今回は、第96回で紹介したドキュメンタリー映像解説の第2回。
The Roundhouse - The People's Palace
(BBC Four)
2016年10月23日初回放送
今回はテロップに注目し、そこから素材となった過去の番組を特定していく。そこには使用されなかったラウンドハウスの映像がある。
なお、前回同様に説明の都合上、本動画を以下『RPP』と略す。
テロップの書体
テロップの書体に注目すると大きく2種類に分かれ、同書体で文字が明瞭なものと、書体がバラバラでぼやけたもの(図1)がある。
(図1)ぼやけたテロップの分類
前者が明瞭な理由は『RPP』制作時の2016年に入れ込まれたためで、当時すでに映像がデジタル撮影だったことによる。書体がすべて同一ということもまたそれを示す。
一方、後者がぼやけた理由は、素材となった過去の番組がフィルム撮影だったためであり、こうした番組をそのまま素材にしたことで、すでに入れ込まれていたテロップも流用されたためだ。書体のバラつきは、少なくともその種類だけ映像素材があることを示す。
テロップの年代
これらのテロップには年代が示されたものがある(図2)。それらは素材映像の撮影年を探る手がかりになる。数えてみると全部で12種類あるが、これは単純に素材映像が12ということではない。
(図2)年号を示したテロップ
たとえば、セルマ・ホルトのテロップ「1976-83」は、あくまで彼女の過去の就任期間を示すだけで撮影時期を示さないし、テロップの書体デザインからみれば1992年の素材とわかる(図3)。
(図3)年号テロップの問題
また「2006」というテロップは2シーンあるが、一方のジェームズ・ブラウンのライブ素材は『BBCエレクトリック・プロムス』で確定、もう一方のイアン・シンクレアのインタビュー素材は別の映像作品である(次回後述)(図3)。
以上を差し引いても『RPP』の素材映像は10種以上とみられる。
特定のむずかしさ
これら素材映像の特定は非常に困難である。
最大の問題は、ここで使用された素材が、特定のドキュメンタリー番組ではなく、日々のニュース番組で使われた短い映像クリップの可能性があること。こうなるともはや一般人の私では調べる術がない。
これは前回(第96回)の3番組にも共通し、前回確定できたものは唯一『New Release』1965年11月10日放送分だった。他2番組は、年代だけがどうにかわかったにすぎない。
今回も同様で、もはやこの特定作業に必要なのは「それを知っていそうな誰か」を探すことになるが、その検索手段すらない。完全に手詰まりである。
こうした場合に行き着く先は大方AIになるが、簡単にいえばAIの回答は「ひどい」を通り越し、想像を絶する最悪レベルである。なんとAIは、存在しない番組情報を、具体的・詳細に捏造し、自信満々に断定して提供するのである(2026年7月現在)。
こうしたAIの回答に対し、さらなる詳細を要求したり矛盾を問い正すと、なんとその段階になって初めてAIは自らの捏造をぬけぬけと自白し、その言い訳として「ハルシネーション」という概念を持ち出す(2026年7月現在)が、その弁明にはまるで説得力がない。なぜなら私たちが検索に求めるものは決して捏造ではなく唯一事実だからで、そもそもこれほど当然のことをあえて説明する必要はない。これが21世紀の最新技術というのだから開いた口が塞がらない。
これでは何の役にも立たないどころか危険でしかない。こうした状況を検索サイトが放置し続ける現状はまさに悪夢である。
1976年の素材映像
こうした中で、今回最初に確定した素材映像は、テロップに「1976」と記されたものだ(図4)。
(図4)1976年の場面
この番組は、BBC2のドキュメンタリー番組『Arena』の「Theatre」回(第96回参照)で、1976年1月21日の放送分である。
特定の鍵は、ジョナサン・ミラー(俳優・演出家)が番組プレゼンター兼インタビュアーを務めていること。この年のイギリス紙のラテ欄(ラジオ・テレビ番組表)を調べると、彼とラウンドハウスの名が同時に登場するドキュメンタリーはこの番組だけだ(※1, 2)。決定的なのは番組趣旨の記載がまさに映像内容そのものだったことである(※2)。
この素材映像は色合いに独特の黄ばみがあるので、ミラーが映っていない箇所も特定しやすい。たとえばピーター・ブルックの演劇『The Ik』の稽古風景もこの番組とみられ、その理由は単に映像の色だけでなく、『The Ik』のラウンドハウス公演時期(1976年1月7日〜2月14日)が、番組の放送時期(1976年1月21日)と重なるからだ(図4)。
この番組のテーマは、まさに劇場としてのラウンドハウスなので、ラウンドハウス研究には貴重な直接資料であり、ぜひとも全編視聴したいところだが、残念ながらBBCのサイトでは現在公開されておらず、たとえ公開されたとしても日本はエリア外なので視聴できない。どうにかフッテージが2点アップされているが、どちらも『RPP』に含まれている。
放送時間は35分(※1, 2)なので、『RPP』で未使用の箇所はまだ多く残されているはずだ。実際にラテ欄には、トレバー・ナンやケネス・タイナンへのインタビューもあったことが書かれている(※2)が、『RPP』にはそのシーンはない。
それでもわずかながら幸運なのは、YouTubeのラウンドハウス公式チャンネルで、この番組の未使用箇所の一部(3分17秒)が公開されていることである。このクリップは非常に貴重な内容で、当時のラウンドハウスの内装がよくわかる(図5)。残念なのはアスペクト比が合っておらず、横長になっていることである(4:3 → 16:9)。
(図5)YouTubeでの『Arena』未公開映像
YouTubeのラウンドハウス公式チャンネル公開分
この映像からわかるのは、当時のギャラリーが現在より高い位置にあったこと、また24本の中間柱が黄色に彩色されていたことである。
この1976年は、60年代からの悲願だったラウンドハウスの改築が完了した1年後にあたる。おそらくそれを記念し制作されたのがこの番組だろう。
(※1)Sunday Times 1976_0118_p.52
(※2)Daily Telegraph 1976年1月21日, p29





