでいると知った牧は美弥子の後をつけ、寺で物質電送機の送信機を取り付けているところを確認する。送信機を持ち帰った牧は町田警部にそれを使って受信機のありかを探すことを提案した。時限装置の設定どおりの時間に仏像が電送された時に藤森教授や美弥子がいる現場に警察やSRIが踏み込んだ。藤森教授は抵抗することもなく逮捕され、〝無知な観光客とスモッグだらけの街〟に戻される仏像を嘆きながら連行される。に戻される仏像を嘆きながら連行される。
美弥子は走り去るが追いかけてきた牧に「仏像以外のものを信用したわたしが悪かった…それだけの事」と言い捨てて去って行った。

後日、美弥子を求めて京都の街を彷徨う牧。
ある寺で美弥子そっくりの尼僧に出会う。「美弥子さん」と呼びかける牧に尼僧は「須藤美弥子は一生仏像とともに暮らすとお伝えしてくれとのことです」と答え顔を背けた。覆せない深い決意にやむなく諦めて帰ろうとした牧はもう一度だけ振り返る。するとそこには美弥子ではなく一体の仏像が…涙していた。

このラストシーンは解釈が分かれると言われている。
現実的に考えると、このシーンは最初から仏像に話しかけていた失意の牧の願望が見せた幻想だった…という解釈がある。
だがそれでは仏像が箒を手にしていたことの説明がつかない。
ここはやはり見たまま素直に、美弥子が仏像に変身したというファンタジーでいいんじゃないだろうか。

何はともあれ牧の哀しくも苦い大人のラブストーリーだった。
このエピソードはまるでウルトラマンの「禁じられた言葉」の設定を借りて大人向けのラブストーリーに作り替えたような興味深い物語となっている。
脚本の佐々木守と実相寺監督は60年代の学生運動に象徴される混乱した喧騒の京都を舞台に、若い世代が新しいものばかりに気を取られて古いものに敬意を払わない世相を鋭く批判していた。
実相寺監督は表現方法として街の喧騒と寺の静寂を交互に持ってくることでコントラストの強い印象的な画面をつくっていた。お得意の明と暗の繰り返しや静かで落ち着いた会話シーンに軽やかなピアノソロの音楽をかぶせ、会話が途絶えるシーンではそれを強調するように無音のブレイクが入る。持てるテクニックを縦横無尽に駆使した実相寺監督のこれは最高傑作ではないだろうか。

ところで「怪奇大作戦」について語った今回のテーマは「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」などに比べると皆さんの興味が薄いようだ。今回のテーマを書くために改めて怪奇大作戦を観なおしてみたら、大人になって特撮のアラも許せるようになり、完璧を求めなくなったせいか、昔思っていた以上にストーリーが面白かった。物語性で言えば円谷プロの一連のドラマシリーズの中でこの怪奇大作戦が一番だろう。ウルトラシリーズが好きな人で、もしこのドラマを知らない人がいたらとてももったいないと思う。そういう方はぜひ!



もうひとつ最後におまけとしてウルトラシリーズではないが成田亨が最後に関わったもうひとつの作品「マイティジャック」についてちょとだけ語りたい。
とはいえ、私はドラマとしての「マイティジャック」を放送当時見ることはなかった。その後もちゃんと観たことはなく、最近になって最初の2~3話を観ただけである。その機会(とき)は残念ながらストーリーが冗長でその先を観たいとは思えなかった。
どうやらその当時世界的に人気が沸騰していた007を筆頭とするスパイ映画やスパイドラマみたいなものを日本で作りたいと考えて作られたようだ。それまでの円谷プロの作品では「サンダーバード」を意識して作られていた出撃シーンが007を意識したもののように変わっている。秘密基地内に移動用の小型モノレール的なものがあったりして相当007である。ただ過去の円谷作品に比べてリアルさが増して映像的には素晴らしい。
さて成田亨のデザインに関してだが、母艦〝マイティ号〟はやはりカッコいい。
「海底軍艦」の〝轟天号〟や「緯度0大作戦」の〝アルファ号〟など東宝SF映画の伝統〝万能戦艦〟の系譜を継いで海上や海中で活動できるばかりか空を飛ぶこともできる夢の軍艦である。ちなみに轟天号に至っては地中を掘りながら進むことすら可能だ。
ただ残念ながらそういった〝万能戦艦〟というモノは現実にはあり得ない。なぜなら乗り物には活動するシチュエーションによって最適な形状が異なるからだ。そういった事は分かったうえで開き直って成田亨もデザインしたと思うが、敢えてツッコませてもらおう。

まず空中ではあの艦体に比して小さめの翼では揚力が少し足りないかなと思う。艦橋の起ちあがりは角度が大きすぎ、翼端の四角い構造物も空気抵抗が大きすぎて設定のような超音速はとても無理。水上ではさらに水の抵抗が増すので逆にあの主翼は全部取っ払わないととても前に進めない。構造物全体がすっぽりと入ってしまう水中ではもっと抵抗が大きくなるのは語るもがな。
…とそういったわけで余計なことは考えず、見た目の造形の美しさだけで捉えると、艦首のトンガリがボリューム感を増していいアクセントになっている。そしてその部分を囲むように配されたストライプ模様。これがウルトラマンに施された模様を連想させて懐かしさを感じる。
そして艦橋は正面から見るとまるで十字架のようでその斬新さがまさに成田亨。艦体の色調もシルバーに所どころアクセントカラーを施してウルトラセブン以来の大人センス。やはり美しい。
一方敵方〝Q〟の万能艦〝ホエール〟もあれでどうして空を飛べるのか不思議だが造形の美しさだけで見るとマッコウクジラを直線で表現した彫刻的な美しさが何とも言えない。艦体に施されたQのシンボルデザインである〝ダダ〟を思わせる縞模様もいい。

他のメカニックのデザインについては成田亨がタッチしているかどうか不明だが〝ピブリダー〟にせよ〝エクゾスカウト〟にせよ〝Q〟の〝フライングスカイラル〟や〝スワロー〟にせよとても美しいと思う。

「マイティジャック」はその内容はともかくとしても成田デザインは最後まで健在だった。