今回は本シリーズのまとめとして、募金ポスター画像群の撮影順を整理する。
その前に、前回までの画像(Mirrorpix、Alamy、Shutterstock)以外の5点を解説する。これらは時期特定の材料に乏しく、またキャプションを疑う材料もないので、暫定的にキャプションどおりとみなす。
車窓からの画像
これは現在のラウンドハウスの公式ページに掲載されたもので、2016年の開館50周年記念の記事群に掲載されている(図1)。
(図1)車窓からの画像
キャプションには、撮影者としてジョン・「ホッピー」・ホプキンズの名前があり、また画像のタイトルとして「Raising funds for the Roundhouse」とあるが、肝心の撮影日時はない。
ホプキンズの経歴(報道カメラマンや、コミュニティ・アートの仕掛け人等)からすれば、ラウンドハウスと密接な関係にあることは確かで、そうである以上、この画像は募金ポスターの掲示直後に思える。しかしポスターの具体的な掲示時期がわからないので、時期の特定はむずかしい。
1964年を振り返ると、ラウンドハウスを取得した団体、センター42は7月16日に劇場施設への改築を大々的に発表し、その日ラウンドハウスには、政界、財界、マスコミ関係者400人が集まった(※1, 2, 3, 4, 5)。おそらくそこにホプキンズもいただろう。
もし募金ポスターがこの時に掲示されたのなら、本画像はこの日かもしれない。そうでないにしても、掲示から早い段階での撮影ということは明らかで、それはポスターの余白に、その後にみられるひどい汚れが一切ないことからわかる。これが本画像の撮影時期を予想する始端となる。
一方で終端は、ホプキンズの経歴から推測できる。彼は1967年6月に9ヶ月の禁固刑を宣告(※6)されたので、この服役期間は撮影できない。ここにMirrorpix画像の情報(第88〜90回参照)を加えると、1968年1月24日にはすでにアーチ扉が白く塗られているので、彼が出所する3月以降の撮影はありえない。よって撮影時期は1964年7月〜1967年6月の約3年間となる。
撮影者が著名人のため、さらなる撮影時期の絞り込みは期待できるが、もしそうできるのなら、先述の公式サイトのキャプションに記載されていいはずなので、これが限界かもしれない。
(※1)『Evening Standard』1964年7月16日, p6
(※2)『Daily Herald』1964年7月17日, p3
(※3)『Daily Telegraph』1964年7月17日, p22
(※4)『Guardian』1964年7月17日, p8
(※5)『Times』1964年7月17日, p15
(※6)インターネットサイト『John 'Hoppy' Hopkins Archives』
屋根に人が立つ画像
これは画像配信サイトgettyimagesで配信されているもの(図2)。
(図2)屋根に人が立つ画像
キャプションには明確な日付として1967年8月15日とあり、撮影者としてマイク・バーンズの名がある。他の同日撮影のバリエーションはなく(直後あるいは直前にシャッターを切った同アングルの1点はある)、また画像内容からは、夕刻に撮影したことくらいしかわからず(影の方向と長さ)撮影日のヒントは見当たらない。
このマイク・バーンズをネットやAIで検索したのだが要領を得ず、ようやく同世代のモータースポーツ写真家に同姓同名の人物がヒットしたものの、同一人物かわからない。その人物の作品紹介サイトもあるがヒントはなかった。
ただしgettyimages内には、マイク・バーンズの画像で、ラウンドハウス以外を写したものが多数ヒットし、それらはほぼ1960〜70年代に撮影されたモノクロ画像で、芸能人から政治家まで幅広い被写体からみて、報道写真家としてかなり活躍していたことは確かだ。
もし本画像が当時の新聞や雑誌で使用されたのであれば、それを見つけることで撮影時期が特定できるが、少なくともイギリスの高級日刊新聞等、日本で調査可能な7紙には見つからなかった。
こうなるとgettyimagesのキャプションを暫定的に信じるしかない。
フォギーでかすむ画像
以下の画像は『解放の弁証論会議』を扱ったサイトからかつて入手したものだが、残念ながら現在URLがわからず追跡調査できなかった(図3)。
(図3)フォギーでかすむ画像
この画像はオリジナルの画像をフォギー・フィルターで加工していることや、解像度が低いこともあり、映り込んだ内容の詳細はわからない。ただし建物西側(画像右側)のビルボードをみると、第87回で先述した映像のキャプチャと同一なので、同時期の撮影であることは間違いない(図3)。
よって撮影時期は1967年7月15〜30日となる。
北西からみた画像
以下の画像は、ケンティッシュ・タウン(カムデン区)の情報サイト掲載のもの。キャプションをみると、元々は行政機関カムデン区(Camden Council)の画像であり、撮影時期は1967年とある(図4)。
(図4)北西からみた画像
この画像ではアーチ扉がビルボードに隠されて見えないが、募金ポスターが確認できることと、屋根に足場が設置されていない(第87回参照)ことから、扉が木目の状態の時期、つまり1967年以前とみられ、先のクレジットは正しいようだ(図4, 5)。
この画像からは、わずかに自動車のナンバープレートを2点読み取れたが、5〜6ケタの旧システムのナンバー(第90回参照)なので、製造・登録年はわからず、ヒントにできなかった(図5)。
(図5)ポスターとナンバープレート
道行く人の服装に注目すると、男性はジャケット姿で、女性は半袖であることから、少なくとも冬ではない。春か秋と思われるが、解像度が低いため詳細はわからない。影は真下にきているので時間は正午前後だろう。
本物のドアーズの公演時の画像
ここで紹介するのは、第92回のいわゆる「偽ドアーズ画像」ではなく、ラウンドハウスの公式ページに掲載された画像のことで、2016年の開館50周年記念記事のもの(図6)。
(図6)ドアーズの公演時の画像
あくまでこの画像直下のキャプション自体には、ドアーズ公演を示すものはないが、掲載ページのテーマが1968年9月6〜7日であり、記事内容や全12枚の掲載画像の多くに、当日の撮影を示すものが写り込んでいることからすると、すべての画像が公演当日とみていいように思う。
記事の筆者と撮影者は同一でジョス・マリンガーであり、文末には「観客兼写真家」とあることから、熱心なロックファンと思われ、以上の情報には信憑性がある。
本画像内の人物は多数の若者で、エントランス階段に座り込む様子はもちろん、歩道に列をなしていることからみても、このイベントが若者向けで、しかも人気イベントだったことは間違いなく、彼らの服装からみて春か秋の比較的暖かい時期であり、ドアーズ公演の日付と矛盾しない。
(図7)ドアーズの公演時の画像
撮影順と内容
以上、本連載の全調査結果から、募金ポスター画像全9点の撮影時期を図7に示す(フォギーにかすむ画像は③に集約)。
(図7)
いうまでもないが、以上はあくまで暫定的なものである。無名の素人である私個人が、現地から遠く離れた場所にいながら、少ない資料を可能なかぎり調べた結果にすぎないが、そうであってもこれだけの結果を得られることに注目してほしい。
逆にいえば、少なくとも日本のメディア関係者や自称専門家が、調査することなく、主観や想像や噂話により誤りを広め、その誤りを指摘されてすら無視・黙殺に徹することこそ嘲笑や批判に値するだろう。実際に調べた者こそが真実を知るのだ。
それはともかく何か有力な情報、あるいは調査方法をご存知の方がおられたら、ぜひともご教示いただきたい。またこうした研究に関して私で役立つことがあれば、喜んでご協力させていただきたい。








