ラウンドハウスの設計図については、以前に何度か書いたように、建物中央にあったはずの転車台の箇所が空白になっている。そこは私が作った建物の3Dモデルでも再現できず、現在は円筒形の蓋をしただけで終わっている。

 

 それをどうにか再現する作業を今回から数回にわたり紹介する。

 

 最終的にはCADソフト(Free CAD)を使って3Dモデルで再現するつもりなので、CADに興味がある人には実践的な入門になるかもしれない。またこうした試みには、単にCADソフトの操作法だけでなく、資料の探し方や歴史考証といった多方面からのアプローチが必要なので、そうした手法も同時に役に立つと思う。

 

 

 

 

謎の転車台

 

 ラウンドハウスの設計図では、転車台が収まる空間が直径36フィート(約11m)とある(図1)。またウェブサイト『Engineering Timelines』によれば、転車台を製造した企業がロイズ・フォスター&Coとある。転車台についてわかるのはこれだけ。ちなみにこの企業は保険会社で有名なロイズの一族企業のようだ(だから何だってんだ!)

 

 

(図1)ラウンドハウスの設計図の転車台の位置

 

 おそらくイギリスの鉄道マニアならば、さらに詳しいことがわかるだろうし、日本の鉄道マニアにも何かしら知る人がいるかもしれない。しかしそうした人を探す方法を知らないし、本ブログで今までに何度も訴えてきたがまるで反応はない。

 

 どうやらマニアというものは、どの分野であっても新参者の門外漢が出しゃばるのを嫌うようだ。これは私のライフワークであるロック研究の分野でも散々痛い目に合わされたので身にしみてよくわかるが、非常に残念なことである。こういう態度が研究文化を破壊する。

 

 しかし同時にいえることは、かといってあきらめていては何事もできないということ。そして何より実際にやってみると意外にも多くのことができるということである。これは私が実体験で数々証明した事実でもある。

 

 

 

 

 

設計図を探す


 まず必要なのは、このサイズの転車台の設計図である。しかし調べてみると、このサイズは転車台としてはかなり小さく見つからなかった。

 

 そこでできるだけ同時代最も小さなサイズの設計図を手に入れ、それを36フィートに改造することにした。

 

 すると設計図は意外に容易に見つかった。それは土木学会のホームページ(図2-1)で公開されているもので、明治の初めに日本で使われていたとみられる転車台の設計図3点(図2-2)

 

 

(図2-1)土木学会 土木図書館委員会 図面資料研究小委員会のホームページ

 

 

(図2-2)同ウェブサイトで公開の転車台の図面

土木図書館所蔵 『鉄道工事設計参考図面』

【土木学会 土木図書館委員会 図面資料研究小委員会土木学会】

(左)鉄道工事設計参考図面 定規之部 第二回:第七図 機関車転車台定規

(中)鉄道工事設計参考図面 停車場之部 第十回:第一図 転車台之図(甲号)

(右)鉄道工事設計参考図面 停車場之部 第十回:第二図 転車台之図(乙号)

 

 

 明治初期の日本はまだ製鉄技術が未発達だったため、鉄道資材を輸入に頼っており、その最大の輸入先がイギリスだった。ということはこの3枚の設計図に描かれた転車台は、日本が輸入したイギリス製を実測し図面に起こしたものと想像できる。ラウンドハウスがイギリス初期の鉄道施設であるからには、この設計図を用いてもそれほどかけ離れたものにはならないだろう。
 

 この図面には寸法記載の不備や矛盾、簡略表現が多いので、3Dモデリングに使うには情報が足りない。この穴をどうやって埋めるか。

 

 

 

 

 

現物を見る

 

 そこで考えたのは、もしこの図面と同じ転車台が現存するなら、その観察により図面の穴を補えるのではないかということだ。探してみると日本に3台あることがわかった(図3)。この3台の現物はネット上に画像や動画があるのでそれが利用できる。

 

 

(図3)日本最古の転車台がある場所

※ 美作河井駅(みまさかかわい)は無人駅なので、常時無料で見学できる。

※ 明治村は野外博物館のなので、転車台を見学するには入場料が必要。

※ 津軽中里駅の転車台は駅構内にあり、普段は見学できないがイベントの際に公開される。

 

 

 ただし図面の形で残っているのは美作河井駅の転車台だけのようだ。明治村のものは実際に稼働させるために小型化の改造が施されており、また主に回転機構部に現在のベアリングが利用されているなど、かなり手が加わっている(注1)。また津軽中里駅はイギリス製を手本に日本で作られた可能性がある他、年を重ねて風化し朽ちた部品が目立つ。

 

(注1)参考資料:

ウェブサイト『津山が誇る鉄道文化遺産 ~旧津山機関区 扇形機関庫~ 美作河井駅 転車台の概要』

 

 

 

 

 

次回は、図面の検証とさらに必要な知識について。