日本語タイトルは「コヤニスカッティ」となっているがどうも正しい発音は「コヤニスカッツィ」のよう。1982年公開のドキュメンタリー映画で監督はゴッドフリー・レッジョ。小劇場での封切りだったが、初めて観た時の衝撃は忘れられない。

 

今ではごく普通に誰もが使っているタイムラプスなどを筆頭にありとあらゆる映像表現が全編にぶち込まれている。たとえば今ではよく見る映像だけどアポロ11号の打ち上げシーン。それまでは遠く離れた場所から11号が白煙を出しながら空へと上がっていき、やがて小さくなって見えなくなる…そんな映像しか見たことなかった。

 

だがコヤニスカッツィで観た映像は11号を間近で下から見上げ、ゆっくり上昇するところを上から見下ろし、クローズアップで巨大物体を横から捉える、何というヘヴィー級の迫力!しかも上昇していく宇宙船本体から何かがバラバラとはがれて落ちる、こりゃいったい何だ?パーツが取れているんじゃないの?だいじょうぶなのか?

 

その当時は知らなかったが液体燃料を使用した巨大ロケットは極低温の燃料のためその表面が凍り付いてしまう。打ち上げ時の巨大な振動で表面の氷がはがれてバラバラとぼたん雪のように舞い落ちていくのだった。

 

他にも先に述べたタイムラプス。駅に入っていく人出ていく人、まるで波のうねりのように人が集まっては散っていき、人が集まっては散っていく。これがフィリップ・グラスの音楽とシンクロして繰り返される。あるいは夜の高速道路。道の片方が白い光、もう片方が赤い光に占められてこれも光の筋が時にゆっくりと時に高速で波打つように繰り返される。耳からはいってくる音楽と合わさってトランス状態に陥りそうになる。

 

その他にも爆薬によるビルの解体シーン。今ではよく見るが、その当時は画面でいったい何が起こっているのか分からず、ショックを受けた。他にもマンハッタンのビル街を撮り続け、夕方から窓にぽつぽつと灯りが点りだんだん増えてピークに。…夜が更けると灯りが少しずつ減っていき、無くなりそうになるとビル街に朝日が差して赤く染まる。この繰り返しが都市の新しい美の演出だった。


それらの光景と対照的にネイティブアメリカンの壁画や神秘的な儀式にグランドキャニオンの壮大な風景などを織り交ぜて構成される映像。我々は現代文明のもたらす美酒を味わっているがこのままでいいのだろうか?自然と語り合い、祈りを捧げながら生活をするネイティブアメリカンの文明に謙虚に教えを学ぶべきではないだろうか?というこの映画のテーマがここに見えてくる。

 

昨今欧米でSDGs(持続可能な生活様式)が声高に叫ばれているが、何も目新しいものではなく、遥か昔のネイティブアメリカンの生き方や江戸時代の日本の何ひとつ無駄のない生活様式がまさにそのものだったということ。 
史上最高の映画10本選ぶとすれば必ずその中に入る1本だ。